ロワとカラス城の魔女
10
けれど、やはり魔女の意志は変わらなかった。
「諦めなさい」
冷たくて、痛々しい言葉だった。それがあまりにも心ない言葉に聞こえて、一瞬の内に頭に血が上ってしまった。
「何故ですか!?理由を教えて下さい!!」
私の言葉で魔女はゆっくりと振り返った。今だにフードで顔が見えない。
「こっちが教えて欲しいくらいだわ。何故、魔法使いなの?」
見えない顔で、魔女は私を見下ろす。
聞き返えされて、一瞬頭が真っ白になった。それでも必死に自分を取り戻す。
「い、言いましたよね?お金のためですよ!」
感情が高まって今にも泣きそうだった。けれど、今泣くわけにはいかない。
魔女は腕を組むとため息をもらし、静かに言う。
「お金の為なら、魔法使いじゃなくてもいいでしょう?もっと割のいい仕事でも探しなさい」
まるで呆れたような言い方で、馬鹿にされているとさえ感じた。その瞬間に、私の理性は制御出来なくなっていた。
「割のいい仕事なんて!何にも知らないくせにっ!貧乏の子供は、ずっと貧乏なんです!」
私の声は更に大きく響いて、カラス城に反響した。叫んだ私を、魔女は組んでいた腕をほどいて何も言わずに見ていた。
気が付けば、言葉が次々とこぼれていた。
「私の両親は、貧乏で死にました。借金が払えなくて。私だけを魔法学校に残して。魔法学校に入れば国から援助されるし、魔法使いになれば、ずっと生活には困らない」
違う。そんな事じゃない。分かっているのに、口からこぼれるのは望まない言葉ばかり。
「私は、両親みたいになんか!なりたくないから……だから!」
言えば言うほど涙が出て、止まらなかった。息もできないくらい、悲しかった。
「なぜ泣くの?」
魔女は静かに聞いた。その質問の答えをすでに知っているみたいに、その口調は柔らかい。
「なぜって、悲しい、から……?」
魔女がそんなことを聞くから、私は心の階段を降りていく。理由はもっと下の階にある。
「悲しい……心にもない事を口にして。違うのに、本当は……」
心の奥に向かう度に、理性や意地は分からなくなる。そして、今や完全に消えてしまった。
「母さんと父さんをあんな風にした奴らに……仕返ししてやりたかった!魔法使いになってアイツらに、呪いを、かけて……」
その後は、もう何も言えなかった。大声で泣くばかりで、久しぶりに見た自分の醜さに失望した。泣く資格すら、ないような気持ちになる。それなのに涙は止まらなかった。
どんな理由があっても、魔法使いたる者、人を傷つける為に魔法を利用してはいけない。
魔女に、『あなたは向いてない』と言われた時、心の奥を見破られたような気がした。目をそらし続けた自分の闇が、ずっと怖かった。
カラス城を叩いて、私の手は汚れてしまって、今でも黒く汚れたまま。きっとこの手は、私の心そのものなんだ。
「諦めなさい」
冷たくて、痛々しい言葉だった。それがあまりにも心ない言葉に聞こえて、一瞬の内に頭に血が上ってしまった。
「何故ですか!?理由を教えて下さい!!」
私の言葉で魔女はゆっくりと振り返った。今だにフードで顔が見えない。
「こっちが教えて欲しいくらいだわ。何故、魔法使いなの?」
見えない顔で、魔女は私を見下ろす。
聞き返えされて、一瞬頭が真っ白になった。それでも必死に自分を取り戻す。
「い、言いましたよね?お金のためですよ!」
感情が高まって今にも泣きそうだった。けれど、今泣くわけにはいかない。
魔女は腕を組むとため息をもらし、静かに言う。
「お金の為なら、魔法使いじゃなくてもいいでしょう?もっと割のいい仕事でも探しなさい」
まるで呆れたような言い方で、馬鹿にされているとさえ感じた。その瞬間に、私の理性は制御出来なくなっていた。
「割のいい仕事なんて!何にも知らないくせにっ!貧乏の子供は、ずっと貧乏なんです!」
私の声は更に大きく響いて、カラス城に反響した。叫んだ私を、魔女は組んでいた腕をほどいて何も言わずに見ていた。
気が付けば、言葉が次々とこぼれていた。
「私の両親は、貧乏で死にました。借金が払えなくて。私だけを魔法学校に残して。魔法学校に入れば国から援助されるし、魔法使いになれば、ずっと生活には困らない」
違う。そんな事じゃない。分かっているのに、口からこぼれるのは望まない言葉ばかり。
「私は、両親みたいになんか!なりたくないから……だから!」
言えば言うほど涙が出て、止まらなかった。息もできないくらい、悲しかった。
「なぜ泣くの?」
魔女は静かに聞いた。その質問の答えをすでに知っているみたいに、その口調は柔らかい。
「なぜって、悲しい、から……?」
魔女がそんなことを聞くから、私は心の階段を降りていく。理由はもっと下の階にある。
「悲しい……心にもない事を口にして。違うのに、本当は……」
心の奥に向かう度に、理性や意地は分からなくなる。そして、今や完全に消えてしまった。
「母さんと父さんをあんな風にした奴らに……仕返ししてやりたかった!魔法使いになってアイツらに、呪いを、かけて……」
その後は、もう何も言えなかった。大声で泣くばかりで、久しぶりに見た自分の醜さに失望した。泣く資格すら、ないような気持ちになる。それなのに涙は止まらなかった。
どんな理由があっても、魔法使いたる者、人を傷つける為に魔法を利用してはいけない。
魔女に、『あなたは向いてない』と言われた時、心の奥を見破られたような気がした。目をそらし続けた自分の闇が、ずっと怖かった。
カラス城を叩いて、私の手は汚れてしまって、今でも黒く汚れたまま。きっとこの手は、私の心そのものなんだ。
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