ロワとカラス城の魔女

thruu

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「ロワ、ロワ、なんてことを……」

 ディアはそう口ごもって逃げ出そうと暴れている。けれど本当に逃げ出したいのなら、そうできるはずだ。暴れてはいるけど、この腕の中で隠れる場所を探しているようだ。

 ディアの恐怖が伝わる。私の足はいまにも力を失ってしまいそう。

「ロワ、ロワ、ロワ」

 ディアの言い方を真似て、今度は悪魔がそう呼ぶ。私の名前の呼ぶたびに悪魔の声はどんどんと低くなっていく。あの余裕な感じは、どこにもなくて、その声には怒りが満ちているようだ。

「それじゃあ、くだらない話し合いはこれで終わりだ」

 私のまわりの空気は、一気に凍りついたように冷え冷えとしていた。思わず一歩後ろに下がろうと足にちからを入れたとき、暗闇の中から悪魔が現れた。

 黒いマントが空中で揺れている。フードの中は真っ暗で、顔は見えない。

「お前の意思など、最初から関係ない。私の親切心で自ら望むようにすれば、お互いのためだと思ったんだがね」

 悪魔は声のトーンを変えていく。聞けば聞くほど、それは人の声のようになっていく。そしてマントから手が出てきて、私に向かっていた。妙に長い指と、黒く長い爪以外は人間とおなじだった。それが私の首に巻きついていた。もう声も出せない。

「どうやら、本当に魔法を使えないようだ。魔力がないわけじゃない。自分で封じたのか?」

 悪魔は探るようにそう言い、言葉を発するたびに少しずつ首を絞めるちからが増していた。

 悪魔が私の頭を覗き込むように、フードで見えない顔を近づけてくる。

 そのたびに体はどんどんちからを失っていくみたいだ。ディアを抱えているのもやっとで、今ではぶるぶると震えている。

「まぁいい。私の力を渡せば、お前はすっかり変わるだろう。どんな魔法使いも、魔女も立ち向かえないほどのちからだ」

 悪魔の言葉を聞くたびに、頭はぐらぐらとして、もう気を失ってしまいそうだった。私の腕はもうだらりと下がっていた。

 いつの間にかディアが肩にいて、耳元で震えながら悪魔を威嚇していた。その声にやっと頭がはっきりとしてきた。腕にも力は戻ってきている。

「ディア。お前だってこの契約のことは知っていただろう。ほんの少しの時間、私がロワを操るだけだのことだ。ロワの体が死に至るまでの短い間のことだ」

 悪魔は言い終わると、これまでで一番楽しそうに笑う。わたしはやっと動きだした手で、悪魔を振り払おうと暴れていた。

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