「気分は下剋上」 森技官の優雅な受難

こうやまみか

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 田中先生と話していると、思考方法とか発想の前提になる性格は似ているのでポンポン決められるし、余計な説明はなくて済むので楽と言えば楽だ。
 しかし、俺は駒にする人間に対して最低限度の配慮しかしない。
 それに対して田中先生は行き届いた心遣いをしている。「彼」だって(俺は知り合いだし使い勝手もいいので協力して貰おうか)と思っただけだが、会っても居ない「彼」のことを――俺は当時説明もしたし、料亭での活躍は教授からつぶさに聞いているだろうが――ここまで配慮している。
 そういう点は見習わなければならないなと思った。
 協力者に対する――しかも彼はとても役に立つ人間だ。あの件以外でも彼の美しさを武器に俗に言うハニートラップも仕掛けて成功している。整形だったとは知らなかったがそういうのはバレなければ何の問題もない――きめ細やかで親身な配慮という点で俺はまだまだだなと心の中で苦笑いをしてしまう。
 この話題を振った目的の一つでもある、田中先生の気分転換は予想以上に上手く行ったことにも密かに満足した。
「確かに仰る通りです。一度京都に来て貰って『お見合い』が首尾よく行けば『彼』のパトロンに弁護士を装って名義とかそういうことも解決します。
 井藤の狂気の件ももちろんキチンと伝えます。臨床経験はないとはいえ専攻分野ですし……その点も任せて下さい。
 確かに精神疾患者に対しては正確な知識を元にした特別な配慮を払って接触しないと、一般人よりも後々厄介ですよね。
 その点は私も思い至りませんでした。お教え下さって有難うございます。
 以後気を付けますので、この先もお気づきの点がありましたら遠慮なくご教示下さると幸いです。
 深々と頭を下げたら、田中先生が黒目がちな瞳を真ん丸にしていた。
 俺の「素直」な態度がよほど珍しかったのだろうか。確かに出会い方が悪かったせいで――といってもこれに関しても俺に非が有る――田中先生は最初からケンカ腰だった。
 まあ、恋人の手術ミスのでっち上げ画像を作られて喜ぶ人間など居ないだろうし、怒る方が至極まともな反応だろうが。
 だからついついこちらもケンカ腰な態度や言説を倍返ししてしまったという経緯がある。
 その後も――俺と恋人のことで茶化すような態度を取られたりしたのでついついヒートアップしてしまっていたが、これからは田中先生を怒らせることはやめようと思った。
 軽いジャブ程度は継続する積もりだったが、それは田中先生ほど俺が理想とするようなレスポンスをする人間が居ないせいだ。
 「彼」の件は田中先生と別れてから連絡を取ろう。というのも、一般人にとっては昼休みだが――ちなみに昼食を摂りながら田中先生と話している――彼のような夜型の生活にとっては主観的にまだ夜明け前とか早朝だろうし。
 そして。

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