元暗殺者の神様だけど、なんか質問ある?
神聖騎士ゲパルド・キッペンベルク
ゲパルドは真紅の槍を頭上で振るった。それは真っ赤な火輪を作り出す。ごうごうと燃え盛る炎の火の粉が宙を舞った。
「貴様は本当に憎らしい男だったよ、バッハ・ローダン。品行方正公明正大正義誠実。全く貴様は、およそこの世の善性を余すことなく集約したような人間だったよ」
だった、とは。バッハはまだ生きているが、ゲパルドにとってはすでに過去の人間になっているようだ。
「ゲパルド……」
いまだ火炎に包まれたまま、バッハは膝を折った。もはや立つことは適うまい。タンパク質や脂肪の焼け焦げる臭いが辺りに漂う。何度嗅いでも嫌な臭いだ。
「そんな貴様を見ていて、俺がいつもどう思っていたか、感じていたか。貴様に分かるか?」
「さあ、な」
バッハは剣を放し、まるで忍者のような印を手で結んでいる。なんだ、あの動きは? バッハは、まだ戦うつもりでいる、のか?
「分からんだろうなあ! では言ってやるが、それはもう気持ちが悪い、気色が悪いやつだと思っていたさ! こんな人間がいるものか! 貴様はとんでもない嘘つきだ、とな!」
ゲパルドが槍の切っ先をバッハに向けた。
「雲散霧消!」
バッハが叫んだ。途端、バッハから霧のようなものが噴き出した。凄い濃度だ。視界は一瞬でゼロとなる。それでも赤々とした光が消え去った事は確認できる。バッハは何らかの力を用い、炎を消したのだ。
「甘いわ!」
「ぐぼぅっ」
その霧を斬り裂いて、ゲパルドの槍がバッハの肩を貫いた。穂先が赤く煌めき、再びバッハを炎に囚える。
「ぐう、あああっ!」
バッハがたまらず悲鳴を上げた。
「うわっはははは! 痛いか! 苦しいか! だがな、俺が舐めてきた辛酸に比べれば、そんなものは蛙に小便をかけられたほどにも満たぬ些事よ! 喰らえバッハよ、この俺の、貴様への、積年の、恨みを! 憎しみを! 報いを!」
倒れたバッハを、ゲパルドは上から何度も何度も赤い槍で突き刺した。
「うっわあー、痛そうだねえええ」
リンクルが顔を顰めた。多分俺も、同じような表情をしている事だろう。人の死を見慣れた俺でも、凄惨に映る光景なのだから。
刹那、俺の脳裏に過去が浮かんだ。あれは韓国の戦場だ。そこはなんてことの無い農村で、取り立てて重要な地でも無い。そんな田舎で敵軍の包囲に取り残された俺たちがいた。そこで親友とも呼べる戦友に起こった、悲惨な出来事。運悪く敵に発見された戦友は、巧妙に隠れていた俺の目の前で惨殺された。
「あ、、ぐっ、かは……」
バッハはもう、虫の息だ。その姿が、あの日の親友と重なった。
「グレッドお? どしたのお?」
わなわなと震える俺を、リンクルが覗き込んで来る。もうこいつの間延びした喋りも、何を考えているのか分からない薄ら笑いも気にならない。
「ひーっ、ひゃーっはははは! ひゃあーっはっはっはっはっはあ!」
刺されるがままのバッハは、もう動かない。今度こそ、完全に動きを止めた。ゲパルドは狂気に満ちた笑みを浮かべ、まだバッハを刺し続けた。
「おお! やりましたな、ゲパルド様!」
「おおおお! バッハが! あのバッハ・ローダンが!」
「死んでいる! 倒れている! ゲパルド様の足の下で、死んでいるぞー!」
「うおおおおおお! これぞ好機! 今こそ卑劣なギルハグランの背教徒どもに天の鉄槌を下すべし!」
灰となった砦の向こうから、今度は俺のイメージに似た騎士たちが現れた。若干軽装気味なのは、おそらくこの砦に至る山道ゆえなのだろう。ここには馬で駆け上がれそうにないからだ。
「わっははははは! 時も良し! バッハ頼りで敗北など疑いもしていない愚かなギルハグランの民どもは、呑気に寝込んでいることだろう! 攻めるのならば今しかあるまい!」
ゲパルドが高らかに卑怯な宣言をすると、「おおおおおおお!」と勇壮な鬨の声が湧き起こった。
「あーあ。ギルハグラン教国の歴史は、今夜で終了みたいだねえ。しょうがないしょうがない。きゃはははは、ら、あれ?」
ぽんぽんと俺の肩を叩いたリンクルの手を、俺はばしっとはたき落とした。
「クソが……どいつもこいつも……」
俺はゆらりと立ち上がり、岩陰からゆっくりと進み出た。すると、俺はすぐにプラムローマの騎士に発見された。訝る騎士たちの視線が俺に集中する。もう逃げも隠れも出来ない。
「あららららん?」
尋常ではない俺の様子に、リンクルは頬を引きつらせた。
「貴様は本当に憎らしい男だったよ、バッハ・ローダン。品行方正公明正大正義誠実。全く貴様は、およそこの世の善性を余すことなく集約したような人間だったよ」
だった、とは。バッハはまだ生きているが、ゲパルドにとってはすでに過去の人間になっているようだ。
「ゲパルド……」
いまだ火炎に包まれたまま、バッハは膝を折った。もはや立つことは適うまい。タンパク質や脂肪の焼け焦げる臭いが辺りに漂う。何度嗅いでも嫌な臭いだ。
「そんな貴様を見ていて、俺がいつもどう思っていたか、感じていたか。貴様に分かるか?」
「さあ、な」
バッハは剣を放し、まるで忍者のような印を手で結んでいる。なんだ、あの動きは? バッハは、まだ戦うつもりでいる、のか?
