「気分は下剋上」 森技官の優雅な受難

こうやまみか

23

 俺の恋人は細い身体のどこに入ってしまったのだろうか、ヤケ酒ならぬ自棄ピザは。
 そう真剣に考えてしまうくらいの食べっぷりだった。胃には四次元ポケットでも常備されているのかも知れない。
「……まあ、実際会って話してみるのが一番良いのでしょうが、その辺りは臨機応変に考えます。
 脳外科がどれほど機能しているかとか――どうせ、大学病院『も』医局によっては隠蔽体質がまだまだ残っていますから――医局の雰囲気から探ることにします」
 田中先生の直感を信頼している。
 それが大前提として有った上に、精神科医として「も」恋人を尊敬している。
 その二人が実際に話して得た結論は、俺も物凄く納得出来たので当人へのアプローチよりも外堀から埋めて行く方が最善だろう。
「ああ、それはそうだ。脳外科はクレームも物凄く多いので、そちらも改善すべきだろうな。
 病院のためとは言わないが、オレとかお前の大切な人を守るためにその才能を遺憾なく発揮して欲しい。
 ほら、いつぞやの厚労省のナンバー2の時のように鮮やかな手腕を期待している。
 それはそうと、エッグタルトも美味しいぞ。だから『特別』に分けて……」
 これ以上糖分を摂取したくないのが本音だった。
 メープルシロップの甘味で胸やけを起こしていたので。
「これ以上食べたら、脳が暴走してしまいそうです。ほら、田中先生に指摘されなかったら絶対に行おうと決めていたようなことを仕出かしてしまって良いのですか?」
 俺の恋人の――ベッドの中ではとても可愛いが――こういう点が大変気に入っている。
「それは、病院として困るな……。分かったよ。頼んだのはオレなので責任持って食べる、食べるから、明日にでも田中先生に会った時にはオレがお前を叱ったことにしておいてくれ」
 こういう駆け引きめいた言葉を淡いスミレ色の笑顔を浮かべたままで口に出す俺の恋人は世界一魅力的だと思う。
 惚れた弱みかもしれないが。
 明日は病院長室や脳外科の医局に行く積もりではいた。恋人も含め散々世話になっている香川教授と田中先生の窮地を救うことが出来るのは遣り甲斐の有る仕事だ。そして、香川教授よりもある意味リアリストの田中先生が多数の知り合いの中から俺を選んでくれた点も――本人には絶対言えないのが俺の欠点だとは自覚している――かなり嬉しい。正当な評価を下された気がして。
 俺が認めている相手から認められるほど喜ばしいことはなかったので。
 しかし。

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