ロワとカラス城の魔女

thruu

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 宿を出る時、色々と用意して来たのだ。

 さばの缶詰めに、スイートコーンの缶詰めに、モモの缶詰めなどなど、ろくな物はないけれど。

 非常用のお湯で作るご飯だってちゃんと用意した。

 まぁ、用意したというか、テントも食べ物も無理を言って(必死で頼み込んで)宿屋の亭主に貰った(借りた)物だ。

 最後はあんなに泣いて(勘弁してくれと言われた気がするけれど、聞き間違いだろう)見送ってくれたことが、もう懐かしく思える。

 でも。

「お湯かぁ」

 やかんは貰って(借りて)きたけれど、火がない事に気が付いてしまった。

 魔女に頼んでみようか。無謀な事を考えて、すぐに諦めた。馬鹿な事は考えずに、仕方なく雨の中で小枝を探す。

 今日も防水スプレーをかけ忘れ、マントは雨を吸って重たい。ああ、なんだか悲しくなってきた。

「ふふふふんふふんふふん」

 雨が振る中、マントのフードを深くかぶり、地面にしゃがみこんで陽気な歌を歌うだなんて。はたから見たら、おそらく異様な雰囲気なんだろうと思う。ましてや、カラス城の前なんだから余計にそうだろう。

 小枝を集めると、テントのそばで火をおこした。木の葉のおかげで、雨も入り込まないから。

「ライター、ライター……っと」

 けれど、地面も小枝も湿っていてなかなか火がつかない。

「ダメだ。全然火がつかないなー。やっぱり魔女にお湯もらおうかなぁ」

 黒魔術専門のカラス城の魔女にお湯を貰うなんて。その代償に体の一部分でも持っていかれそうだと、身震いした。

 諦めかけている時、なにやら嫌な予感がした。予感というか、直感というか。

 そんな神がかり的なことではなく、私の臭覚というやつが何かを察知していた。何か異様な臭いがする。例えるなら、何か、燃やしてる?

「いや、燃やしてるっていうか、燃えてる!?」

 なんだか焦げ臭い。けれど、手元の枝は全く燃える気配すらない。それなのに、どこかから黒い煙まで上がっている。

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