勇者様育てます!
勇者様、立派です
エルザが1人部屋を出て行きヨハンがふて寝をしてだいぶ経った頃、夜も更けてすっかり静かになった部屋のドアがガチャっと開いた。
ここは1人部屋なので当然ベッドも1つ。大きめのベッドでヨハンがスヤスヤ寝ているとベッドの片方がモフッと沈みその感触でヨハンは目が覚めた。
なんだ?なんだ!?ひったくりか!?
ヨハンは雑魚のくせに、いや、雑魚の習性なのか小さい音にも反応してすぐ逃げられるような習性が身についていた。なんとも情けない……
すると隣でエルザが寝ていたのだ。朝から晩までダメなヨハンの為にあちこち動いて流石のエルザも疲れたのか風呂にも入らずぐっすりとベッドに横になった瞬間寝てしまった。
なぁんだエルザたんか、脅かしやがって…… 
んん!? これはもしやチャンスなのでは!? 
横にはクゥクゥと可愛い寝息を立てて無防備なエルザが寝ている。その愛らしい顔と来たら…… 普段は気を張っているが今はあどけない年相応の顔になっている。
恐る恐るヨハンはエルザの艶やかな唇に人差し指を触れた。
「ん、んんぅ……」
エルザの反応にビクッとしてヨハンは後ずさる。やる気なのにいざその時になるとビビる思い切りのない男なのである。
「……ん、うん、ゆ、勇者様ぁ。私が立派にしてあげますからねぇ」
寝言でエルザはそう呟いた。 
ふぅ、これはもしやイケるんじゃないか? 
多分今ヨハンの顔はものすごい事になっているだろう、野獣的な意味で。
おほぅ! こんな所にけしからん谷間が…… 全くけしからん!けしからんぞぉ!
けしからんのはヨハンの存在自体だ。
ハフーッ、ハフーッとヨハンの息が荒くなる。そんな荒すぎる息が災いしてエルザが目覚めてしまう。
「う、うわぁっ!?」
「んあ…… ゆ、勇者様? ……………… ハッ! 私、なんて事を! 申し訳ありません、お金が足りなくて同室になったばかりかベッドまで…… わ、私床に寝るので勇者様はこのままお使い下さい!」
「え? あ、いや、その、あれ?」
そもそも金が足りなくなったのもエルザが疲れ果てたのも全てはこの男のせいなのにどこまでも損な性格のエルザである。
そしてまたも欲望を発散出来なかったヨハンはげんなりして眠りにつくのであった。
そして次の日……
ヨハンが目が覚めるとエルザが飲み物を用意していた。
「お目覚めですか? おはようございます勇者様、夜は失礼な真似をして申し訳ありませんでした」
「ふぁ〜、腹減った」
エルザに対しての第一声が腹減った、だがエルザは甲斐甲斐しくその言葉に宿屋から出た朝食をテーブルに並べる。
ヨハンはテーブルに座り微動だにせず全てエルザに任せっきりである、亭主関白かお前は。
「パンが硬い」
「そ、そうですね。ゆ、勇者様、髪の毛まで一緒に食べてますけど?」
「ん? ああ、まったくウザったい」
伸び過ぎた前髪をヨハンは振り払う。出会った時から髪は整えてなくただ伸びただけというあまり気を使ってなさそうなヨハンを見てエルザは思いついた。
「そうだ勇者様、髪を切りませんか?」
「ん〜、そうだな、切りに行くか、邪魔だし」
「あ、あの! ゆ、勇者様さえよろしければ私が切ってもいい……ですか?」
エルザはこう考えていた。
最近お金を使ってばかり、今は昨日のモンスターを狩りに行ってお金の準備は整うと思うけどこういう所から無駄に使わず出来る事はしないと! 
もともと無駄な消費はしないエルザはいつヨハンにお金が掛かるかもと考えての発言だった。もはや主婦の様だぞエルザ……
それに勇者様、元は悪くはなさそうだし髪型ひとつでかっこよくなったりして?
