元暗殺者の神様だけど、なんか質問ある?
火柱の雨
それは唐突に、何の前触れも無く降り注いだ。砦の中庭、プラムローマ側に背を向けて俺と対峙していたバッハの背に、炎の柱が突き刺さり、体を貫通して地面まで穴を穿った。
「……が、はっ」
バッハは吐血し、前のめりに倒れた。
「……は?」
「あーらら?」
反射的にリンクルを見たが、あいつもぽかんと口を開けている。どうやらリンクルの仕業ではない。
「うお!」
直後、夜が昼になったかのように空が明るく輝いた。バッハを貫いた火の柱が、無数に空へと昇ってゆく。それらは放物線を描き、俺たちのいる方へと落下を開始した。
「ヤバい!」
「きゃははは。逃げろー」
俺はくるりと踵を返し、砦の門へと駆け出した。夕方、バッハに連れてきてもらった山道の方だ。
あんな火の柱を、この粗末な砦が防ぎ切れるとは思えなかったからだ。砦に逃げれば逃げ場を失くして丸焼けになるだけだ。中にはあのうまいメシを供してくれたシェフがいるはずだが……助けに戻る時間は、無い。
「バッハッ……!」
ちらりと見たが、バッハはぴくりともしていなかった。火の柱はバッハを貫いた後、そのまま包み込むようにして燃えている。あれでは助かりようが無い。
俺は正門から出た所にある大岩の陰に飛び込んだ。まずはあの火の柱が着弾した時の爆風を凌がなければならない。ここを離れるのはその後だ。
「すっごーい。火、いっぱいだねえー」
リンクルが俺の隣にちょこんと座り、にこにこと笑った。俺はそんなリンクルに背筋が寒くなり、顔を背けた。
ほどなくして、砦は予想通り業火に巻かれて焼け落ちた。火の回りが速すぎる。どうやら普通の火では無い。
「ふはははは。愚かなり、バッハ・ローダン!」
と、今抜け出してきた砦から、バッハを嘲笑する声が聞こえた。俺は大岩から目だけ出し、声の主を探した。
「まさか貴様ほどの騎士が、聖甲冑を脱いで砦の外にあるとは! 無頼の騎士と呼ばれた怪物も、これでは簡単に殺せると言うものだ! わっははははは!」
声の主は、バッハの着ていたパワードスーツに似た甲冑を装備し、中庭で高らかに笑っていた。ただし、こいつのパワードスーツは漆黒で、ヘルメットは被っていない。倒れているバッハを見下ろす目には、憎しみの炎が宿っている。
「が、くっ!」
「おっ?」
突如、バッハの剣が笑う男に突き出された。が、笑う男はそれを軽やかにかわした。距離が出来た所で、バッハがふらふらと立ち上がった。
「バッ、ハ……!」
馬鹿な。生きているだけでも信じられないのに、剣まで振って、さらに立ち上がるだと? なんて精神力なんだ!
「ゲパルド……」
バッハが剣を構えて笑う男の名を呼んだ。
「おう? ふははは。名を覚えてもらっていたとは光栄だ。そうとも、俺はゲパルド。神聖騎士ゲパルド・キッペンベルクである」
ゲパルドと呼ばれた男は、バッハへと恭しく敬礼した。こいつもバッハと同じ程の年頃だ。黒髪黒目で、バッハと負けず劣らずの端正な顔立ちをしている。
「不意討ちか、騙し討ち、か……いずれにせよ卑劣なり。見損なったぞ、ゲパルド」
バッハは倒れそうになる体を剣で支えてそう吐き出した。かなり頭にきているんだろう。それこそ、死ぬのをやめてしまうくらいに。
「卑劣だとお? ふん、その言葉、そっくりそのまま貴様にお返ししてやろう。あのような雷撃で我が国に甚大な被害をもたらした、ギルハグラン側になあ!」
バッハを指差して弾劾するゲパルドの勢いに、俺は思わず顔を引っ込めていた。そのまま、岩陰で無意識に頭を抱えた。
これは完全に全て俺の責任だ。なんてこった。どうしたらいいんだ、ちくしょうめ!
