ロワとカラス城の魔女

thruu

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「なぜだ。魔力も使えない小娘が私のちからを押し返すなど、ありえん」

 悪魔は独り言のようにぶつぶつとそう言う。

「意志のちからよ。それが、ロワのほうが強かっただけ。自分の魔力を封じるほどの頑固者を惑わそうなんて、時間の無駄だわ。実際、契約書さえ交わせなかったわね」

 魔女は悪魔のマントを掴んで、中身から引き剥がす。

 けれど、マントの下には何もなかった。もぬけの殻だ。私は思わず呟いていた。

「逃げた……」

「いいえ、逃がさない」

 魔女はそう言うと、私を振り払う。突然マントの中から出されて、私は床に転がる。ディアが心配そうにかけ寄ってきた。

 ディアと一緒に魔女を見上げると、彼女の手は何かを捕まえている。小さなカエルだった。緑色の普通のカエルは必死で暴れている。

「まさか、それがあの悪魔?」

 私はディアを抱きかかえて、2人で魔女の手の中にいるカエルと魔女を交互に見つめた。

 カエルからは、しわがれた声で「放せ」やら、「見逃してやる」とか、「次は容赦しない」など、なにか言っている。今は壊れたおもちゃみたいに笑い声だけを響かせている。

 ディアはカエルに触れようと爪を立てて前足をのばす。

 魔女は嬉しいのか、カエルをゆっくり鑑賞しているようだ。

「ディア、ロワのマントを燃やしたのは、この悪魔の指示でしょ?」

 魔女がそう聞くとディアは前足をひっこめて、小さく「うん」という声が聞こえた。私は驚いてディアを見る。ディアは肩をすくめて「悪かった」と、申し訳なさそうに言った。

「この悪魔が、ロワを城に引き入れようとしたせいで、城の木も燃えた。あの木がどれほど貴重なものか分かる?」

 私とディアはブルブルと首を振った。私のテントの近くにあった木がそんな貴重なものだとは知らなかった。何故だろう。あんなに悪魔が怖かったのに、今は魔女も同じくらい怖い。

「ディア、ロワ」

 魔女は私達の名前を呼ぶ。とんでもなく優しく。2人して慌てて返事をした。魔女は嬉しそうに言った。

「今回はあなた達に請求しない。代わりに、この悪魔に払ってもらう」

 魔女は不意に、持っていた注射器をカエルになった悪魔にぷすっと刺した。ずっと手にもっていた注射器は、このためだったのだ。

 注射器には、真っ黒な何かが満たされていく。魔女は微笑んでいる。ディアも魔女の行動に目を丸くして固まっていた。

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