カイカイカイ…

霜月 秋旻

幽霊

シロウは末永に、自分と同じくらいの少年を見なかったかと尋ねた。しかし末永は首を横に振った。しかし、探すことはできると言った。自分は霊能力者。そんなことくらいお安い御用だと自信満々に言った。しかし、夏目を見つけることはできなかった。末永が言うには、夏目の放つ霊能力が、末永の霊能力を妨害しているという。夏目の霊能力は、末永の霊能力を上回っていたらしい。二人で地道に森を探し回るしかなかった。しかし、森をいくら歩いても、同じ道を繰り返し歩いているような気がしてならなかった。何かの呪いでもかけられている気がしてならなかったとシロウは語る。
それでも、シロウと末永は、諦めなかった。何度も夏目の名を呼び、精神が擦り切れるまで夏目を探し回った。歩いては叫び、歩いては叫びを繰り返しているうちに、とうとう二人の精神は限界に達した。最後の力をふりしぼってもう一度、二人は夏目の名前を叫んだ。するとその瞬間、二人の口の前に、巨大な拡声器が出現した。
二人とも、何が起こったのか理解できなかった。そしていつのまにか、傍に黒服の男性がひとり、立っていた。その男は、自身を<ヒビキ>と名乗った。そして、
「お二人の右手に今握られているのは、<覚醒の拡声器>だ。その拡声器は、あなた達の心の中の叫びを具現化したものだ。友人を探してこの森を彷徨い、疲労が限界まで達したあなた達の心の叫びがあなた達の中であふれ出しそうになり、それを放出するために出現したものだ。あなた達は気付いていなかったかもしれないが、あなた達の叫び声は、その拡声器をつたって、この森全体に響き渡った」
「覚醒の…拡声器?」
「そう。その拡声器は、隠していた自分の本性を開放したときに現れる。あなた達は、いまのいままで全力で叫んではいなかった。心のどこかに、なにかしらの遠慮があったはずだ。例えば叫ぶことに対する羞恥心だとか、叫んでも見つかるわけが無いという諦めだとか、自分の声に対するコンプレックスとか、それは些細なことだろう。それが無くなった瞬間、その拡声器が出てきた」
すると、いくら叫んでも出てこなかった夏目が突然、二人の目の前に姿を現した。
「ありがとう。ボクのことをそこまで想ってくれて…」
現れた夏目は、涙ぐんでそう言った。しかし自分は既に、ある場所で死んでいる、いま目の前にいる自分の姿は幽霊だと二人に告げた。それが信じられず、シロウは夏目に触れてみようとすると、シロウの手は夏目の体をすり抜けた。そのことが、いま目の前にいるのが夏目の幽霊であるという証明となってしまった。
それから夏目は、自分が死んだ瞬間、この森を自分の霊能力で思い通りに操れるようになったことを二人に話した。木の並びを変えたり、この森にある木を使って本を作り出したり、妖精を作り出すことができるようになったらしい。夏目は、自らが作り変えたこの森を、<キヅキの森>と名づけた。自身が以前に書いた小説のタイトルにちなんで。

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