勇者様育てます!
勇者様、街を出てまたまたピンチ!
勇者様は勇者様としての修行を真面目に少し真面目にやるようになった。これだけでも大進歩。私の思う立派な勇者様になったらお嫁さんになるというのが効いているのだろうか?
私勢いでなんて事言ってしまったんだろう…… どうして私はこの勇者様にこんなに熱心になって修行を行なっているんだろう?
彼は弱くてズルくて私が思う勇者様とは全然逆のタイプなのに。ほら、私が余所見をするとまたサボろうとしている、まぁそれでも以前よりは大分マシなんだけど。
「勇者様、ライズと魔力の発動の近道として実戦をしてみた方がいいと思います」
「そうか、ならばエルザ相手をしてくれ」
「そ、それがなんですけどね、私どうしても勇者様に手加減をしてしまって…… 殺気すら放てないんです。だから外に出て本物のモンスターに殺気を当てられ勇者様が覚醒するのが1番の近道なのです」
な、なんですと!? また俺にスライムと戦わせる気か!?
誰がスライムと言ったのか? それにスライム程度で何をそんなにビビっているのか…… 天スラ相手にするわけじゃじゃあるまいし。
「エルザはなんでライズと魔力使えるようになったのさ?」
「私の村がモンスターに襲われ、私の父が怪我をして私の母と弟が身動き取れなくなりその時私がみんなを守ろうとモンスターに立ち向かっていった時、私は覚醒していました。その時はまだまだ今みたいに自由自在に使えたり出来なくて日々の鍛錬でここまでになりました」
日々の鍛錬と聞いてヨハンはまたクラっときた。コツコツとか努力とか言う言葉はヨハンは大嫌いであったのだ。
力を手に入れるならある日突然一気に圧倒的な力をと都合のいい事しか考えられないのである。
大体ヨハンの修行のお陰で魔王討伐がさっぱり進まない。というよりいつまで街にいるんだろう?と読者も思っているかもしれない。
「なんかやっぱり道のりが長すぎて……」
「ほ、ほら!今日頑張ったらお祝いしましょう!」
「お祝い? エルザ何かしてくれんの?(どうせなら結婚してくれ)」
これ程エルザが譲歩してるのにどの口が言うのか……
「え、えーと、じゃあハグします!」
「ハグ?」
「は、はい。ギューッと………… あ、あのダメでしょうか?」
グヘヘへッ、エルザたんとハグ…… あんな所やこんな所に……
なんとチョロい男だろう、エルザとハグという事だけで死地に赴く男ヨハンである。
「よし! ならば行こう! モンスターの巣窟へ」
「は、はい! エルザ勇者様をお守りします」
そしてヨハンらはニルスの街の南東、凶暴なオークやらゴブリンがいる荒野に来ていた。
「ここら辺はどんなモンスターがいるんだ?」
「オークやゴブリン、それにグルードなどですね。気をつけるべきはグルードでしょう、グルードは狩人でもあり気に入った人間の骨をトロフィーにするといいます」
「何その宇宙の狩人みたいな奴……こえぇ、それにゴブリンとはムフフッ」
ゴブリン◯レイヤー的な事を期待しているのだろうか? この作品は全く違うというのに……
「宇宙の狩人とは? ん? 勇者様! 現れました、オークです! 危なくなったら私が助けますので気をつけて下さい!」
「ええ!? まだ心の準備が!」
勇者様はライズも魔法も使えない。だからオークの攻撃をまともに受ければ剣は折れそのまま勇者様は一撃でやられてしまうかもしれない、だから私も気が抜けない。いつでも助けられるようにしておかなければ!
