元暗殺者の神様だけど、なんか質問ある?
冷静なる恐怖
ロックバイターと言う見るからに禍々しい獣が、俺へと一直線に突進して来ている。角が真っ直ぐ俺に向けられているので、まずは串刺しにしたいと見える。さて、どうするかと懐に手を入れるも、やはり愛銃は無い。
「あらん? 意外と冷静だねえ。グレッド、怖くないのお?」
リンクルがつまらなさそうに指を咥えた。俺に何を期待していやがるんだ、こいつは。
「怖いに決まっているだろう。だからこそ冷静さを保つのさ。無理矢理にでも」
虚勢など張っても意味は無い。危機回避は状況把握から始めるものだ。従って、まずは自分自身を確認する。それには精神状態も含まれる。
「素直なんだねえ。そんなグレッドには言いにくいんだけどお、あの角を喰らったら間違い無く即死だからあ、ちゃんと避けないとダメなのだあ。グレッドの肉体は、あくまでもただの人なんだからねえ」
「そいつは有り難いアドバイスだ、ありがとよっ!」
俺は横っ飛びで角をかわした。なんて速度だ。あっという間に距離を詰めてきやがる!
「うえ? 凄いい! 今の、よく避けられたねえ!」
リンクルがぱちぱちと手を打った。ロックバイターはそのまま反対側の森まで突っ込み、バキバキと木々を薙ぎ倒して姿を消した。
「一応、それなりの戦闘訓練はしてきたからな。この体の鍛え具合もまあまあなのでなんとかなった」
すぐに立ち上がり、ロックバイターの行方を探る。木が倒れる音は止んだ。やつは今、ようやく勢いを殺し終えた所だろう。そのまま消えてくれれば助かるが……ま、おそらくそれは無い。希望的観測が危険な事は、俺の骨身に染みている。
しかし、次はどうする? 武器は無い。今度もうまくかわせる保証もどこにも無い。ロックバイターに多少なりとも知能があれば、次は角では無く牙で攻撃してくるかも知れない。そうなれば確実に死ぬはずだ。
なぜなら、現実世界の軍用犬ですら、丸腰の人間相手では無敵なのだ。人は、犬には勝てない。ましてや、あんな怪物犬相手では。
死して蘇った数分後にまた死ぬ、なんてシャレにならん。出来れば御免蒙りたいが……そうだ。
「おい、リンクル。さっきのとんでもない力、また使えるのか?」
あの力が使えれば、ちょっと呟くだけであんな犬コロは蒸発する。ただ、使用制限などがあると問題だ。そこは確認しておくべきだろう。
「んあ? 審判の轟雷? 使えるよお」
「良し。ならば勝ったな」
思わず口元が綻ぶ。何度も経験しているが、この生き残る道が見つかった時の嬉しさはたまらないものがある。
だが。
「でもお、そっちに向かって使われるのはまずいなあ」
「何? 何故だ?」
リンクルはいかにも困ったという風に手で顔を覆った。
「いやあ、あのねえ、そっちにはあ、ほら、この国、ギルハグラン教国のお、聖都があるからあ。あんな超破壊神力をあーんな犬コロに使っちゃうとお、一緒に聖都も灰燼と化しちゃうかもお」
「なんだと? では、どうしたらいいんだ?」
正直、そんな聞いたことも無い国の誰が何人死のうとどうでもいいが……。
「え? えっとお……あ、また来たあ。とにかくファイトおー」
「おいっ!」
予想通り、ロックバイターが再び姿を現した。今度は慎重に、じりじりとにじり寄って来る。バカでかい裂けた口から、ぼたぼたと滴り落ちる涎と、ぬめぬめと光る牙は、完全に俺を食物としか見ていない証拠だろう。
「ちいっ!」
俺は近くに落ちていた小ぶりな枝を拾った。こんな物でも無いよりマシだ。犬の唯一最大の弱点をこいつで突ける可能性も残される。
「おや? ふーん? ふふーん?」
俺の背後で、リンクルがにぱっと口を開けていた。
何が嬉しいんだこの野郎。
もういい。こんなやつは知らん。
この犬コロをどうにかしたら、こいつも絶対ぶっ殺す!
