元暗殺者の神様だけど、なんか質問ある?
神の孫の手
「とんでもないやつだ……」
「あー。グレッドお、神様に対して、あいつなんて言ったらいけないんだよお」
俺がつい呟いた言葉を、リンクルが諌める。指を立て、ちっちっと舌を鳴らすリンクルは、それでも笑顔を浮かべている。
青い空。白い雲。風にそよぐ草原。
そう、ここは俺がこの世界に来て、初めに立った場所だ。審判の轟雷で砕け散った山が見える。砕け散る前の姿を残している。
「さあさあ、グレッド。今度こそうまくやらなくちゃダメなんだよお。なにしろ、神様がもう一度チャンスをくれたんだからねえ」
とんでもないやつだと呟いたのはこれが理由だ。あのじじい、時間を巻き戻しやがった。そして俺に「諦めるでないぞ」と声をかけ、この場に送り出したのだ。
肉体も元通りだ。ゲパルド配下の騎士たちにやられた記憶が断片的に蘇る。あの時吹き飛んだ手を、俺はぎゅっと握りしめた。
この断片の記憶だけでも相当の苦痛だった事が分かる。リンクルにとどめとしてやられた首切断は覚えていないが、もしかしたら痛くないようにやってくれたのかも知れない。
なんにせよ、好き好んでこんな痛い思いをする理由は俺には無い。現実世界と合わせて二度目の死の記憶が刻まれてしまった。もう二度とこんな思いはしたくない。
「神様だってねえ、時間遡行なんて力は、さすがに大業になるんだよお。すんごいパワーを使うし、消耗だってするんだからあ。ここまでしてもらえる事に、感謝しなくちゃなんだよお」
「知るか。俺はあいつの願いを聞いてやっている立場なんだぞ。それも、文字通り死ぬ思いをしてまでだ。感謝されるのは俺の方だと言いたいね」
「うぐ。正論過ぎるう。普通の人なら、神様の指示に従うのが当然って考えるから、絶対そんなこと言わないのにい。願いを託されて光栄に思うし、めっちゃ誇りに思うものなのにい」
リンクルがきーっと地団駄を踏んでいる。こんな適当に生きていそうなやつなのに、あのじじいに対してはかなり心服しているようだ。似合わねえ。神様にすら舐めた事言いそうなキャラなのに。人も天使もイメージだけで判断してはいけないようだ。
「で、ここからやり直しって事か」
「そうなるねえ。セーブポイントみたいなもんかなあ。今度は次のセーブポイントに辿り着かないと、延々とここから始まる羽目になるかもよお。きゃはははは」
「セーブポイントって……お前、真面目にヤル気あんのか?」
「あたしが神様の勅を不真面目に承けるワケないよお。あたしヤル気あるしい、ちょー真面目な美少女天使って評判だしい」
「どこの評判だよ……」
リンクルの口ぶりだと、天使の口コミサイトでもありそうに聞こえる。あったとして誰に需要があるんだろうとか考えるとアホらしい。俺は自分の頭を小突いた。
「はあ。つーかそんなに世界平和を実現したいなら自分でやれっつーんだよ。なんで人に任せるんだよ、あのじじい」
これは当然の疑問だろう。時間遡行を可能にするほどの力があるのだ。他にも多種多様な凄い力を持っていると考えて良いはずだ。対して、俺は世界を滅ぼす事しか出来ないただの人間なのだ。
……これ、凄く矛盾してる気がするけど……まあ、とにかく世界平和を達するには少々、いや大変支障のあるアンバランスさだ。パラメータやスキルをもっと他に自分で割り振れるようにして欲しい。あのじじいの運営はクソと言われて当然のレベルだろう。
「無理だよお」
リンクルがぷるぷると首を振る。あ、なんか昔飼ってたチワワみたいだ。そういや、死んだら会えるかと期待していたのに、まだ会えてないな。
「何故?」
即座に否定するやつは信用出来ない。ここはもちろん追撃する。
「だってえ、グレッドもうっかり滅ぼしちゃったぐらいなんだからあ」
「ん?」
ああ、世界か。うっかり滅ぼしたとか言われるとグサッと来るが。
「神様が我慢出来るワケないよお。神様、グレッドよりも怒りっぽいもんねえ、実はあ」
「はあ?」
それはつまり?
