勇者様育てます!
勇者様、しっかりして下さい!
エルザに身なりを整えてもらってすっかりナルシスヨハンにバージョンアップしたヨハンはニルスの街の広場にてエルザに風斬りを教わっていたのだが……
「勇者様、誠に失礼ながら勇者様は勇者様です」
「それが?」
「勇者様と戦士はライズバーストと呼ばれる特殊能力、つまり魔法使いや僧侶の魔力に相当する物を持っています。この特性のどちらが高いかで職業が決まります」
「ほぉ、そうなのか」
そうなのかと言うより勇者になったくせにそんな事も知らないで今まで旅をしていたのかとヨハンの知識の無さは致命的だ。そもそもそんな事言ってる辺りエルザが今説明している能力を使えなさそうな事は伺える。
「は、はい。ライズバーストは肉体の能力を飛躍的に向上させます。我々はライズバーストと魔力、両方体内に生成する事が出来ます。個人差はありますが。魔力でも肉体の能力を向上させる事は出来ますがライズバーストの方が圧倒的に効率が良いのです。故にそちらが高く魔力もそこそこある者が勇者様に、ライズバーストのみなら戦士向き、魔力の方が高いなら魔法使い、僧侶などなどの選択肢があります」
「ほえ〜、いろいろ考えてんだなぁ(ハナクソホジ〜)その割にはエルザって剣で戦った方が強いよな、魔法はあんまり使えなそうだし」
「……そ、それは私が女で勇者様にも戦士にもなれなくて…………」
エルザがあまり触れて欲しくない所を容赦なくついてくるあたり愛しのエルザたんがここまで献身的な性格でなければ嫌われているだろう。
「そ、それで勇者様の戦いをお見受けした所両方使っておられる様子がないのでどうしたものかと……」
でもそれなのにエイシェントドラゴンに襲われていた時無事だったのよね、怪我もしてたしどうやって戦っていたのかしら?
戦ってません、くどいですがエルザを餌にしてました。
「そんで? そのライズなんたらと魔力はどうやって使うのさ?」
「一朝一夕で身につくようなものではありませんので…… 日々の鍛錬というか、まぁ今やっておられるような風斬りの練習のようなもの、それと体力作りは欠かせませんが」
「なんだそりゃ? あー、聞いてたら途方もなくて一気にやる気がなくなってきたわー」
「ええ!? 勇者様!」
ヨハンは剣をポイっと捨てポカンとするエルザを尻目に街の中へ消えてしまった。
え?え? だったらこれから頑張るぞー! とかいうアレじゃないの?勇者様ったらどうしたらやる気を出してくれるんだろう?
今からやる気を出してもヨハンならマシになるまで何年かかる事やら……
あー、ライズなんとか魔力とか聞いてたらさっぱりやる気でんわ、だってそんなの使えないもんね! 大体戦闘はエルザたんに任せるからいいじゃないの。
THE 他力本願! そう、こいつは全く戦う気などないのだ。そしてエルザは下手な勇者より余程強いが僧侶を剣で戦わせるというヨハンの不甲斐なさ。
そぉいやここの街結構デカいからギャンブルでもしてくっかぁ、金はエルザたんから払って貰えばいいし。
そして目星そうな賭場を見つけた。厳ついガラの悪そうなおっさん達が沢山いた。
うわぁ〜、むさ苦しい所だなぁ。だが俺の勘がビンビンいってる。ここだと! ザワザワザワザワ、どこかで聞いた事があるような感覚に陥る。
フフ、俺の実力を見せつけてやるか…… 
すると1人そんな所に似つかわしくないような綺麗な長い黒髪のこれまた見た目麗しい少女がいた。
「あはははッ! またあたしの勝ちぃ〜!おじさん達残念でしたぁ!」
「この野郎! イカサマだ! 」
「証拠は? まぁ仮にイカサマだったとしても見抜けないようじゃ最初からあたしに勝てるはずないよねぇ」
おっさんが怒りその少女の胸ぐらを掴もうとすると少女は目にも留まらぬ速さでおっさんの腕を掴み地面に叩きつけ捩じり上げた。
「おじさぁん、最後の手段で暴力に訴えるならあたしもそれなりな事しちゃうけど? 折っちゃおうかなぁ〜、こんな悪い腕は」
「た、頼む! 俺が悪かった! だから許してくれ!?」
「じゃあ最初から大人しく負けてればいいんだよッ」
少女はおっさんの顔面を蹴飛ばしそのままおっさんは気絶してしまった。
こえぇぇ〜、超可愛いのに超こえぇ…… 
さしものエルザたんがヴィーナスの様な天使ならこちらは小悪魔といった所か。俺より年下そうなのに。
ふと、その少女がビビっているヨハンを見た。 するとニコッとしてこちらに駆け寄ってきた。 今のやり取りを見ていたヨハンは後ずさる。
「あれあれぇ? こんなむさ苦しい所になかなかいい感じのお兄さんが居るなんて! ねぇねぇ、あたしと何か勝負しない? だからここに来たんでしょう?」
「フッ、やめとけ。痛い目見るぞ?(俺が)」
「へぇ〜、自信満々じゃん! じゃあ決定! お兄さんが勝ったらあたしなんでも言う事聞いてあげるよ! それに今まで勝ったお金もあげる、だけど私が勝ったらお兄さんの有り金みんな頂いちゃいまーす! 勿論賭け金なんて通り越してね」
嘘やろ!? なんか勝負する流れになってんだけど!? いやぁあああああ!
