元暗殺者の神様だけど、なんか質問ある?
バッハの剣
バッハ・ローダンはロックバイターに剣を向けた刹那、少し首を捻り「む?」と唸った。そして俺の方へ振り向いた。
「あの凶獣、なにやら苦しんでいるようだとは思ったのだが、よく見ると喉に何か刺さっている模様。あれは、貴殿の仕業かな?」
「ん? ああ、まあな。武器なんか何も持って無かったからな。喰われるにしても、せめて痛い目を見せてやろうと思ってね」
そう答えた俺に、バッハは「わはははは」と笑うと、
「それは豪気。貴殿は大した人物である。私は貴殿に敬意を表する」
俺に正対し、剣を両手で捧げ持った。どうやらそれが騎士流の敬意の表し方であるらしい。どう応えたものか分からず、俺は「ああ、そりゃどうも」と頭を掻くしか無かった。
「て、おい、んな事している場合じゃねえぞ! 後ろ!」
「ああ。おう」
バッハが見せた隙にロックバイターは食い掛かる。巨大な口と牙が振り向く途中のバッハの肩に食い込もうとした。
「ふん!」
「ギャオオオオ!」
しかし、それをバッハのパワードスーツの左腕に備えられた盾が防いだ。牙を折ったロックバイターが弾け飛ぶ。さっきまでそんな物はなかったはずだが、どうもこの世界の物理法則はおかしいようだ。盾は魔法のように現れたのだから。
「ああ、すまぬなロックバイターよ。いらぬ苦痛を与えたようだ。すぐに楽にしてやるゆえ、赦してくれ」
「キャンッ」
弾け飛んだロックバイターの下に、超速度の踏み込みですかさず潜り込んだバッハは、剣を突き上げた。剣はロックバイターの心臓を正確に貫き、一瞬で絶命に至らしめた。剣は割と普通に見える。細身のロングソードってやつだろう。
「強い……!」
俺は思わず唸っていた。米軍機械化部隊のパワードスーツ演習にも何度か参加したが、こんなに滑らかに動けるやつなどいなかった。このバッハという騎士の鎧は、パワードスーツよりも優秀なのか。
「赦せ、ロックバイター。同胞を守る為、やむを得ぬ事である」
バッハは殺したロックバイターの傍らに跪き、手を胸に当てて謝意を示した。こいつは礼と仁、そして勇を備えている人間であるようだ。どこの世界でも、騎士とはこういうものなのだろうか。まあ、俺のイメージとしての騎士ではあるが。現実の騎士様は、そんないいものでは無かったようだしな。
「あー……リンクルの見せ場があー……」
リンクルも地に膝をつき、がっくりと項垂れている。なんだよ。ロックバイターが死んで喜んでいるのは俺だけなのか?
「ありがとう、バッハ……騎士、様? どう呼んでいいのか分からないが、とりあえず礼を言う」
俺はまだ跪いているバッハの横にしゃがみ、肩をぽんと叩いた。
「礼は不要だ。私は騎士としての義務を果たしたに過ぎぬ」
バッハは言いながらヘルメットを脱いだ。ほう、若いな。金髪碧眼の美公子、ってのがぴったり来る面貌だ。
「して、貴殿らはなぜここに? ここは公地の山林であり、市民の踏み入れが許されておらぬ場だ」
「え?」
俺は返答に窮した。正直に答えて信じてもらえるような文化なのか、それともいきなり無礼斬りされてしまうのか。俺には情報が足ら無さ過ぎた。
「ああー、それはですねえー、あたしたちい、きのこ狩りしてたんですけどお、そしたら道に迷っちゃってえ。せっかく採ったきのこもお、あのロックバイターのせいで全部どこかに落として来ちゃったみたいでえ、もう散々って感じですよおー」
「ほう。それは難儀な事だ。どこからいらしたのかな?」
「あっちい」
「そちらの麓なら、商業都市ベルドラかな? 遠い所だ。どれだけ追い回されたのか?」
「そー、ベルドラのお、3日は逃げ回ってたかなあー」
「ふうむ。流石はロックバイターの口中に飛び込み木を突き刺すほどの豪傑だ。それでは、さぞ空腹である事だろう。街へ戻るのは明日にして、まずは我が屯所で何か胃に入れるがいい」
「いいのおー?」
「人を救うにいいも悪いも無いだろう。遠慮は不要。さあ、ついて来るがいい」
「ありがとうー。じゃあ、ご厚意に甘えてえ。行くよお、グレッド」
「あ? ああ、うむ」
リンクルめ、見事な受け答えだ。アホっぽい喋りとは裏腹に、なかなか使えるやつなんだな。
「今なんか言ったあ、グレッドお? あたしの事、なんか馬鹿にしてた気がしたんだけどお?」