「人間ってねえ、見てれば見てるほど腹立つ生き物なんだよお。神様はグレッドよりも力加減が下手なのにい、ちょっと天罰下してやろうとか思ったらあ、その度に世界が滅んじゃう。だからグレッドに自分の力を分け与えて代わりにやらせようと考えたんだよねえ。だかあ、グレッドに痒い所を掻かせようとしてるわけでえ、ぶっちゃけ孫の手的なものなんだあ」
「俺は孫の手だったのかよ!?」
衝撃の理由だ。俺のモチベーションはだだ下がりだ。最初から無かったモチベーションなので、一気にマイナス100ポイントくらいにまでは落ち込んだ。ちなみに下限値は100である。
「ま、しかし、そんなもん必要無いか。さっきは試しに審判の轟雷を放ったせいで死亡ルートが確定した。あれさえやらなきゃ平和だろう。少なくとも死ぬ原因の一つは排除出来る。簡単に」
俺はふっと笑って太陽に手をかざした。余裕があった。堅実に情報収集から始めようと戦略も立てていた。だが。
異世界というやつは、そんな簡単なもんじゃなかった。やはりここは異世界なのだ。
俺は、この後それを思い知る事になる。
「あー。グレッドお、神様に対して、あいつなんて言ったらいけないんだよお」
俺がつい呟いた言葉を、リンクルが諌める。指を立て、ちっちっと舌を鳴らすリンクルは、それでも笑顔を浮かべている。
青い空。白い雲。風にそよぐ草原。
そう、ここは俺がこの世界に来て、初めに立った場所だ。審判の轟雷で砕け散った山が見える。砕け散る前の姿を残している。
「さあさあ、グレッド。今度こそうまくやらなくちゃダメなんだよお。なにしろ、神様がもう一度チャンスをくれたんだからねえ」
とんでもないやつだと呟いたのはこれが理由だ。あのじじい、時間を巻き戻しやがった。そして俺に「諦めるでないぞ」と声をかけ、この場に送り出したのだ。
肉体も元通りだ。ゲパルド配下の騎士たちにやられた記憶が断片的に蘇る。あの時吹き飛んだ手を、俺はぎゅっと握りしめた。
この断片の記憶だけでも相当の苦痛だった事が分かる。リンクルにとどめとしてやられた首切断は覚えていないが、もしかしたら痛くないようにやってくれたのかも知れない。
なんにせよ、好き好んでこんな痛い思いをする理由は俺には無い。現実世界と合わせて二度目の死の記憶が刻まれてしまった。もう二度とこんな思いはしたくない。
「神様だってねえ、時間遡行なんて力は、さすがに大業になるんだよお。すんごいパワーを使うし、消耗だってするんだからあ。ここまでしてもらえる事に、感謝しなくちゃなんだよお」
「知るか。俺はあいつの願いを聞いてやっている立場なんだぞ。それも、文字通り死ぬ思いをしてまでだ。感謝されるのは俺の方だと言いたいね」
「うぐ。正論過ぎるう。普通の人なら、神様の指示に従うのが当然って考えるから、絶対そんなこと言わないのにい。願いを託されて光栄に思うし、めっちゃ誇りに思うものなのにい」
リンクルがきーっと地団駄を踏んでいる。こんな適当に生きていそうなやつなのに、あのじじいに対してはかなり心服しているようだ。似合わねえ。神様にすら舐めた事言いそうなキャラなのに。人も天使もイメージだけで判断してはいけないようだ。
「で、ここからやり直しって事か」
「そうなるねえ。セーブポイントみたいなもんかなあ。今度は次のセーブポイントに辿り着かないと、延々とここから始まる羽目になるかもよお。きゃはははは」
「セーブポイントって……お前、真面目にヤル気あんのか?」
「あたしが神様の勅を不真面目に承けるワケないよお。あたしヤル気あるしい、ちょー真面目な美少女天使って評判だしい」
「どこの評判だよ……」
リンクルの口ぶりだと、天使の口コミサイトでもありそうに聞こえる。あったとして誰に需要があるんだろうとか考えるとアホらしい。俺は自分の頭を小突いた。
「はあ。つーかそんなに世界平和を実現したいなら自分でやれっつーんだよ。なんで人に任せるんだよ、あのじじい」
これは当然の疑問だろう。時間遡行を可能にするほどの力があるのだ。他にも多種多様な凄い力を持っていると考えて良いはずだ。対して、俺は世界を滅ぼす事しか出来ないただの人間なのだ。
……これ、凄く矛盾してる気がするけど……まあ、とにかく世界平和を達するには少々、いや大変支障のあるアンバランスさだ。パラメータやスキルをもっと他に自分で割り振れるようにして欲しい。あのじじいの運営はクソと言われて当然のレベルだろう。
「無理だよお」
リンクルがぷるぷると首を振る。あ、なんか昔飼ってたチワワみたいだ。そういや、死んだら会えるかと期待していたのに、まだ会えてないな。
「何故?」
即座に否定するやつは信用出来ない。ここはもちろん追撃する。
「だってえ、グレッドもうっかり滅ぼしちゃったぐらいなんだからあ」
「ん?」
ああ、世界か。うっかり滅ぼしたとか言われるとグサッと来るが。
「神様が我慢出来るワケないよお。神様、グレッドよりも怒りっぽいもんねえ、実はあ」
「はあ?」
それはつまり?
「人間ってねえ、見てれば見てるほど腹立つ生き物なんだよお。神様はグレッドよりも力加減が下手なのにい、ちょっと天罰下してやろうとか思ったらあ、その度に世界が滅んじゃう。だからグレッドに自分の力を分け与えて代わりにやらせようと考えたんだよねえ。だかあ、グレッドに痒い所を掻かせようとしてるわけでえ、ぶっちゃけ孫の手的なものなんだあ」
「俺は孫の手だったのかよ!?」
衝撃の理由だ。俺のモチベーションはだだ下がりだ。最初から無かったモチベーションなので、一気にマイナス100ポイントくらいにまでは落ち込んだ。ちなみに下限値は100である。
「ま、しかし、そんなもん必要無いか。さっきは試しに審判の轟雷を放ったせいで死亡ルートが確定した。あれさえやらなきゃ平和だろう。少なくとも死ぬ原因の一つは排除出来る。簡単に」
俺はふっと笑って太陽に手をかざした。余裕があった。堅実に情報収集から始めようと戦略も立てていた。だが。
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