結果は…… お分かりの通り、ヨハンは大敗を喫した。こんな所で厳ついおっさん達から金を巻き上げる少女に浅慮すぎるヨハンが敵う道理などなかった。見事にカモにされてしまったのであった。
「さてと! お兄さん、見た感じお金持ってそうだからあたしが勝負してあげたけど。じゃあ払って?」
「ええと、実はこれだけしかないのですが……」
情けない、実に情けないヨハンはエルザから貰ったお小遣いをちょこんとテーブルに置いた。その瞬間少女は見る見るうちに表情が歪んでいくのがわかった。
「フフ、お兄さん。勝負を受けて負けて出すものも出せないんじゃどうなるかわかってるよねぇ?」
少女はテーブルに金を差し出したヨハンの腕を掴み手を広げさせた。そしておもむろに懐からナイフを取り出しヨハンの指の間にナイフをつき刺す。
つき刺す時僅かに指に擦りヨハンの指から血が滴り落ちる。
「あっ!いっけなぁ〜い、つい狙いが狂っちゃったぁ。私下手くそだからなぁ、あははは」
「ひいぃぃぃ〜、やめてくれぇ〜!俺の体を傷物にしたらお婿さんに行けなくなっちゃう!お金は後で来るから!(エルザたん)」
お前結構余裕あるな……
ガチガチと音を立てて怯えるヨハンに少女は今度は本当に指を貰うね?とナイフを振り落とそうとした瞬間少女は腕を掴まれた。
「え? いったぁ〜い!」
腕を掴まれた少女はあまりの痛みに顔を苦痛で歪ませる。
「ゆ、勇者様……やっと見つけた…」
「エ、エルザ!(俺の財布)」
エルザは少女をそのまま投げ飛ばしヨハンをお姫様抱っこして急いで賭場を出た。
賭場を出て急いでエルザは宿屋へ向かう。そんなエルザはなんだか珍しく怒っているように見えた。部屋へ着きとりあえずエルザはヨハンの指を治した。
「いやぁ、助かったぜエルザ。疲れたから寝よー」
「待って……待って下さい! どうして……どうして修行してくれないんですか!? 私、私勇者様の為に一生懸命……うぅ、ひっぐ、さっきだって勝手に居なくなって危ない目にあって。 そんな事がないように勇者様にも少しは強くなってもらいたいのに! 私は勇者様になれないのに、勇者様は、勇者様は!」
エルザはヨハンの前で初めて泣いた、どうしてヨハンは修行してくれないのだろう? すると息巻いても長続きせず、危ない目にあって自分を心配させてという思いでいっぱいだった。
「勇者様は私の勇者様なんです!私がなりたかった勇者様なんです! だからどんなに弱くても情けなくたって私が勇者様を立派にしてみせます! 私が助けます! だから心配させないで下さい」
エルザはヨハンの胸にもたれ掛かり泣いた。だが一方のヨハンは……
え〜、疲れてんのに泣きつかないでくれよエルザたん。でも愛しのエルザたんが俺の胸で泣いている。これはチャンスではないのか!? 
ヨハンはエルザを抱きしめた。するとエルザがハッと顔をあげる。
「ゆ、勇者様?」
「そうだな、エルザの言う通りだ」
「で、ではもう少し真面目に私と修行してくれますか?」
「……う、ああ」
エルザの眼差しに修行はめんどくせぇとヨハンは目を逸らすがエルザは見逃さなかった。
「な、なら勇者様がもし立派な勇者様になってくれたら……… わ、私勇者様のお嫁さんになります!」
なぬ!? エルザたんが俺の嫁に!? いや、もう半分なった気でいたんだけど。フフ、エルザたんもついにその気になったか。
ド厚かましいにも程があるのだが思い込みやすいヨハンならば仕方がない。
「ならば俺はエルザの言う立派な勇者になってみせよう!」
「はい! 楽しみにしています!」
エルザはヨハンの胸で満面の笑みを浮かべた。
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