元暗殺者の神様だけど、なんか質問ある?
失言の代償
「正義に、悖る……? きゃはっ。殺し屋さんの正義ってなあに? そんなのあるのお? きゃははははげほごほがへ」
リンクルは俺の言がよほどおかしかったのか、むせるほど笑い出した。テーブルをばんばん叩いて腹を抱え、全身で全力で俺の信念を嘲笑う。
かっちーん。あるよ。あるに決まってんだろ。それが無くて人なんか殺せるかよ。どう言い繕おうが、殺人は殺人だ。それでも殺し、殺さなければならないやつはいるんだよ。誰かがやらなければ、もっと人が死ぬ、或いは想像を絶する不幸に陥る人間が大勢いたんだ。だからと言って、人を殺す事を正当化していいわけは無い。そんな事は分かっているし知っている。この矛盾を、パラドックスをねじ伏せて、俺は血に塗れて生きて来たんだ。
「……ある。少なくとも、俺には、な」
「ほえーん?」
言いたい事は山ほど噴出したが、俺はそれを飲み込んだ。リンクルはそんな俺を訝しげに見て、笑いを収めた。
他人の命を奪い、絶ち、終わらせて来たこの俺が、自身を擁護するなど赦されない。いつ殺されても文句は無いのだ。笑われるくらいはされてやる。
「うむ? どうした、グレッド、リンクル? 急に笑い出したかと思えば、すぐに静かになったり。殺しがどうとか聞こえたが?」
「ああ、いや。何でもない」
「きゃはははは。あのねえ、つまらない誤解で殺したり殺されたりするのって、喜劇だねえって、二人で大笑いしてたんだよお」
「ばっ! リンクル!」
俺は慌ててリンクルの口を手で塞いだ。これが艶やかな美女であれば口で塞いでいたところだが、残念ながらリンクル相手にそんな気は起こらない。
「……おかしいかね?」
バッハが静かにリンクルへと問いかける。
「――!」
途端に、今の今まで優しく柔らかかった食堂内の空気が、息が詰まるほど濃密で重苦しいものに変わっていった。
ヤバい。こういうクソ真面目で良い奴ほど、この手の発言は冗談で済まされない。いや、俺ですら冗談では流せない。戦争だったのだ。仲間も友人も戦友も失っているのかも知れないのだ。それを笑われては、とてもじゃないが笑って許すことなど不可能だ。
その気持ちは、俺にだって良く、分かる――。
「グレッド。彼女は貴殿の妹君か? 恋人か? それとも、妻か?」
「へ? い、いや」
バッハはぐりんと俺に首を向けると、唐突に予想外の質問を浴びせてきた。なんて冷たい視線だよ。目が完全に据わってやがる。俺はこれにどう答えるべきなんだ? リンクルが俺の何なのか、なんて、俺にだって分からねえ!
「あのねえ、グレッドはねえ、あたしのお、ご主人様だよお。あたし、グレッドに仕える天使なのお」
「あ。お、おい!」
けらけらと笑い、さらりとそう答えるリンクルに、俺は動揺するだけだった。なんてこった。この俺が、こんな小娘にいいように振り回されるとは!
「そうか。では」
「いてっ」
バッハは食事前に外し、テーブルに置いておいた革のグローブを俺の胸に投げつけた。
「グレッド。私は、貴殿に決闘を申し込む。下僕の無礼は主人の責。我が同胞たちを笑った非礼は、その命によって贖ってもらわなければならない」
「な、にいいいいい!?」
マジかよ! もしかしてとは思ったが、決闘の作法だったのか! こいつ、見た目とは裏腹に、めっちゃくちゃ怒ってやがるぞ!
「あららららあ? まさかこおんな事になるなんてえ。ごめんなちゃい、グレッドお。てへぺろー☆」
リンクルは舌を出して自分の頭をこつんと叩いた。
「お前っ……」
あんまりにも腹が立ちすぎて言葉が出ねえ。誰か、俺にもこいつに叩き付けるグローブをくれえ!