そう心に固く誓い、俺はロックバイターに向かって小枝を構えた。
「あらん? 意外と冷静だねえ。グレッド、怖くないのお?」
リンクルがつまらなさそうに指を咥えた。俺に何を期待していやがるんだ、こいつは。
「怖いに決まっているだろう。だからこそ冷静さを保つのさ。無理矢理にでも」
虚勢など張っても意味は無い。危機回避は状況把握から始めるものだ。従って、まずは自分自身を確認する。それには精神状態も含まれる。
「素直なんだねえ。そんなグレッドには言いにくいんだけどお、あの角を喰らったら間違い無く即死だからあ、ちゃんと避けないとダメなのだあ。グレッドの肉体は、あくまでもただの人なんだからねえ」
「そいつは有り難いアドバイスだ、ありがとよっ!」
俺は横っ飛びで角をかわした。なんて速度だ。あっという間に距離を詰めてきやがる!
「うえ? 凄いい! 今の、よく避けられたねえ!」
リンクルがぱちぱちと手を打った。ロックバイターはそのまま反対側の森まで突っ込み、バキバキと木々を薙ぎ倒して姿を消した。
「一応、それなりの戦闘訓練はしてきたからな。この体の鍛え具合もまあまあなのでなんとかなった」
すぐに立ち上がり、ロックバイターの行方を探る。木が倒れる音は止んだ。やつは今、ようやく勢いを殺し終えた所だろう。そのまま消えてくれれば助かるが……ま、おそらくそれは無い。希望的観測が危険な事は、俺の骨身に染みている。
しかし、次はどうする? 武器は無い。今度もうまくかわせる保証もどこにも無い。ロックバイターに多少なりとも知能があれば、次は角では無く牙で攻撃してくるかも知れない。そうなれば確実に死ぬはずだ。
なぜなら、現実世界の軍用犬ですら、丸腰の人間相手では無敵なのだ。人は、犬には勝てない。ましてや、あんな怪物犬相手では。
死して蘇った数分後にまた死ぬ、なんてシャレにならん。出来れば御免蒙りたいが……そうだ。
「おい、リンクル。さっきのとんでもない力、また使えるのか?」
あの力が使えれば、ちょっと呟くだけであんな犬コロは蒸発する。ただ、使用制限などがあると問題だ。そこは確認しておくべきだろう。
「んあ? 審判の轟雷? 使えるよお」
「良し。ならば勝ったな」
思わず口元が綻ぶ。何度も経験しているが、この生き残る道が見つかった時の嬉しさはたまらないものがある。
だが。
「でもお、そっちに向かって使われるのはまずいなあ」
「何? 何故だ?」
リンクルはいかにも困ったという風に手で顔を覆った。
「いやあ、あのねえ、そっちにはあ、ほら、この国、ギルハグラン教国のお、聖都があるからあ。あんな超破壊神力をあーんな犬コロに使っちゃうとお、一緒に聖都も灰燼と化しちゃうかもお」
「なんだと? では、どうしたらいいんだ?」
正直、そんな聞いたことも無い国の誰が何人死のうとどうでもいいが……。
「え? えっとお……あ、また来たあ。とにかくファイトおー」
「おいっ!」
予想通り、ロックバイターが再び姿を現した。今度は慎重に、じりじりとにじり寄って来る。バカでかい裂けた口から、ぼたぼたと滴り落ちる涎と、ぬめぬめと光る牙は、完全に俺を食物としか見ていない証拠だろう。
「ちいっ!」
俺は近くに落ちていた小ぶりな枝を拾った。こんな物でも無いよりマシだ。犬の唯一最大の弱点をこいつで突ける可能性も残される。
「おや? ふーん? ふふーん?」
俺の背後で、リンクルがにぱっと口を開けていた。
何が嬉しいんだこの野郎。
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