ロワとカラス城の魔女

thruu

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 カラス城の中には物が溢れている。そのどれもが、今の時代に必要のないものばかり。ずらりと並ぶ甲冑の廊下や、恐ろしい武器ばかりが集められた部屋。

 植物が茂る部屋は魔女が薬草でも育てているのだろうか。そのどれもが、栽培禁止の毒草ばかりのように見える。

 はたまた、薬品の瓶が棚に入れられ整然と並ぶ部屋は恐怖だ。天井まであるその棚にうっかりぶつかりでもしたら。考えるだけで恐ろしい。

 慎重に棚と棚の間をすり抜ける。ふと、目と同じ高さにあるビンに釘付けになった。そのビンのラベルにはこう書かれていた。

『ヴァンパイア撃退薬』

 不思議なことに、その瓶だけは埃をかぶっていなかった。魔女がこの薬品を多用しているとみて間違いない。

 これを使う必要が魔女にはあるのだろう。魔女って、やっぱり謎。

 棚の間をすり抜けるように進むと、黒猫は真っ黒な壁の前で止まっていた。そうかと思うと、壁に鼻を近づけたり、床に伏せてみたり不思議な行動をし始めた。

 やっぱり、使い魔といっても猫だ。こうやって見ているだけなら可愛いのだけど。そんな思いで見守っていると、黒猫は前足で壁をガリガリと爪で引っ掻いている。不意にこちらを見ると、あきれたように言う。

「ボケッとしてないで手伝えよ」

 そう言うと黒猫は壁に頭をつけ、押そうとしているようだった。不思議に思いながら、私も慌てて壁を押してみる。

 すると、壁は静かに動いたのだ。

 壁の動く振動が手に伝わる。動いてはいるけれど、それは微かなものだった。体全部で押さなければ、この壁は容易には動かせそうにない。

 全体重をかけて押してみると、やっと入り込めそうな幅まで開けることができた。

「あと、もう少し……」

 そう口にしたとき、今まで押した方向に動いていた扉はまるで滑るように横に動いた。驚くのとほぼ同時に体が回転し、気がついた時には倒れていた。

「何やってんだ」

 面白がっている黒猫の言葉で気がつくと、私の顔の近くに金色の目玉がある。

急いで立ち上がると、持っていたはずの懐中電灯が消えていた。そういえば、転んだ拍子に手から放れて落ちる音が聞こえた事を思い出す。

「下、見てみろよ」

 黒猫の助言は、何やら私を不快な気持ちにする。それでも、あの魔女の使い魔だ。

 下手に扱うわけにもいかないし、きっと私よりも魔法を使えるのだろうから、変に手を出したりしたら私がやられてしまう。

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