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カイカイカイ…

霜月 秋旻

本当の目的

「本当の目的?」
僕がそうたずねると、キヅキは首を縦に振った。
「そうです。このブックカフェのルールはご存知ですよね。中では絶対に口で話してはいけないというルールを。何故だかご存知ですか?」
「いや、そりゃ、図書館とかと同じで、騒いだら他の人の読書の妨げになるからそれを防ぐ意味でだと…」
「そうですね。たしかにそれもあります。このブックカフェの中には小説家の方もいます。そういう方々にとっては、とても集中しやすい環境ともいえるでしょうね。しかし、それだけではないのです。かつてここのオーナーだった末永弱音は、別の目的でこのブックカフェを経営していたのです。そしてそれが、現オーナー、黒沢シロウも引き継いでいる」
黒沢シロウ。黒沢アカネの兄のことだろう。ブックカフェ<黄泉なさい>の現オーナーである彼には一度も会っていない。アカネの話では、ずっとブックカフェの奥にある部屋に引きこもりっぱなしだという。あの部屋から顔を出さないのは、その別の目的と何か関わりがあるのだろうか。
「重要なのは、喋ってはいけないというルールよりも、筆談というルールの方です。人には聞かれたくない内緒話をするにはたいてい、小声で話すか筆談で話すか、もしくは携帯電話のメールでやりとりするかですよね」
「つまり、内緒話をするためにあのルールは作られたってことですか?」
「そのとおりです。木の葉を隠すなら森の中へ隠せといいますが、まさにその通り。読書の妨げにならないために口では決して話さず筆談のみでやりとりをするというルール。そのルールを森とするならば、その森の中に、内緒話をするためのルールという名の木の葉を隠したのです」
読書の邪魔にならないためだけではなく、内緒話をするために筆談ルールが出来たというのはわかるが、内緒話ならなにも、こんな森の奥のブックカフェじゃなくても、町の図書館でも学校の図書室でもできそうなことだ。携帯電話のやりとりでも十分できること。なぜわざわざ森の奥のブックカフェで、そんなルールを設けるのか、そこが理解できない。
「ところであなたは、ご存知ですか?この<キヅキの森>には、ブックカフェ<黄泉なさい>のほかにももうひとつ、建物があるということを」
「いえ、知りませんでした。初めて聞きます」
「ブックカフェ<黄泉なさい>が作られた本来の目的。それは内緒話をするため。そして内緒話をする必要がある理由。それをこれから説明します。今から、この森のもうひとつの建物へと案内します。ついてきて下さい」


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