元暗殺者の神様だけど、なんか質問ある?

仁野久洋

天使の会食

 バッハに続いて山道を歩くこと30分ほど。突然開けた場所に出ると、そこには木組みの砦があった。どことなく田舎の校舎に雰囲気が似ている。だが、砦の柵には無数の弓や槍が立て掛けてあったりして、血生臭さも漂う場所だ。

「さあ、入りたまえ」
「ありがとお」
「ああ。お邪魔するよ」

 バッハが木戸を引き開けて砦の中に迎え入れてくれた。さりげなくリンクルを先に案内するあたり、やはり紳士的な男である。

 ところで。

「おい、リンクル」
「ひゃああー。なあにい、グレッド? 耳に息を吹きかけないでよお」

 ちょっと口が耳に近過ぎた。一応内緒で確認したかったのだが、こいつに奇声をあげられては意味がない。仕方ない、少し離そう。

「お前の翼、バッハは気にしてないみたいだな。背中に翼が生えてるのって普通なのか?」
「きゃははは。この世界にだって、こんな人間いないよお。人間は全世界共通の姿をしてるからあ」
「え?」

 それじゃあ、なぜバッハはリンクルを見ても全く驚いていないのか? アホなの?

「えっとお、この翼はねえ、さっきお空に飛んでった魂とかと一緒でえ、見える人にしか見えないものなんだよお」
「ああ、なるほど」

 俺の考えが表情から伝わったのか、リンクルがバッハの名誉を守るべく説明してくれた。やめろよ。そういう哀れんだような目で俺を見るなよ。

「こちらへどうぞ。すぐに何か運ばせるゆえ、ゆっくりとしていてくれたまえ」

 そう大きくもない砦だ。そうこう話しているうちに通路を進み、食堂らしき広間に通された。バッハは長いテーブルの椅子を引き、リンクルに着席を促している。俺は勝手にリンクルの隣に腰掛けた。

 バッハが退室して20分もすると、エプロンと長い帽子を着用した、いかにもコックな太ったおっさんが、ワゴンを押して現れた。

「バッハ隊長から聞いたよ。大変だったみたいだな。ほれ、これでも食べて元気出せ」
「うわあーい、やったあー」

 コックはテーブルに次々と料理を並べてゆく。て、なんだコレまんま中華料理みたいなんだが。これなんかフカヒレスープみたいだ。うまそう。

「お待たせしたね。私も同席させてもらおう」

 バッハが食堂に戻ってきた。パワードスーツのような鎧は脱いできている。どんな服装かと思えば、なんと真紅の生地に金の縁取りがなされた、詰襟の学生服のようなデザインのものだった。そして、やはり純白のマントを羽織り、腰には剣を佩いている。

 こうして見るとやはり若さに似合わぬかなりの威厳がある。それなりの地位にいるのだろう。

 詰襟に輝く紋章は、砦にたはめく旗に描かれているドラゴンのようなものと同じだ。どうやらこれがギルハグラン教国とかいう国の象徴であるらしい。

「わああ、これ美味しいい。これも、これもお」

 バッハが席に着くのを待たず、リンクルはすでに勝手に食事にありついていた。ちょこちょこと動いてぽいぽいと口に放り込んだ食べ物を頬張る様は、どうもリスを連想させる。

「おま、ちょっとは遠慮を」
「はははは。いやいや、そんなに美味しそうに食べてもらえると私も嬉しくなってしまう。なにしろ、料理長と一緒に私も何品か作っているのでね」
「ええっ?」

 バッハは本当に嬉しそうに微笑んでいる。なんだこのイケメンは。これで料理も上手くて偉いくせに気さくないいやつとか完璧過ぎるだろ。この世界だとこれがデフォルトなのか? 

 と一瞬考えたが、俺はすぐに首を振った。それならこんな騎士など必要無いはずだからだ。いいやつばかりであれば、そもそも武力の備えが存在しないのだから。

 そう言えば、日本に存在したとされる縄文人の遺跡には、武器らしき物が無く、戦争をした形跡も見当たらないと聞いた気がする。そんな平和な世界が実在したとなれば驚きだ。

「それにしても凄まじい雷だったね。君たちも見ていたかい?」
「ぶはっ」
「きゃはははは。グレッドきったなあーい」

 不意にバッハに問いかけられ、俺はスープを噴き出した。鼻からもスープを垂らした俺を指差し、リンクルは腹を抱えて笑っている。そういやこいつ殺すの忘れてたわ。

「おっと、スープが気管支にでも入ったかな? これを」
「あ、ありがとう。すまない」

 バッハがすかさずナプキンを差し出してくれた。なんて気の利くやつなんだ。こいつは本当に完璧だな。

「そんなに驚くとは、やはり見ていたんだね。えー、と」

 バッハは俺を呼ぼうとして戸惑っている。そういやまだ名乗ってなかった。

「すまん、まだ名乗っていなかったな。俺はグレイトフル……いや、グレッドだ。よろしく」
「あたしはリンクルう。よろしくねえ」
「ああ、ありがとう、グレッドに、リンクル。なんだったのだろうね、あの雷は? 君たちは何か知らないかな?」
「知らん」

 即答した。この世界の人間はどうか知らないが、俺の感覚では話すと頭のオカシイヤツと断定されて然るべき理由だからだ。

「そうか。私は砦から見ていてね、何事かと慌てて飛び出した所で、君たちと出会ったのだ。幸い吹き飛んだ山は燐国であるプラムローマ神国の領内である為、特に何もする事は無かったが……」

 バッハは腕を組んで神妙な面持ちになった。

「プラムローマ神国?」

 気になった俺は、隣でがふがふと料理をかきこむリンクルに小声で尋ねた。て、とても天使の食べっぷりとは思えんなこいつ。俺の天使へのイメージに謝って欲しい。





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