リンクルは俺の言がよほどおかしかったのか、むせるほど笑い出した。テーブルをばんばん叩いて腹を抱え、全身で全力で俺の信念を嘲笑う。
かっちーん。あるよ。あるに決まってんだろ。それが無くて人なんか殺せるかよ。どう言い繕おうが、殺人は殺人だ。それでも殺し、殺さなければならないやつはいるんだよ。誰かがやらなければ、もっと人が死ぬ、或いは想像を絶する不幸に陥る人間が大勢いたんだ。だからと言って、人を殺す事を正当化していいわけは無い。そんな事は分かっているし知っている。この矛盾を、パラドックスをねじ伏せて、俺は血に塗れて生きて来たんだ。
「……ある。少なくとも、俺には、な」
「ほえーん?」
言いたい事は山ほど噴出したが、俺はそれを飲み込んだ。リンクルはそんな俺を訝しげに見て、笑いを収めた。
他人の命を奪い、絶ち、終わらせて来たこの俺が、自身を擁護するなど赦されない。いつ殺されても文句は無いのだ。笑われるくらいはされてやる。
「うむ? どうした、グレッド、リンクル? 急に笑い出したかと思えば、すぐに静かになったり。殺しがどうとか聞こえたが?」
「ああ、いや。何でもない」
「きゃはははは。あのねえ、つまらない誤解で殺したり殺されたりするのって、喜劇だねえって、二人で大笑いしてたんだよお」
「ばっ! リンクル!」
俺は慌ててリンクルの口を手で塞いだ。これが艶やかな美女であれば口で塞いでいたところだが、残念ながらリンクル相手にそんな気は起こらない。
「……おかしいかね?」
バッハが静かにリンクルへと問いかける。
「――!」
途端に、今の今まで優しく柔らかかった食堂内の空気が、息が詰まるほど濃密で重苦しいものに変わっていった。
ヤバい。こういうクソ真面目で良い奴ほど、この手の発言は冗談で済まされない。いや、俺ですら冗談では流せない。戦争だったのだ。仲間も友人も戦友も失っているのかも知れないのだ。それを笑われては、とてもじゃないが笑って許すことなど不可能だ。
その気持ちは、俺にだって良く、分かる――。
「グレッド。彼女は貴殿の妹君か? 恋人か? それとも、妻か?」
「へ? い、いや」
バッハはぐりんと俺に首を向けると、唐突に予想外の質問を浴びせてきた。なんて冷たい視線だよ。目が完全に据わってやがる。俺はこれにどう答えるべきなんだ? リンクルが俺の何なのか、なんて、俺にだって分からねえ!
「あのねえ、グレッドはねえ、あたしのお、ご主人様だよお。あたし、グレッドに仕える天使なのお」
「あ。お、おい!」
けらけらと笑い、さらりとそう答えるリンクルに、俺は動揺するだけだった。なんてこった。この俺が、こんな小娘にいいように振り回されるとは!
「そうか。では」
「いてっ」
バッハは食事前に外し、テーブルに置いておいた革のグローブを俺の胸に投げつけた。
「グレッド。私は、貴殿に決闘を申し込む。下僕の無礼は主人の責。我が同胞たちを笑った非礼は、その命によって贖ってもらわなければならない」
「な、にいいいいい!?」
マジかよ! もしかしてとは思ったが、決闘の作法だったのか! こいつ、見た目とは裏腹に、めっちゃくちゃ怒ってやがるぞ!
「あららららあ? まさかこおんな事になるなんてえ。ごめんなちゃい、グレッドお。てへぺろー☆」
リンクルは舌を出して自分の頭をこつんと叩いた。
「お前っ……」
あんまりにも腹が立ちすぎて言葉が出ねえ。誰か、俺にもこいつに叩き付けるグローブをくれえ!
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