「気分は下剋上」 森技官の優雅な受難

こうやまみか

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 その女性は国賓を招く外務省、そしてそういうVIPの警護を担当する警察庁とか警視庁のキャリア官僚などが――しかもその国賓待遇の要人達がわざわざ名指しで指名するSPだった。当然そのお金は国民の税金ではなくてご指名した人に金銭的負担も掛かる――そして、要人警護という点で少しでも警察のアラを見つけると「いつ息をしているのだ?」と真剣に悩んでしまうほどのマシンガントークの一斉射撃を浴びせかけて、しかもそれは全てこちらが見落としていた致命的な隙などを的確に衝いてくるとか。
 厚労省ではそもそもそういう国賓待遇のVIPなど呼ばないので直接被害に遭ったわけではないが、島田などは「森でも歯が立たないかもしれない」と真顔で言っていた。
「ああ、マシンガントークの女王様ですね。ウワサは聞いています。凄腕で仕事も気に入ったものしか受けないとか、警備の穴を見つけると機関銃の掃射のように一方的に口でまくし立てられて、それが一々説得力があり過ぎることも相俟って一秒たりとも言い返せないそうですね」
 田中先生は――香川教授の厚労省詣でに付き添って来ることが多いので俺以外にも厚労省の知り合いは居るが他の官庁には居ないので霞が関で「マシンガントークの女王様」というあだ名は知らなかったらしく驚いた表情を浮かべていた。
 ただ、その中にも何だか「納得出来ない」という雰囲気も混入したが。
「彼女が身辺警護を請け負ってくれたのですよね?契約書は交わしましたか?」
 相模所長がおん自ら出張ってくれるのであれば、大船に乗った気分で臨める。
「いや、それが今皇居の晩餐会だかに招かれているVIPの警護が終わり次第駆けつけるということなので、それまでは我々だけで守り切らなければならないのです。あ、契約書は交わしました」
 霞が関にまで異名が轟いているだけ有ってクライアントはひっきりなしなのだろう。島田も一度耳がおかしくなるのではと真剣に思ったほど、甲高い声でマシンガントークの機銃掃射を浴びせかけられて閉口したと桜田門から全然関係のない霞が関の厚労省にまで来て愚痴っていたし、同様のウワサは他にも多数聞いている。
 事務所経営をしているということは、従業員――何でも盗聴器の発見や設置とかPCのハッキングまで――どうやら天下のグーグ○まで手玉に取った凄腕ハッカーだとか実しやかに囁かれている――そういう女性が加わってくれるのは喜ばしい限りだが、今直ぐでないのが痛いところだった。ボランティアでしているわけではない、れっきとした営利事務所なのだから先約先行は当たり前なのだが。
 その時。

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