「にひっ」
そんな俺を、リンクルはにやにやと眺めていた。
「……が、はっ」
バッハは吐血し、前のめりに倒れた。
「……は?」
「あーらら?」
反射的にリンクルを見たが、あいつもぽかんと口を開けている。どうやらリンクルの仕業ではない。
「うお!」
直後、夜が昼になったかのように空が明るく輝いた。バッハを貫いた火の柱が、無数に空へと昇ってゆく。それらは放物線を描き、俺たちのいる方へと落下を開始した。
「ヤバい!」
「きゃははは。逃げろー」
俺はくるりと踵を返し、砦の門へと駆け出した。夕方、バッハに連れてきてもらった山道の方だ。
あんな火の柱を、この粗末な砦が防ぎ切れるとは思えなかったからだ。砦に逃げれば逃げ場を失くして丸焼けになるだけだ。中にはあのうまいメシを供してくれたシェフがいるはずだが……助けに戻る時間は、無い。
「バッハッ……!」
ちらりと見たが、バッハはぴくりともしていなかった。火の柱はバッハを貫いた後、そのまま包み込むようにして燃えている。あれでは助かりようが無い。
俺は正門から出た所にある大岩の陰に飛び込んだ。まずはあの火の柱が着弾した時の爆風を凌がなければならない。ここを離れるのはその後だ。
「すっごーい。火、いっぱいだねえー」
リンクルが俺の隣にちょこんと座り、にこにこと笑った。俺はそんなリンクルに背筋が寒くなり、顔を背けた。
ほどなくして、砦は予想通り業火に巻かれて焼け落ちた。火の回りが速すぎる。どうやら普通の火では無い。
「ふはははは。愚かなり、バッハ・ローダン!」
と、今抜け出してきた砦から、バッハを嘲笑する声が聞こえた。俺は大岩から目だけ出し、声の主を探した。
「まさか貴様ほどの騎士が、聖甲冑を脱いで砦の外にあるとは! 無頼の騎士と呼ばれた怪物も、これでは簡単に殺せると言うものだ! わっははははは!」
声の主は、バッハの着ていたパワードスーツに似た甲冑を装備し、中庭で高らかに笑っていた。ただし、こいつのパワードスーツは漆黒で、ヘルメットは被っていない。倒れているバッハを見下ろす目には、憎しみの炎が宿っている。
「が、くっ!」
「おっ?」
突如、バッハの剣が笑う男に突き出された。が、笑う男はそれを軽やかにかわした。距離が出来た所で、バッハがふらふらと立ち上がった。
「バッ、ハ……!」
馬鹿な。生きているだけでも信じられないのに、剣まで振って、さらに立ち上がるだと? なんて精神力なんだ!
「ゲパルド……」
バッハが剣を構えて笑う男の名を呼んだ。
「おう? ふははは。名を覚えてもらっていたとは光栄だ。そうとも、俺はゲパルド。神聖騎士ゲパルド・キッペンベルクである」
ゲパルドと呼ばれた男は、バッハへと恭しく敬礼した。こいつもバッハと同じ程の年頃だ。黒髪黒目で、バッハと負けず劣らずの端正な顔立ちをしている。
「不意討ちか、騙し討ち、か……いずれにせよ卑劣なり。見損なったぞ、ゲパルド」
バッハは倒れそうになる体を剣で支えてそう吐き出した。かなり頭にきているんだろう。それこそ、死ぬのをやめてしまうくらいに。
「卑劣だとお? ふん、その言葉、そっくりそのまま貴様にお返ししてやろう。あのような雷撃で我が国に甚大な被害をもたらした、ギルハグラン側になあ!」
バッハを指差して弾劾するゲパルドの勢いに、俺は思わず顔を引っ込めていた。そのまま、岩陰で無意識に頭を抱えた。
これは完全に全て俺の責任だ。なんてこった。どうしたらいいんだ、ちくしょうめ!
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