元暗殺者の神様だけど、なんか質問ある?
戦争の火種
リンクルに小声で尋ねた理由は、おれたちがこの山の麓の住人なのに、隣接する国家の名すら知らないのでは怪しまれると考えたからだ。変に怪しまれても得なことは何も無い。
「むぐむぐ。プラムローマ神国っていうのはね、すぐお隣にある国でえ、ここギルハグラン教国とはすっごく仲が悪いんだよお。なんでかっていうと、一言だと信仰の違い、になるのかなあ」
リンクルは俺の意図を汲み取ってくれたようで、同じくひそひそと声をひそめて答えてくれた。少し意外だ。
「……なるほど」
それだけ聞けば、なぜバッハの表情に斜が差したのか憶測出来る。俺の憶測通りであれば、まずいことになるだろう。
「民を導け、か」
これは偶然なのか? ここで俺に何か成せと言うのだろうか? そうだとしても、さすがに性急に過ぎる。現状、俺はただの保護された民間人だ。下手すると不審者。
「ああ、申し訳ない。少し物思いに耽ってしまっていた。貴殿らは何も心配しなくて良いので、心ゆくまで食事を楽しんでくれたまえ」
沈黙していたバッハが、食卓を暗くしている事に気づいたようだ。こいつは気を遣わないと死んでしまう病なのかも知れない。いいやつなのは良く分かった。
「そうしたいところだが、俺は今のあんたの様子に興味が湧いたよ。どうやらあんた、あの雷が自国の仕業と勘違いされるのを恐れているようだな」
「えっ? あ、ああ。隠す事由も無いので正直に肯定するが……あの雷が、またプラムローマ神国との火種になるのではないかと、私は懸念しているのだ」
「また? 以前にも何かあったのか?」
「うむ。3年ほど前になるか。その年は非常に稀な豪雨が各地に被害を及ぼしたのだが、この山を源流とする河川も氾濫してね……麓にあるプラムローマ側国境の街を呑み込み、消滅させてしまったのだ」
そこまで話すと、バッハは沈痛な面持ちで手を組み、祈りを捧げた。
「貴殿は知らぬと見えるので、こちらに越して来てからまだ日が浅いのだな」
「あ? ああ、そうなんだ。俺は少々人付き合いが苦手でね。そう言った話も、あんまり仕入れられないのさ」
「ほう。そうは見えぬが、それは良くない。人は支えあって生きるもの。人付き合いは大事だぞ」
バッハは疑問符を浮かべながらも、俺を心底心配してくれている。すまんな、バッハ。俺は嘘つきなんだよ。
「で? それからどうなったんだ?」
俺は話の先を促した。俺の話をするとボロが出る。話題を逸らしたくもあった。
「うむ。もちろん、れっきとした天災であり、ギルハグランとしては故意では無い。だが」
「プラムローマ側は、それをあんた方の仕業だと? 水の流れを変えたとか」
「そうだ。プラムローマは、それを事実として謝罪と損害賠償を請求してきた。身に覚えの無い我らは、当然拒否する」
「で、武力衝突に突入、か」
「不本意ながら、攻撃されれば反撃するより他に無し。その結果、双方にかなりの被害が出たのだ……」
なんだそれ。人間ってのは、どんな世界でもおんなじような行動をとるものなんだな。戦争の理由なんざ、元を辿れば本当に下らないもんだ。一言謝罪しとけば済んでた事案もいくらでもある。
「半年ほどの会戦で講和停戦はしたが、それ以来プラムローマとの関係は最悪だ。常に一触即発であるから、あの雷はいかにも良くない。また戦争になる可能性は大だろう。……ああ! あの雷さえ! あの雷さえなかったら!」
バッハは感極まったのか、テーブルをバンと叩いて立ち上がり、拳を振り上げて力説した。おおおい、その雷を放った本人の前でそういう事言うのやめてくれえ。心が、心が痛くなるだろう。
「……変なのお。グレッドって、人をたっくさん殺してきた殺し屋さんなんでしょお? なあんでそんなの気にするかなあ?」
何も言っていないのだが、リンクルは俺の気持ちを見抜いたようだ。こいつ、もしかして読心術とか使えるんじゃないだろうな?
