カイカイカイ…
精霊
目の前に転がっている空き缶。風にあおられてコロコロと転がっている。僕は右手に現れた<キヅキの木槌>でそれを潰した。幻覚ではない。僕が持っている<キヅキの木槌>はいま、確かに空き缶を潰した。
「君がいま本当に破壊したいものは、そんなちっぽけなゴミではないはずだ」
いつのまにか、僕が座っていたベンチに黒服の男が座っていた。その男は続けざまにこう語った。
「私の名はキヅキ。そして君がいま右手に握っているのは<キヅキの木槌>。普段は風船のように、ただ木槌の形だけをしているが、自分が壊したいと思ったものを壊そうとする一瞬、重さが加わり壊したいものを破壊する。その木槌は、君のなかに眠る破壊衝動を具現化した姿だ」
以前ブックカフェで読んだ、喜与味の原稿のとおりの説明だった。喜与味の前にも現れたという男、キヅキ。僕が<壊の書>を読み終えたことによって出現したのだ。これで喜与味の話が嘘ではないことが証明された。そして僕が前に教室の窓から見た、校門の前に立っていた男。おそらく同一人物だ。そしてあのとき同様、キヅキは<キヅキの木槌>を右手に握っている。
「あなたは何者なんですか?」
僕は思わず、そうたずねた。このキヅキという男が、人間なのかどうか。自在に他人の部屋に入ったりするくらいだ。ただの人間ではない。
「ついてきたまえ」
僕の質問には答えず、キヅキはベンチを立って、どこかへと歩を進めた。僕はその後ろをついていった。
キヅキが歩いていく道は、かつて僕の家があった場所へと続く道。そしてキヅキは僕の家があった場所を通り過ぎ、森へと入っていった。そう、<キヅキの森>へと。
「私が自らの存在を語るうえで、この森の説明は欠かせないのです」
「あなたは<キヅキの森>と何らかの関わりがあるんですか?」
僕がそう尋ねると、キヅキは驚いたような顔をした。
「どうやら君は既に、<キヅキの森>についていくらかの知識があるようだ。おそらく君は、ブックカフェ<黄泉なさい>で誰かから教わったのだろう。それなら話は早い。教えましょう。私はこの<キヅキの森>に茂る木々に宿る精霊。かつてこの森で命を落とした者の霊力の影響で生まれたのです」
精霊。キヅキは自らのことをそう語った。百歩譲って、幽霊というのならまだ信じられたかもしれない。しかし精霊というものは、ファンタジーの世界でしか耳にしない、空想の存在。そういうイメージが僕の中にある。にわかには信じられない。
「信じがたいという顔をされてるようですが、どうか受け止めていただきたい。この森は空想と現実の狭間。本来現実には存在しないものが、ここでは存在する。私という存在も、現実には存在しないのです。さきほど私は、あなたが読んでいた<壊の書>から出てきました。その本は、この<キヅキの森>の木で作られた紙でできている。だから、この<キヅキの森>の外にいても、その本に宿ることができたのです」
キヅキはさらに森の奥へと歩をすすめた。そして行き着いた先は、ブックカフェ<黄泉なさい>だった。
「信じてもらえたかはわかりませんが、いまお話したのが私の存在のすべて。私がこの森の木の精霊であること。そしてあなたには、さらに知っていただくことがあります。いま目の前にあるブックカフェ<黄泉なさい>が作られた本当の目的を」
「君がいま本当に破壊したいものは、そんなちっぽけなゴミではないはずだ」
いつのまにか、僕が座っていたベンチに黒服の男が座っていた。その男は続けざまにこう語った。
「私の名はキヅキ。そして君がいま右手に握っているのは<キヅキの木槌>。普段は風船のように、ただ木槌の形だけをしているが、自分が壊したいと思ったものを壊そうとする一瞬、重さが加わり壊したいものを破壊する。その木槌は、君のなかに眠る破壊衝動を具現化した姿だ」
以前ブックカフェで読んだ、喜与味の原稿のとおりの説明だった。喜与味の前にも現れたという男、キヅキ。僕が<壊の書>を読み終えたことによって出現したのだ。これで喜与味の話が嘘ではないことが証明された。そして僕が前に教室の窓から見た、校門の前に立っていた男。おそらく同一人物だ。そしてあのとき同様、キヅキは<キヅキの木槌>を右手に握っている。
「あなたは何者なんですか?」
僕は思わず、そうたずねた。このキヅキという男が、人間なのかどうか。自在に他人の部屋に入ったりするくらいだ。ただの人間ではない。
「ついてきたまえ」
僕の質問には答えず、キヅキはベンチを立って、どこかへと歩を進めた。僕はその後ろをついていった。
キヅキが歩いていく道は、かつて僕の家があった場所へと続く道。そしてキヅキは僕の家があった場所を通り過ぎ、森へと入っていった。そう、<キヅキの森>へと。
「私が自らの存在を語るうえで、この森の説明は欠かせないのです」
「あなたは<キヅキの森>と何らかの関わりがあるんですか?」
僕がそう尋ねると、キヅキは驚いたような顔をした。
「どうやら君は既に、<キヅキの森>についていくらかの知識があるようだ。おそらく君は、ブックカフェ<黄泉なさい>で誰かから教わったのだろう。それなら話は早い。教えましょう。私はこの<キヅキの森>に茂る木々に宿る精霊。かつてこの森で命を落とした者の霊力の影響で生まれたのです」
精霊。キヅキは自らのことをそう語った。百歩譲って、幽霊というのならまだ信じられたかもしれない。しかし精霊というものは、ファンタジーの世界でしか耳にしない、空想の存在。そういうイメージが僕の中にある。にわかには信じられない。
「信じがたいという顔をされてるようですが、どうか受け止めていただきたい。この森は空想と現実の狭間。本来現実には存在しないものが、ここでは存在する。私という存在も、現実には存在しないのです。さきほど私は、あなたが読んでいた<壊の書>から出てきました。その本は、この<キヅキの森>の木で作られた紙でできている。だから、この<キヅキの森>の外にいても、その本に宿ることができたのです」
キヅキはさらに森の奥へと歩をすすめた。そして行き着いた先は、ブックカフェ<黄泉なさい>だった。
「信じてもらえたかはわかりませんが、いまお話したのが私の存在のすべて。私がこの森の木の精霊であること。そしてあなたには、さらに知っていただくことがあります。いま目の前にあるブックカフェ<黄泉なさい>が作られた本当の目的を」
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