ロワとカラス城の魔女

thruu

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 炎に襲われる夢を見た。何が原因なのか、火はどんどん広がっていく。すると暗闇に扉が現れ、そこから化け物が出てきて炎を一瞬で食べてしまった。化け物は大きな瞳をギョロリと向けると笑った。

――お前も、うまそうだな。

「うッわぁあああ!!イヤーーー!!」

 自分の叫び声で目を覚まし、気が付いたら石の床に落ちていた。

「痛い……」

 石を見つめて呟いた。石の床はひんやりとして、ざらざらとして、砂か埃かは分からないがとにかく黒い。

 自分がさっきまで寝ていたと思われるソファーも黒く、カバーがはがれて、中のスポンジようなものが所々ふわふわと出ている。

 周りを見渡しても、蝋燭の灯りが少しあるだけで、はっきりとは何も見えない。説明されなくとも、ここがどこかくらいは察しがついた。

「カラス城の中?!」

 私の声は大きく響いてすぐに消えた。

「うるさいわね。なんでそんなに騒がしいのよ」

 すぐ後ろから魔女の声が聞こえて、また大声を上げそうになるのを必死で抑えた。振り向くと、室内だというのにマントを羽織りフードを深く被っている魔女が立っていた。

 手にはカップを持っていて、近くまで来るとそれを私に渡した。

「起きたなら、それ飲んで早く帰ってちょうだい。荷物は扉の所よ」

 迷惑そうにそう言うと魔女は背を向けた。

「あの、すみませんでした!まさか火事になるだなんて思わなくて。あの火は、その、どうなったんですか?」

 カップを両手で握りしめながら聞く。背中を向けたままだけれど、魔女が呆れている様子は伝わってくる。

「燃え広がる前に消したわ。あなた、よく助かったわね」

 そう聞くと、私は心から安堵した。もう一生、外で火なんか扱わないと誓いを立てて。

 魔女のため息がはっきりと聞こえて、変な汗が出る。このままでは研修なんて話は切り出せそうもなかった。

ムリヤリ言ってみようかな……。

「あの、け」

 けれど、言葉が出るか出ないかの所で魔女に遮られてしまった。

「まさか!あれだけ迷惑かけといて、まだ研修がどうとか言うつもりなんてないわよね?」

 魔女の言葉がぐさりと刺さる。心臓に一撃くらってしまった。それでも立ち上がって、頭を下げる。

「お、お願いします!!私、どうしても魔法使いになりたいんです!」

 薄暗い灯りの中で、真っ黒の石の床だけを見つめて待つ。その間、心臓は高鳴り、手も足も震えていた。

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