「気分は下剋上」 森技官の優雅な受難

こうやまみか

62

『じゃ、今のダーリンに飽きた時にさ、同じくらい金回りの良い人紹介してよ。
 公務員の雅さんは薄給じゃん?だからそういう意味ではアテにしてないんだけど……』
 「飽きた」とか言ってはいるものの、美樹にとってはパトロンだし、俺が知る限り今が最も良いマンションとかに住んでいる。
 以前のナンバー2を嵌めるという「ささやかな企み」の時は極貧だったのでお金で解決した。
 ただ、人間は一度豊かな暮らしを覚えてしまうと元の暮らしに戻りたくないと思ってしまう習性めいたものが有るので美樹もタワーマンションとかの暮らしがすっかり気に入って、前のマンションと書いてはいるが死ぬほど壁が薄いような部屋には戻りたくないのだろう。
「今の恋人さんほどお金持ちではないでしょうが、心当たりを探しておきます。製薬会社の社長とかは如何いかがですか?それともやっぱりIT企業とか、ベンチャー企業の方が?」
 FBの機能を使っているのでスマホに映っている美樹の顔がぱあぁぁっという感じで明るくなった。香川教授に似てはいるが、美容整形のせいかどこか造花というか不自然な笑顔だった。
『良いね!!製薬会社ってさ、雅さん繋がりだとイチブ上場企業だろう。ほら日経平均とかに影響するような……。ああいう社長さんは所詮サラリーマンだからさ、ITとかの方が良いっ!!
 ウブロの時計とかもバンバン買ってくれそうなのはどう考えてもITとかベンチャー企業のワンマン社長の方だろ?』
 職業上そんなに高価な時計は身に着けられないが、ウブロがかのロレックスよりも高価な時計がたくさんあることはしっていた。それこそ文字盤だけでなく時計の周囲にもダイアモンドが下品な光を放っているようなヤツだ。
 良識とか常識を持ち合わせている――資産的には買おうと思えば楽勝だろうが――香川教授が絶対に選ばないような時計だが、美樹はそういうヒカリモノが大好きだ。「お前はカラスか?」と言いたくなるほど。
 そういえば香川教授は1カラットの指輪を――ただ、4Cと呼ばれるダイアの品質は申し分ない――それはそれは大切にしている。田中先生が初めて贈ってくれた指輪だという理由で。そういう健気さは美樹には到底備わっていないもので、ひどく好ましい。
「分かりました。美樹さんが『飽きた』時のためにご希望に添えるような人を探しておきます」
 今ぱっと思いつく人は居ないが、井藤の精神疾患特有の粘着質の対象が美樹に行ってくれれば、それで事態はかなり好転するのも確かだ。だから成功した暁には財務省の知り合いに羽振りの良い男性を探して貰おう。ま、同性愛者を探すのは……と思った瞬間、割と大きな病院の院長に「そのが有る」人が居たのを思い出した。
 田中先生も同類を探す高性能のセンサーを持ち合わせているが、その彼が俺を動員してまで確かめて欲しいと言ってきたのは広義のセカンドオピニオンなのだろう。
『やった!!じゃ、京都にはいつ行けば良い?』 
 美樹の蝶々に――といっても人工的な部分が含まれているらしいが――似た笑みが画面いっぱいに笑顔で映った。
 そして。
 

コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品