お前らとっとと魔王倒しに行けよ…… 
とヨハンのお陰で無駄な道草と労力を使うエルザであった。
「ふ〜ん、別にいいけどまだ眠いし食ったら更に眠くなった。このまま寝るから適当にやってくれ」
寝て起きたと思えば食べたらまた寝てとこいつは間違いなく魔王を倒すという目的を見失っている、いや、最初からか。
そしてヨハンは椅子に座ったままヨダレを垂らしながら寝てしまった。寝ている時まで見苦しい男だ……
「うふふ、勇者様ったら子供みたい」
エルザもエルザでもうちょっと厳しく接した方がこいつにはいい薬になる事を全く気付かずヨダレを拭いてあげる。散髪の準備してヨハンを見つめる。
せっかくだし…… 私好みの髪型にしちゃえッ!私が仕える勇者様だからいい……よね? 
チョキチョキと軽快なリズムで髪を切っていく。 
ふんふんふーん、そういえば故郷の弟の髪もこんな感じで切ってたなぁ。そうだ、眉毛とかも整えちゃえ!お父さんお母さん今頃元気にしてるかなぁ? 勇者様になるんだって飛び出して来たけど。
そんな調子で切っていくと顔に掛かる吐息がくすぐったくてヨハンが薄眼を開ける。
んん? なんだ?  うおッ!? エルザたんのご尊顔が目の前に! なんだなんだ!?
眉毛を整えているのである。だがヨハンに限ってはそうは思わない。  
も、もしや寝ている俺にキスを!? エルザたんそういう子だったのか? ハッ! まさかこんなシュチュエーションになる為にわざわざ俺の髪を?
勘違いも甚だしい。ヨハンは無意識にエルザに顔を近づけていく。口なんてもうチューする気満々だ。
「ん? ええ? 勇者様!? 起きたんですか!? てか、ち、近い!」
そのまま椅子ごと倒れエルザを押し倒したヨハンは頭から床にぶつかり気絶してしまった。
「いたたた…… あれ? 勇者様、勇者様!」
んん?あれ? 俺どうしたんだっけ? てかエルザたんは?
目を覚ましたヨハンの目の前には鏡が置かれていた。
ん?これ俺か!? 
短くもなく長過ぎもせずセットしたかの様に整えられた髪の毛、そして眉毛も均等に整えられ、芋くさかったヨハンが見違える程にバージョンアップしていた。
フッ、隠れた原石だったか俺は…… 大方イケメンになった俺に恥ずかしくなってエルザたんはどこかに隠れているんだな。
急にナルシスト全開になった変わり身の早いバカ男である。外見は少しまともになったが中身はキモいヨハンはエルザを探して部屋をキョロキョロしていた。
すると部屋のドアが開きエルザが服を持って入ってきた。
「あ、気が付きました? 今新しい勇者様の服を買って来たんですよ、勇者様にあった丈夫で汚れも付きにくくて尚且つ勇者様っぽい服を買ってきました」
「ほう、どれどれ」
何故かキメ顔でエルザに迫る。
「ほえ? ゆ、勇者様?」
「どうだ? なかなかだろ俺?」
キモい、キモすぎるぞヨハン…… 大体なかなかにしたのはエルザだと言うのに最初から自分は凄かったと言いたげだ。
「ゆ、勇者様元は悪くなさそうでしたし差し出がましいようですが私なりにアレンジさせて頂きましたが…… はい!カッコいいです」
言わせてる感バッチリなのだがエルザの言葉に気を良くしたのかヨハンはエルザが買ってきた服に着替え出した。
「あー! 私そっちに行ってますね!」
エルザがいる前なのにズボンを脱ぎ出す無神経さがもうヨハンだ。
そして終わったぞーという声が聞こえたのでエルザが出てくるとそこには出会った頃とは全く違う勇者っぽい勇者(外見だけ)が居た。
「わぁー! 勇者様、立派です! 見違えました」
「だろ? 俺の実力ならこんなもんよ、これで魔王も楽勝だぜ」
アホは簡単に持ち上がった。見た目だけで勝てると思った浅はかなヨハンはやはり勇者(クズ)だった。
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