山羊男

激しく補助席希望

# 5 最初の犠牲者:東堂美香子の場合


「呪い…そうよ!コレは呪いなんだ!山羊の悪魔が復活したのよ!!」

 東堂美香子(とうどうみかこ)はついに気付いてしまった。


 自分達がとんでもない事態を引き起こしてしまった事に。


「でも…どうする?山羊の呪いを断ち切る為には…」

 大学の『あの人』達は気付いていない。なら、私が自分で何とかするしかない。そうとも、コレは私の戦いなんだ!呪いの元凶である私が断ち切らねばならない。





「すいませーん。東堂さん居ますか??」





 また、アイツだ。

 でもこの際、頼るしかない。気付かれない様に上手く利用しなければ。

 玄関を開けて、来客の顔を見る。ニヤけた表情が気に入らない。

「あ、東堂さん。またお話聞かせて貰えますか?」

「…いいわ。真実を教えてあげる。でもここじゃダメ。時間指定するから、この前の場所に来てくれる?」

「え?あ、はい…目撃の通報があった廃工場ね?何時にします?」

「夜の9時に来て。いい?真実を見せてあげるんだから、絶対に1人でで来てよ。それじゃ、私はこのまま外に出るから。」

 玄関に施錠して、来客には構わずにせっせと歩き始める。コイツに今は構ってられない。真実を見せるには準備が必要だから。

 しばらく歩き、後ろに誰も付いてきていない事を確認すると、ポケットの中身を出す。



「…まだ反応はない、よし。」



 それは黒くて四角いプラスチックで出来た、何かのリモコンの様な物だった。赤いLEDが縦に3つ付いている。


 それを確認するとその後すぐ様にタクシーを捕まえて乗り込んだ。目的地は数箇所に渡る。今の段階で移動に時間は掛けて居られない。


「私が…やらなくちゃ…」












 東堂さんは慌ててタクシーに乗り込んで行った。そこまでは姿を追えた。しきりに辺りを確認したりしている所を見ると、誰かに尾行されているのだろうか?やはりこの前大学に行って話を聞いた時に感じた違和感。アレは間違い無かったらしい。




 しかも、大学に確認したら退学届けを提出しているとか。なぜ『睡蓮すいれん大学』に苦労して入学した人が、だったの半年間大学の映像サークルに入っただけで退学するなんて考えられない。


 やはり東堂さんには何かある。


 映像サークルにもう1度話を聞きに行くのは怪しまれるかと思って直接聞きに来たのに、その彼女は一方的に時間を指定して、どこかへと行ってしまった。



「彼女の言う真実、とは?」



 手帳にメモを残した。コートに合わせて買ったこの色の手帳カバーを凄く気に入っている。やっぱり警察関係者だからと言って全員が全員黒っぽい服装なんてナンセンスだ。私は私の『カラー』で頑張らなくっちゃ。


「さて、とりあえず今調べるのは…」


 手帳を開き過去を振り返る。現状を整理すれば必ず糸口が見つかる。今までもそうだった。





・学生の失踪事件多発

・紙幣損傷疑いの宗教団体

・遊び場検索アプリ

・映像サークルへの誤通報

・司法機関に対する圧力

・各地に広がる不審者目撃情報






「どうして、この全てが繋がるのが…『山羊』なのかしら。」




 この前映像サークルに言った時に取った写真から切取った、山羊男とか言う映画撮影用のマスクの顔写真を手帳に挟める。写真の裏には『睡蓮大学、映像研究部』と書いておいた。



「…次は、居なくなった東堂さんの妹ね。まずは睡蓮高校辺りで調べるか。」














 一通りの、準備が出来た。






 後は、この廃工場にアイツが来るだけだ。






「…さーん、東堂さーん??」




 来た。コレで終わりにする。



智恵美ちえみ』も戻ってくる。




「待ってたわ。これから今起きている真実をあなたに見せる。大学の件で捜査に来たアナタには知る権利があるものね。」

「えーっと…1つ確認させて貰いたいんですけど、今から見せて…と言うか教えてくれる事は、妹さんの失踪に関わる事なんでしょうか?」


「そ、そうよ。智恵美にも大きく関わっている事なの。だから、こっちに来て。」

「…すいません、捜査の重要な参考になるかも知れませんので、録画もしくは録音させて貰いますけど…」


「いい。なんでもいい。ささ、こっちに来て。」



 ドウセオマエガ、ソレヲ使ウ事ハナイ。



「じゃあ、ちょっと失礼して…」

 小型のアクションカメラをカバンから出し、胸の辺りに取り付ける。



 ソノ動作ヲ待ッテイルノモ、モドカシイ。


「…月…時刻…撮…奥村 楓、場所…」


 奥村を名乗る女の刑事が、カメラに向かって何か話しかけている。記録を撮る為の情報だろうか?


「はい、お待たせしました!では、何を教えてくれるんですか?」


─オマエガタドリ着ケナイ、本当ノ真実ヲ─













「…ですか?大丈夫ですか!?」


 いけない、ふらついてしまったようだ。頭が痛い。


「私の事はいいから。」

「…ここ、かなり薄暗いですけど、それでも東堂さんが顔色悪いの分かりますよ?病院に行きませんか?」


「いいから!!」




 焦りと緊張で大声を出してしまった。ここで失敗する訳には行かない。



「妹の為にも大事な事なの。だから、ついてきて。」

「…わかり…ました。」


 かなり怪訝そうな顔をしている。でも大丈夫。ここさえ潜り抜ければ…


─今度コソ、智恵美ガ帰ッテクル─



 古い冷凍設備の扉を開く。後もう少し…




「ここに、何があるんですか?」


「山羊男の、真実よ。」


「やぎ…なんです?」

「とぼけないでよ。貴女だってそれを探してるんでしょ?その答えがここにあるから。」


「はい?」

「貴女は辿り着いたのよ?おめでとう。」







「何の事で…うわぁ」










 奥村は暗い部屋の中に1歩入り、中の状況を見て声を上げている。






─ガチャン






 後ろの冷凍設備のドアがロックされた事にすら、気が付いていない様子だ。








ゲームオーバー。あなたの負け。


























「ウヒ、ウヒヒヒヒ!
ウヒヒヒヒアハハハハハ!!
ウヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒアハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!」











 …今笑っているのは、私なのだろうか?

 それとも、私の中に目覚めた山羊男なのだろうか?


 コレは現実に聞こえている声なのだろうか?

 それとも、私の耳にしか聞こえていないのだろうか??






 …どうでもいい、智恵美が帰ってくる。後は2人で逃げよう。智恵美さえいればそれでいい。




 遠くから、山羊のような鳴き声がする。







 …後は、コイツを殺して、生贄に捧げるだけだ。


















   メヴエエェェェ…







つづく

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