山羊男
#4 ソフトウェア開発:Capricornusの場合
「マイクいい加減にしろ!!」
バーンズは更に怒鳴り声を上げた。
「分かったよ!分かったから落ち着けって!!」
「お前がこの話持ち出したんだぞ!?一体何を考えてるんだ!!」
「ちょっとした小遣い稼ぎだろ!?お前だって乗り気だったんじゃねーのかよ!」
「こんな話だなんて誰が予想する!?俺達このままだと本当に消されるぞ!」
「大丈夫だって!絶対バレない様にしたから!」
バーンズは自分のデスクに座り、頭を抱え込んだ。
「ちゃんと話せ。全部だ。」
「…だから、本当だって。前の職場はCIAだよ。」
バーンズは大きくため息をついた。
「…で、デブでマヌケの天才マイクがなんでCIAにいて、しかもその仕事をやめてアプリ開発なんかやってんだ??」
「だから…クラックの能力を買われたんだよ。でも直ぐにクビになった。」
「その話をどう信じれば良いんだ!!」ダンッ
バーンズは机を叩く。
「だから興奮するなよ!お前が怒るから頭痛くなってきた。」
「頭が痛いのはこっちだぞマイク。」
「前にあっただろ?インターネットで人が死ぬって事件。アレの捜査に協力してたんだよ…その、アドバイザーとして雇って貰うって条件でさ。」
バーンズは更に頭を抱える。
「…んで、なんでクビになったんだ?」
「次の事件を担当してる時に…その、職場でアニメ見ててさ。だんだんムラムラして、我慢出来なくなったんだ。」
「はぁ!?!?」
「それで、不適切だって追い出された。監視されてるって話だったけど、小物と思われたのか特に監視はつかなかった。」
「なんでそれが分かる!?」
「オレ、ホントに駄目な奴だけど、クラックの腕だけは誰にも負けない自信があったんだ。それで、調べた。」
「はぁぁー…」
「それで。ムカつくからちょっとデータ使って儲けようと思ってお前に連絡した。大学出てからゲーム開発してて、全然上手く行ってないって聞いてたからさ。」
「じゃあ、あの日本の企業に売ったあのソフト、『本物』なのか??」
「あぁ、そうだよ。アレはCIAが開発した奴だ。」
バーンズは顔を押さえて椅子の背もたれに深く寄りかかった。
「でも、ずーっと使われて無かったみたいなんだ!最早存在すら忘れられてるって感じでさ!」
「…お前の勘違いなんじゃないのか?ただの地図アプリだと思ったぞ!?」
「違うよ。」
「ならあれはなんだ?」
「元犯罪者の現在位置を、検索するソフトだ。」
「嘘だろ…冗談なんだよな?」
「…ごめん。」
「じゃあ何か?俺達は小遣い稼ぎをする為に、日本の企業に、CIAが開発した犯罪者検索アプリをコピーして売ったのか!?」
「あ!全ての機能じゃないよ!アプリとして起動するのに最低限必要な部分だけコピーしたんだ!」
「なんだ最低限って?」
「あー、アレだよ。」
「ハッキリ言え!!」
「元…性犯罪者の検索機能だ。」
バーンズはマイクの胸ぐらに掴みかかった。
「ふざけんなよ!あれは子供が使うような検索アプリに使われてるんだぞ!!」
「落ち着けって!!!その機能は絶対に作動しないようにしてあるから!!」
「お前…ホントに俺ら消されるぞ!」
「心配すんなよ!アレ売ってから何ヶ月経ったと思ってるんだ?もうとっくに市場に流れてるけど、なんの不具合の連絡も無いだろ!?」
「…作動しないって、どういう風にしたんだ?」
「あー、本来だったら犯罪者の現在地が動物で表示されるアプリなんだけど…」
「動物!?」
「そう、使ってても一般人にバレない様にって配慮らしい。本当は細かく動物事に犯罪者の種類を選べたんだけど、アプリとして起動させるために一種類だけ残して全部その機能は削除した。それがたまたま性犯罪者の機能だっただけだ。」
「それでどうなったんだ?」
「ほら、俺達の会社はCapricornusだろ?だから、山羊の動物のアイコンだけ残したんだよ。それが性犯罪者だったんだけど、先ずは他のプレイヤーの現在地を検索する時に、山羊を探してって言うのの流れを改良してる。」
「でも、その性犯罪者検索機能自体は消えて無いんだろ!?」
「大丈夫!検索ワードを変えた。それも、絶対に分からないような奴だ。」
「なんだ?何にしたんだ?」
「オレの事…クビにした上司だよ。あのロシア系の奴の名前をアナグラムで使った。だからなんの意味もない言葉だよ。ほら…」
マイクのディスプレイを覗き込む。確かにその文字列は意味をなさない言葉になっていた。
「半分ぐらいキリル文字使ったし、通常でキーボード入力出来ないから、これをコピーするしか検索のしようがない。」
「しかし…なぁ…」
「ただのプログラムのコピーで3万ドルだぞ?十分儲けたし、今度はこの金を使って俺達のゲームが作れるだろ!!」
「はぁ…次にこんな事やったらCIAの前に俺が殺してやるからな!!」
「わかったって!その代わり、俺がアニメ見ててもクビにすんなよ!ほら、仲直りでビール飲みに行こう!」
マイクはバーンズの肩を掴み、部屋の入口に向かって押して行った。
部屋の電気が消され、2人が出ていく。
部屋に残された灯りは、電源が入ったままのマイクのPCだけ。
その画面には、このような意味不明の文字列が表示されていた。
『Уаğİ 〇ТбКф』
つづく
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