カイカイカイ…

霜月 秋旻

三日後

それから、僕は熱を出して二日間、学校を休んだ。<キヅキの森>で末永の遺体を発見した日、僕は泥だらけの全身ずぶ濡れで家に帰り、母親にこっぴどく叱られた。父親は相変わらず、怒りもせず新聞ばかり読んでいた。僕の世話は母親に任せっきりなのだろう。
「安藤くん…このことは誰にも言わないで。あとのことはわたしに任せて、足元が見えるうちに先に帰っていいよ。付きあわせてごめんなさい。さあ、はやく!」
あの日、志摩冷華はその場に座り込んだままそう言った。彼女ひとり置いていくのは罪悪感があった。しかし僕は仕方なしにその場を去った。あのときは以前末永に会ったときのように森に閉じ込められることなく、無難に家にたどり着くことができた。あのあと、彼女は末永弱音の遺体をどうしたのだろう。新聞には末永弱音の記事など載っていなかった。彼女の華奢な体で、末永弱音の遺体をどこかに隠すのは容易ではないはずだ。


水曜日。二日ぶりに学校へ行くと、相変わらず喜与味が話しかけてきた。そしてまた、一緒に<黄泉なさい>に行こうと誘ってきた。正直、喜与味の誘いが無くても行きたいと思っていた。志摩冷華に会って話がしたかった。彼女があのあと、末永弱音の遺体をどうしたのかを知りたかった。知りたい。自分の中でそういった感情が芽生えているのに僕は驚いた。好奇心という感情が。
後ろの席で、アカネの視線を感じる。僕が振り向くと、彼女はそっぽを向いている。この間志摩冷華に話を聞いて以来、僕は少しアカネのことが気になりだしている。それも好奇心という感情のひとつなのだろう。自分に興味を示している相手に対して、自分も興味を持ってしまう。人はそういうものなのだろう。
「ねえ、冷華さんが、安藤くんのこと心配してたわよ。体調が回復したら、ブックカフェに来て欲しいって。話がしたいってさ」
授業の合間の中休み、アカネが僕にそう伝えてきた。
「冷華さんと何かあったの?」
「別に、なんでもないよ」
末永弱音の遺体を二人で見たことは、誰にも言うなと口止めされている。アカネにも喜与味にも喋るわけにはいかなかった。とぼけるしかなかった。そんな僕に対してアカネは、
「ふぅん」と納得していないような反応を示した。


放課後、喜与味と一緒にブックカフェ<黄泉なさい>へと足を運んだ。中に入ると、常連の学ランを着た少年と、赤い着物の志摩冷華の姿があった。志摩冷華は僕の姿をみると、自分の右隣の椅子を引いた。ここに座りなさいという指示だろう。その席までスタスタと歩く僕をみて、喜与味はぽかんとしていた。喜与味は僕の右隣の席に座ったが、志摩冷華はおかまいなしに、原稿用紙に文章を書き始めた。
『この間はごめんなさいね。わたしのせいで風邪をひかせてしまって』
『いえ』
それから志摩冷華は、末永弱音についての文章を原稿用紙に綴り始めた。

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