ロワとカラス城の魔女

thruu

8

 煙の元を目で追ってみる。燃えているのは、自分の着ているマントだった。

「うわ!!」

 立ち上がって慌てて火を消そうとしたはずが、腕を振った反動でマントがはためいた。

 何故かその火はテントに引火した。テントに火がついた瞬間、一気に燃え広がりテントを覆った。

 一瞬の出来事で、頭がついていかない。呆然とし、自分のマントが燃えているという現実すら受け入れられなかった。まして、テントが目の前で燃え上がるなんて。私の思考は完全に停止してしまった。

「火事だぁーー!!」

 どこかから聞こえた誰かの声で我に返った。

目の前のテントは雨の中、豪快に燃えて炎は空を目指している。そしてまるで意志があるように、今にも周りの木に手を伸ばそうとしているようだった。

「どうしよう!」

 ようやくマントを脱いで、地面に叩きつけて火を消した。テントのほうは、もうどうしようもなかった。

「あんた魔法使いなんだろう?こんな火、魔法でさっさと消しなさいよ!」

 また心の声だろうか。先ほどのおばあさんの声が上空から落ちてきた。

「あたし、まだ学生で!」

 誰かも分からない声に答える。

「学生がなんだってんだ!そんな事関係ないだろう!さっさと消せよ!森が無くなっちまう!」

 今度は失礼な男の人の声が地面から這い上がってきた。

「でででも!杖が……!」

 地面に叩きつけたマントのポケットを慌てて探るけれど、入っていたのは切符と飴とガムのゴミだけだった。杖は、テントの中の荷物に入れたままだ。

「どうしよう!どうしたら!」

 すでに雨と泥でぐったりとなったマントに目をやると、もうこれしかないと思った。それを掴んで炎を叩く。

 けれど、それは火に油を注ぐようなもので、まったく歯が立たなかった。

 炎は熱くて、煙で目が痛いし、呼吸も苦しい。何度も咳き込んではマントを掴み炎に向かうけれど、次第に立って入ることも難しくなってしまった。

 逃げる力も失い、炎のそばに横たわりながら、最後に聞こえたのは、カラス城の扉が開く音だった。

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