カイカイカイ…

霜月 秋旻

残骸

喜与味は、僕の部屋にあるものを、いともたやすく破壊していった。僕の部屋の中にあるものはほとんど、元々は人から貰った物。しかし生活していくうえで大切なものも、部屋の中に少しぐらいはある。壊したくないもの、壊されたくないもの。例えばそれは、僕が生きてきた証となるもの。思い出の写真が詰まったアルバム、お金はもちろんどこかの店の会員カードが入った財布。情報を仕入れるのに使うパソコン、テレビ。エアコンだって、これから寒くなる時期には欠かせないし、眠るのにベッドだって必要だった。
しかし、壊されてしまっては、諦めるしかない。壊すのはたやすい。しかし修復するのは困難だ。粉々に壊れて形を失ってしまった時点で、それは既にいらないもの。用を成さないのだ。
なぜ喜与味は、こんな暴動を起こしたのだろうか。僕と別れた腹いせ、憂さ晴らしとも思えるが、ここまでするだろうか。それでも、僕は彼女を恨むことはできないだろう。彼女の四ヶ月間を、僕の曖昧な感情が台無しにしてしまったのだから。しかし、彼女には感謝している。彼女と付き合ったことで、自分の本当の気持ちに気付けたのだから。僕が本当に好きなのは、アカネの方だ。そのことに気付けただけでも、喜与味と付き合った意味はあった。もっともそんなこと、喜与味には口が裂けても言えない。
あれだけ好き放題、木槌を振り回したというのに、不思議なものだ。翌朝になり、部屋から下の居間に降りていって両親と朝食を食べたが、変な物音がしたとも何とも話題にはならなかった。あまりに平然としていた。あれだけ昨夜、喜与味が派手に暴れていたのに部屋の外にはその振動も伝わらないうえに、音もいっさい漏れていなかったのである。それもきっと、<キヅキの木槌>の能力なのだろう。<キヅキの木槌>は元々、現実には存在しない。空想と現実の狭間。自身の破壊衝動を具現化したものだ。持ち主以外には、自分から見せようとする意思がない限りは見えない。そして、木槌で物を壊す音も振動も存在しない、空想のものなのだ。しかし破壊されたという事実だけは残るらしい。両親が僕の部屋を見たら、開いた口がふさがらなくなるだろう。腰を抜かすかもしれない。壊れたものの残骸ばかりの部屋を目の当たりにしたら。
しかし何故か、僕が普段学校に着ていっている制服だけが、形を成してハンガーにかけられたままだった。喜与味の情けなのだろうか。せめて学校には行けるようにと、それは喜与味の最後のやさしさだったのかもしれない。教科書は学校の机の中に入ったままなので、授業を受けるのにも影響は無かった。
僕はいつもどおり、学校に登校した。しかし心の中は混乱していた。自分の部屋の中をめちゃくちゃにされたのだ。平常心を保つのには無理があった。あの残骸まみれの部屋に帰りたいとは思わない。いつ、あの部屋を両親に見られるかを思うと気が気でなかった。
喜与味は、また行方不明になっていた。担任の話では、昨晩から家に帰ってはいないらしい。あのあと喜与味は、どこへ行ったのだろう…。

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