「勇者様! 攻撃は受けてはダメです!全て避けて下さい!」
オークが棍棒を持ってのしのしとヨハンの元に迫る。ヨハンの2倍はありそうな体躯に醜悪な外見、ヨハンはまたも小便をチビりそうになっていた。
「はわわわわわッ」
オークは棍棒を振り上げヨハンに叩きつける、すんでの所でヨハンは回避する。少しはニルスの街でエルザと修行していた効果が出ているようだ。そして予想外にオークの動きが遅い事も幸いした。
遅いと言ってもヨハンにとっては十分速い。動体視力が常人のままではモンスターの攻撃はどれも素早い。だがなんとか攻撃は避けれているようだ。
「こ、この野郎! 人様が攻撃しない事をいい事に!」
ヨハンは一瞬の隙をついてオークのドテッ腹に剣を突き刺そうとした、だがオークの表皮に剣は弾かれる。
「エ、エルザの嘘つき! いい剣だって言ってたじゃないか!」
「ダメです! ライズも魔力も篭っていない攻撃では硬いモンスターにはどんな剣でも傷をつけられません!」
そうこうしているうちに弱いヨハンにもう一匹のオークが迫ってきた。
ああ、もう限界かも。でもエイシェントドラゴン相手にも勇者様は覚醒する事はなかった。もしかしてこの方法では勇者様はダメなの? それともそもそも才能が? ううん! そんな事ない!
仮にもあのドラゴン相手に生き残ってたんだもの! 何かしら勇者様は才能があるはず!
それはエルザの勘違いである事はエルザは知る由もない。
ひえぇぇッ、もう一匹来た! もうダメやん!
波状攻撃を仕掛けられそうになりヨハンはもうダメかと思ったがエルザが駆け付け一瞬でオークを斬り伏せた。
「勇者様、ご無事ですか?」
「こ、怖いよぉ〜!」
情けなく泣き叫びエルザに抱きつく。
「ゆ、勇者様、落ち着いて下さい。もうオークは倒しました。あれ?」
一瞬ヨハンの体が光ったように見えたエルザ。だが気のせいだったのか気付くと何もなかった。
「勇者様、今何かしました?」
「へ? なんかあった? てかもう俺こんな危険な目に合うのは懲り懲りだからな!」
それじゃあ勇者なんてやめてしまえと言いたいがエルザもヨハンには甘いのかではそろそろ帰ろうとしたが気配に気付く。
「勇者様、 気をつけて下さい!この気配、グルードかもしれません。奴等はオークや、ゴブリンとは比べ物になりません!」
「俺、死んだかもな……」
「死なせませんしどんな事があっても命に代えてもお守りします!」
「任せた!」
仮にも女性に全てを任せるヨハン、そんな彼を健気に守ろうとしているエルザもなかなかに滑稽である。
エルザの前方の岩陰から無数の弓矢が放たれる。エルザはそれをかまいたちで迎撃する。そして剣に乗せた烈空斬で岩陰に放つ。
すると無数のグルード達はそれを回避し姿を現した。甲冑で覆われその甲冑に武器を仕込ませている。第2の弓を空中から発射体制に入るがエルザも予想済みだ。
「甘いです、こちらも全方位攻撃はあります。烈空かまいたち!」
エルザは烈空斬を放つと途中で烈空斬が弾けそこからかまいたちの真空の刃がグルードを切りつけバラバラにした。
「すげぇ〜、エルザ。そんな技あるのか」
「烈空斬は威力は高いですが多数相手には向かないですがかまいたちでもグルード相手では致命傷とはいきませんが烈空かまいたちなら烈空斬の威力のままかまいたちを放てます、私は風の魔法くらいしかろくに使えないので編み出した苦肉の技ですが……」
だがグルードはまだまだ現れてくる。弓矢部隊をエルザに接近戦部隊をヨハンに差し向ける。
「勇者様! このまま私は敵を全部引き受けます!ですから勇者様は私の後ろから絶対離れないで下さい!」
ヨハンが後ろにいる事でエルザは接近戦を封じられていた。接近戦で縦横無尽に駆け抜ければいくら敵がいてもエルザなら突破できるのだがお荷物が抱きついているせいで動きにくいのもある。だからエルザは烈空かまいたちで弓矢の部隊も接近戦の部隊も殲滅していく。
だがグルードの他にオーク、ゴブリンの大群も呼び起こしてしまう。360度敵に囲まれ次第にジリ貧になっていく。得意ではない魔法を使い続けているエルザは既に疲れが見えて来ている。
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