ロワとカラス城の魔女

thruu

13

 そんなことを考えていると、扉をノックする音が聞こえた。

「お客さん。かなぁ」

 2階から魔女は降りて来ない。私はもうカラス城の魔女の助手なのだ。仕事をしなければ。意気揚々と私は扉を開ける。

「どちら様ですかー?」

 扉を開ければ、昨日までの雨や曇り空は消え去り、青空が広がっていた。朝日が差し込んで眩しい。

ーーああ、新しい1日が始まるんだ。

 そんな清々しい気持ちになる。けれど、扉を開けてもそこには誰もいなかった。

 今のノックはなんだったのだろう。足元に視線を下ろしていく、そこにはなんと黒猫がちょこんと座っていた。なんて可愛らしい。

 夢の黒猫との生活!そう思うのもつかの間だった。

「よ!落ちこぼれ!あの魔女を丸め込んだみたいだな。よくやった!俺様を誰様だと思っていやがる。今すぐメシをだせ!」

 どこかで聞いた失礼な男の人の声で黒猫はそう言うと、カラス城の中に勢いよく走って行く。

 止める間もなく、今度はカラスがギャーギャー言いながら、羽をばたつかせてカラス城に侵入し飛び回り始めた。

「あんた、誰のおかげで助かったと思ってんの?とっとと食べ物出しな!」

 これもまた、どこかで聞いたおばあさんの声でカラスは言う。

「心の……声?」

 目の前の出来事を受け止められず、心の中には夢描いた研修生活がどんどん変色しようとしていた。

可愛い(口の悪い)黒猫との生活(お婆さんカラス付き)。

 この騒々しさにうんざりとして扉を閉めようとすると、足元に封筒が落ちていた。

ーーロワ様。

そこには私の名前が書いてある。不思議に思いながらも何気なく封を開ける。

ーー請求書。
ーーテント代、もろもろ。

「ひっ……」

 生まれたばかりの太陽の光の中で、私の小さな悲鳴が鳥のさえずりにまぎれて響いたことは、私しか知らない。

 研修1日目。人生ってやっぱり思うようには行かないものだと痛感した。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品