「し、してない」
口に出してないのに、なんて鋭いやつなんだ。俺はリンクルの見方を改めた。
「あの凶獣、なにやら苦しんでいるようだとは思ったのだが、よく見ると喉に何か刺さっている模様。あれは、貴殿の仕業かな?」
「ん? ああ、まあな。武器なんか何も持って無かったからな。喰われるにしても、せめて痛い目を見せてやろうと思ってね」
そう答えた俺に、バッハは「わはははは」と笑うと、
「それは豪気。貴殿は大した人物である。私は貴殿に敬意を表する」
俺に正対し、剣を両手で捧げ持った。どうやらそれが騎士流の敬意の表し方であるらしい。どう応えたものか分からず、俺は「ああ、そりゃどうも」と頭を掻くしか無かった。
「て、おい、んな事している場合じゃねえぞ! 後ろ!」
「ああ。おう」
バッハが見せた隙にロックバイターは食い掛かる。巨大な口と牙が振り向く途中のバッハの肩に食い込もうとした。
「ふん!」
「ギャオオオオ!」
しかし、それをバッハのパワードスーツの左腕に備えられた盾が防いだ。牙を折ったロックバイターが弾け飛ぶ。さっきまでそんな物はなかったはずだが、どうもこの世界の物理法則はおかしいようだ。盾は魔法のように現れたのだから。
「ああ、すまぬなロックバイターよ。いらぬ苦痛を与えたようだ。すぐに楽にしてやるゆえ、赦してくれ」
「キャンッ」
弾け飛んだロックバイターの下に、超速度の踏み込みですかさず潜り込んだバッハは、剣を突き上げた。剣はロックバイターの心臓を正確に貫き、一瞬で絶命に至らしめた。剣は割と普通に見える。細身のロングソードってやつだろう。
「強い……!」
俺は思わず唸っていた。米軍機械化部隊のパワードスーツ演習にも何度か参加したが、こんなに滑らかに動けるやつなどいなかった。このバッハという騎士の鎧は、パワードスーツよりも優秀なのか。
「赦せ、ロックバイター。同胞を守る為、やむを得ぬ事である」
バッハは殺したロックバイターの傍らに跪き、手を胸に当てて謝意を示した。こいつは礼と仁、そして勇を備えている人間であるようだ。どこの世界でも、騎士とはこういうものなのだろうか。まあ、俺のイメージとしての騎士ではあるが。現実の騎士様は、そんないいものでは無かったようだしな。
「あー……リンクルの見せ場があー……」
リンクルも地に膝をつき、がっくりと項垂れている。なんだよ。ロックバイターが死んで喜んでいるのは俺だけなのか?
「ありがとう、バッハ……騎士、様? どう呼んでいいのか分からないが、とりあえず礼を言う」
俺はまだ跪いているバッハの横にしゃがみ、肩をぽんと叩いた。
「礼は不要だ。私は騎士としての義務を果たしたに過ぎぬ」
バッハは言いながらヘルメットを脱いだ。ほう、若いな。金髪碧眼の美公子、ってのがぴったり来る面貌だ。
「して、貴殿らはなぜここに? ここは公地の山林であり、市民の踏み入れが許されておらぬ場だ」
「え?」
俺は返答に窮した。正直に答えて信じてもらえるような文化なのか、それともいきなり無礼斬りされてしまうのか。俺には情報が足ら無さ過ぎた。
「ああー、それはですねえー、あたしたちい、きのこ狩りしてたんですけどお、そしたら道に迷っちゃってえ。せっかく採ったきのこもお、あのロックバイターのせいで全部どこかに落として来ちゃったみたいでえ、もう散々って感じですよおー」
「ほう。それは難儀な事だ。どこからいらしたのかな?」
「あっちい」
「そちらの麓なら、商業都市ベルドラかな? 遠い所だ。どれだけ追い回されたのか?」
「そー、ベルドラのお、3日は逃げ回ってたかなあー」
「ふうむ。流石はロックバイターの口中に飛び込み木を突き刺すほどの豪傑だ。それでは、さぞ空腹である事だろう。街へ戻るのは明日にして、まずは我が屯所で何か胃に入れるがいい」
「いいのおー?」
「人を救うにいいも悪いも無いだろう。遠慮は不要。さあ、ついて来るがいい」
「ありがとうー。じゃあ、ご厚意に甘えてえ。行くよお、グレッド」
「あ? ああ、うむ」
リンクルめ、見事な受け答えだ。アホっぽい喋りとは裏腹に、なかなか使えるやつなんだな。
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