「分からんだろうなあ! では言ってやるが、それはもう気持ちが悪い、気色が悪いやつだと思っていたさ! こんな人間がいるものか! 貴様はとんでもない嘘つきだ、とな!」
ゲパルドが槍の切っ先をバッハに向けた。
「雲散霧消!」
バッハが叫んだ。途端、バッハから霧のようなものが噴き出した。凄い濃度だ。視界は一瞬でゼロとなる。それでも赤々とした光が消え去った事は確認できる。バッハは何らかの力を用い、炎を消したのだ。
「甘いわ!」
「ぐぼぅっ」
その霧を斬り裂いて、ゲパルドの槍がバッハの肩を貫いた。穂先が赤く煌めき、再びバッハを炎に囚える。
「ぐう、あああっ!」
バッハがたまらず悲鳴を上げた。
「うわっはははは! 痛いか! 苦しいか! だがな、俺が舐めてきた辛酸に比べれば、そんなものは蛙に小便をかけられたほどにも満たぬ些事よ! 喰らえバッハよ、この俺の、貴様への、積年の、恨みを! 憎しみを! 報いを!」
倒れたバッハを、ゲパルドは上から何度も何度も赤い槍で突き刺した。
「うっわあー、痛そうだねえええ」
リンクルが顔を顰めた。多分俺も、同じような表情をしている事だろう。人の死を見慣れた俺でも、凄惨に映る光景なのだから。
刹那、俺の脳裏に過去が浮かんだ。あれは韓国の戦場だ。そこはなんてことの無い農村で、取り立てて重要な地でも無い。そんな田舎で敵軍の包囲に取り残された俺たちがいた。そこで親友とも呼べる戦友に起こった、悲惨な出来事。運悪く敵に発見された戦友は、巧妙に隠れていた俺の目の前で惨殺された。
「あ、、ぐっ、かは……」
バッハはもう、虫の息だ。その姿が、あの日の親友と重なった。
「グレッドお? どしたのお?」
わなわなと震える俺を、リンクルが覗き込んで来る。もうこいつの間延びした喋りも、何を考えているのか分からない薄ら笑いも気にならない。
「ひーっ、ひゃーっはははは! ひゃあーっはっはっはっはっはあ!」
刺されるがままのバッハは、もう動かない。今度こそ、完全に動きを止めた。ゲパルドは狂気に満ちた笑みを浮かべ、まだバッハを刺し続けた。
「おお! やりましたな、ゲパルド様!」
「おおおお! バッハが! あのバッハ・ローダンが!」
「死んでいる! 倒れている! ゲパルド様の足の下で、死んでいるぞー!」
「うおおおおおお! これぞ好機! 今こそ卑劣なギルハグランの背教徒どもに天の鉄槌を下すべし!」
灰となった砦の向こうから、今度は俺のイメージに似た騎士たちが現れた。若干軽装気味なのは、おそらくこの砦に至る山道ゆえなのだろう。ここには馬で駆け上がれそうにないからだ。
「わっははははは! 時も良し! バッハ頼りで敗北など疑いもしていない愚かなギルハグランの民どもは、呑気に寝込んでいることだろう! 攻めるのならば今しかあるまい!」
ゲパルドが高らかに卑怯な宣言をすると、「おおおおおおお!」と勇壮な鬨の声が湧き起こった。
「あーあ。ギルハグラン教国の歴史は、今夜で終了みたいだねえ。しょうがないしょうがない。きゃはははは、ら、あれ?」
ぽんぽんと俺の肩を叩いたリンクルの手を、俺はばしっとはたき落とした。
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