ViNUfR

えれべすと

1章 極寒の地

さっきまで暑すぎる、暑すぎると頭で嘆いていたのが嘘のようだった。
涼しいとかでは無い。寒い。ただただ寒い、とても寒い、めちゃくちゃ寒い、超寒い。
頭を上げ当たりを見上げると、今僕がいる所は土があったが、すぐ先には氷ばかりの真っ白な地面があった。 雪はあまりないようで、光沢のある地面が、月明かりを反射しキラキラ輝いていた。
僕は見知らぬ極寒の地で目を覚ましたようだった。
そしてすぐ横には、白い毛で覆われた、獣人のようなものが座っていた。
木を燃やして焚き火をし、暖を取っていた。見た目から察するに男性だろう。
「お、起きたか。」
人では無いものが喋るという、怪奇現象を全く疑問に思わないぐらいに、僕は混乱していた。
「えっと、ここどこですか、僕なんでこんなところにいるんですか、あなた誰ですか」 
「おいおい、そんないっぺんに聞かれても分からねえよ。」
冷静な返答に、僕は今まで混乱していた事を初めて理解した。
「まず、ここはどこか、についてだったか?ここはな、"スノーリー"ってんだよ。」
スノーリーというのが地名なのか国なのか、はたまたこの星の名称なのかはわからない。
だが、相手もこの星の名前や国名を知らないなんて事はない、きっと地名について聞いているはず、と思っているだろう。
もう一度、この話について掘り下げてみる。
「えっと、この星の名前はなんて言うのでしょうか」
聞いた途端に「何言ってんだこいつ」みたいな顔された。まあ、当然っちゃ当然か。
「あ?お前、変なこと聞くんだな。寒すぎて頭でもおかしくなったか?んーと、地球。ああ。」
地球。自分が元いた場所と同じ名前だ。しかし、地球にこのような獣人が居るというのはとても信じられない。
いわゆる異世界、という奴なのか。
僕は何故ここにいるのか、謎は深まるばかりだった。
「次は、あー、なんでこんな所にいるのか、だったよな」
「はい」
「お前が何故ここにいるのかは分からねえ。でもな、お前が全裸で氷の上で大の字になって倒れてた時は、あまりのおかしさに笑っちまったぜ!」
え、え?
「あっはは、はは…」
…え、僕、全裸で大の字になって倒れてたの???
うわ、すっごい恥ずかしい。
でもまあ、この人が男の人で良かったよ。
「えっとつぎは、俺は誰か、だったかな」
「はい」
「俺の名前はハロルドってんだ。」
いや、お前の名前を聞きたいわけじゃないんだよ。
いや、聞きたいっちゃ聞きたいけど、それよりも、お前のそのモフモフの毛は何か、という事だ。
「その、毛とか耳とか、きばとかは…」
「あ?そんなの、お前にだってついてんじゃねえか」
そんなことを言いながら、僕の耳をつねってくる。
待って、力が強い、思ったより痛い、ちぎれるちぎれる。でも確かによく考えたら、僕にも毛や耳、牙は怪しいが少なくとも歯がある。
でも言いたいことはそうではない。
「えっとあの、そうじゃなくて」
いい言葉が出てこない。
「ガハハ!分かってるよ。なんで俺が、〝モフモフのしっぽ〟 を持ってるか、だろ?」
間違ってるような、間違っていないような回答に、とても返答に困る。
「でもまさかな。獣人族を知らない奴がいるとは思わなかったぜ。」
「その、獣人族っていっぱいいるんですか?」
「北とか寒い所にはいっぱいいるな」
「僕みたいなのはいるんですか?」
「ああ、いるよ。いっぱいな。」
とりあえず僕みたいな、人間、またはそれに近いものがいると知り、安心した。
「ていうかお前、寒くはないのか?ここは人間もあまり来ないところだぞ」
「はい、めちゃくちゃ寒いです…」
「上着、あるからよ。これでも着とけ」
そういったハロルドは乱暴に僕に上着を投げつけた。
あの、めっちゃ嬉しいんだけど、もっと早く出して欲しかったかな。
「ここ、寒いだろ?良かったら俺ん家来るか?」
少し申し訳ないが、今ここで断ったら間違いなく死ぬので、行かせてもらう事となった。

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