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試行錯誤中

色鳥

『決意』3

「ちょっと待て訳が分からねえ。何でお前は服を脱いでいるんだ、俺にも解るように説明しろ」

脱衣所を出て、放心する鈴木を無視して服を脱いでいると、ようやく意識が戻ったらしい鈴木に腕を掴まれた。
ヤツの眉間のしわが普段の三割り増しになっている。
そのうち顔の八割が眉間の皺になるんじゃなかろうか。

いや待て、そもそも何故俺の腕を掴む。
服を脱ぐ事が出来ないではないか。
それとも昨今では服を着たままセックスをするのが常識だとでも言うのか。
バカな。

「あ?んだよ服着たまんまするつもりかよ。それだけは絶対嫌だからな。汚れんだろが。服屋の服に対する真摯な気持ちナメんなよ」
「いやもう意味分かんねーよマジお前いい加減にしろよ。服に対する真摯な気持ちをほんの少しでも良いから俺に向けろよ」

生憎向けようとした結果がこれなので何も言えない。
残念だがもはや俺には物事に真剣に向き合う力はないようである。

(金をもらっている以上仕事は別だ。事実勤務中の俺はカリスマイケメン販売員として客はもちろんスタッフたちにも尊敬されている。と自分で言っておく)

「んだよ何が不満だってんだよ。テメーがセックスしてーっつったんだろ。腹くくれっつってただろうが。だからくくってやったんだよ。感謝しやがれ」
「風呂は」
「面倒臭くなった。つかシた後も入る事考えたら二度手間だしな」
「飯は」
「ぶっちゃけ腹はそんなに減ってねえよ」
「は?」
「は?」

間抜けな表情のヤツと目が合う。
さっきも思ったが、こいつは驚くと表情が幼くなる。

「お前ふざけてんの?」

不意に間抜けな表情を浮かべたままの鈴木が問いかけてきた。
質問の意味が解らず首を傾げる。と、次の瞬間頬に衝撃が走った。
パチパチと視界の端で星が煌めいた。

「っっっってえな何しやがんだこのクソ野郎が!」

何と鈴木に張り手をくらわせられた。
室内に響いた音と頬の痺れ具合からして、それほど強くぶたれたわけではなさそうだが、それにしたって驚くべき事態である。
つか張り手て。
張り手て。
殴るんじゃねえのかよ。

本格的にキレた時の彼女みたいな事しやがって。
何だお前は彼女か。
俺の彼女か。
俺の彼女なのか。
言っておくが彼女だろうと何だろうと俺は容赦しない。
やられたらやり返す。
それも何倍かでだ。

バキッ

「ぐあっ!……ってめ、殴りやがったな!ざけんな何しやがんだふざけんなマジで!」
「テメーが先に手ぇ出してきたんだろうが」
「グーでは殴ってねえ!」
「グーもパーも関係ねーだろーが。つかジャンケンならパーの方が強ぇんだよ死ね」
「知るかあああああ!」

その後も俺たちはいつものように激しい口論を繰り広げた。
しかしながら、数十分経ってようやく互いに落ち着いた頃、自分より遙かにデカ青あざを頬に携えた鈴木に「さっきはぶって悪かったよ……」と謝られ何とも言えない気持ちになった。
やっぱりこいつは付き合う相手を変えた方が良いと思う。

恋は盲目ってまさしくその通りだな。

そんな事を思いながら、前回同様戯れのように青あざの浮いた頬にキスをしてやると、ヤツは泣きそうな表情を浮かべてそれから俯いた。
多分それは頬の痛みの所為ではない。
バカな男である。

〈完〉

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