「……うるせえ。俺は確かに大勢殺してきたが……」
「うにゅう?」
リンクルが俺を見つめ、小首を傾げた。
「俺は、俺の正義に悖る殺しはしていない」
俺ははっきりと断言した。
「むぐむぐ。プラムローマ神国っていうのはね、すぐお隣にある国でえ、ここギルハグラン教国とはすっごく仲が悪いんだよお。なんでかっていうと、一言だと信仰の違い、になるのかなあ」
リンクルは俺の意図を汲み取ってくれたようで、同じくひそひそと声をひそめて答えてくれた。少し意外だ。
「……なるほど」
それだけ聞けば、なぜバッハの表情に斜が差したのか憶測出来る。俺の憶測通りであれば、まずいことになるだろう。
「民を導け、か」
これは偶然なのか? ここで俺に何か成せと言うのだろうか? そうだとしても、さすがに性急に過ぎる。現状、俺はただの保護された民間人だ。下手すると不審者。
「ああ、申し訳ない。少し物思いに耽ってしまっていた。貴殿らは何も心配しなくて良いので、心ゆくまで食事を楽しんでくれたまえ」
沈黙していたバッハが、食卓を暗くしている事に気づいたようだ。こいつは気を遣わないと死んでしまう病なのかも知れない。いいやつなのは良く分かった。
「そうしたいところだが、俺は今のあんたの様子に興味が湧いたよ。どうやらあんた、あの雷が自国の仕業と勘違いされるのを恐れているようだな」
「えっ? あ、ああ。隠す事由も無いので正直に肯定するが……あの雷が、またプラムローマ神国との火種になるのではないかと、私は懸念しているのだ」
「また? 以前にも何かあったのか?」
「うむ。3年ほど前になるか。その年は非常に稀な豪雨が各地に被害を及ぼしたのだが、この山を源流とする河川も氾濫してね……麓にあるプラムローマ側国境の街を呑み込み、消滅させてしまったのだ」
そこまで話すと、バッハは沈痛な面持ちで手を組み、祈りを捧げた。
「貴殿は知らぬと見えるので、こちらに越して来てからまだ日が浅いのだな」
「あ? ああ、そうなんだ。俺は少々人付き合いが苦手でね。そう言った話も、あんまり仕入れられないのさ」
「ほう。そうは見えぬが、それは良くない。人は支えあって生きるもの。人付き合いは大事だぞ」
バッハは疑問符を浮かべながらも、俺を心底心配してくれている。すまんな、バッハ。俺は嘘つきなんだよ。
「で? それからどうなったんだ?」
俺は話の先を促した。俺の話をするとボロが出る。話題を逸らしたくもあった。
「うむ。もちろん、れっきとした天災であり、ギルハグランとしては故意では無い。だが」
「プラムローマ側は、それをあんた方の仕業だと? 水の流れを変えたとか」
「そうだ。プラムローマは、それを事実として謝罪と損害賠償を請求してきた。身に覚えの無い我らは、当然拒否する」
「で、武力衝突に突入、か」
「不本意ながら、攻撃されれば反撃するより他に無し。その結果、双方にかなりの被害が出たのだ……」
なんだそれ。人間ってのは、どんな世界でもおんなじような行動をとるものなんだな。戦争の理由なんざ、元を辿れば本当に下らないもんだ。一言謝罪しとけば済んでた事案もいくらでもある。
「半年ほどの会戦で講和停戦はしたが、それ以来プラムローマとの関係は最悪だ。常に一触即発であるから、あの雷はいかにも良くない。また戦争になる可能性は大だろう。……ああ! あの雷さえ! あの雷さえなかったら!」
バッハは感極まったのか、テーブルをバンと叩いて立ち上がり、拳を振り上げて力説した。おおおい、その雷を放った本人の前でそういう事言うのやめてくれえ。心が、心が痛くなるだろう。
「……変なのお。グレッドって、人をたっくさん殺してきた殺し屋さんなんでしょお? なあんでそんなの気にするかなあ?」
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「……うるせえ。俺は確かに大勢殺してきたが……」
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