カイカイカイ…

霜月 秋旻

孤独な休日

「あたし人参嫌いなの。快くん代わりに食べてよ」
「俺、新しいコンポ買ったんだ。だからお前に今まで使ってたやつあげるよ」
「お前の部屋、テレビ無かったよな?俺の使ってた小さいテレビ譲るよ」
「お前、好き嫌いないよな。この菓子食えよ」
「この服、太ってサイズ入らなくなっちまったよ。お前なら丁度着れるんじゃないのか?やるよ」
「これやるよ」
「快くん、これ欲しい?」
「快くんにこれあげる」
「欲しいだろ?やるよ」
「これあげる」
「受け取って」
「やるよ」
「やる」
「…」


いつのまにか眠ってしまっていたらしい。目が覚めると、またしても貰い物ばかりで散らかった部屋にいた。部屋にある置時計の針は、十一時を指し示していた。まだ日付が変わっていない。夜のままだ。二、三時間ほど眠ってしまっていたらしい。両親はどちらも帰ってきていないようだった。
寝ぼけ眼で部屋の中でぼぅっとしていると、父が帰ってきた。
「おおい!起きてるか?お前にいいもの持って来たぞぉ!」
父が僕の部屋に入ってきた。酒のニオイがぷんぷんと漂っている。顔を赤くして、父は手土産をもってきた。どこかの居酒屋で食べたものの残り物だった。フードパックに入ったウィンナーや唐揚げ、エビフライ、散らし寿司など。
「旨そうだろ?食べるよな?それ食ったら歯ぁ磨いて寝ろよ」
そう言って父は部屋を出て階段を下りていった。夕食を食べずに眠ってしまったので、腹が減っていないわけではないが、それらを食べたいなどとは思わなかった。しかし結局は受け取ってしまった。この時間に胃にものを入れると、翌朝起きるのがしんどくなる。しかし食べないで捨てるのも勿体無い。結局僕は、父が持ってきたものを全部食べてしまった。よく考えてみたら明日は土曜日。休みなので早く起きる必要など無かった。
母親の帰りが遅い。少し気になって、階段を下りて様子を見に行ったら、玄関に母親の靴があった。どうやら父よりも早く帰ってきていたらしい。僕が寝てると思って、声をかけなかったのだろう。
翌朝。家族三人とも、昼近くまで眠っていた。僕はずっと、眠ったり目が覚めたりの繰り返しで、部屋を出て食事をしたのは午後一時すぎだった。食事してからも、とくにやりたいこともないのでまた部屋のベッドに横になった。次の日の日曜も同様、昼まで寝ていた。何の刺激もない休日。平和な休日だといえば聞こえはいいが、こうしている間にも、クラスの他の連中は充実した、有意義な休日を過ごしているのだろう。だれからも誘いはこない。それもそのはず。僕のスマートフォンは、壊されたっきり森の中なのだから。いや、仮に壊されてなかったとしても、誰からも連絡は来ないだろう。そう考えていると、自分だけ置いていかれているような気がしてならなかった。僕は一人で何をしているんだろう。僕には何も無い。そんなことを考えているうちに、時間は容赦なく過ぎていった。
午後三時。時計の針が進む音が耳障りで、ついつい外に出ずにはいられなくなった。外に出て、近所のスーパーに入って少年誌を立ち読みした。僕が幼い頃に好きだった漫画はほとんど連載終了していて、僕が読むような漫画はひとつかふたつくらいしか残っていなかった。読み始めてまもなく、僕は雑誌を閉じた。
スーパーを出ると四時近くになっていた。まだ帰る気にはならなかったが、別に行きたいところは無かった。あの貰い物ばかりで埋もれた狭い部屋に戻るのが嫌だった。
家に帰らず、ひたすら歩き続けた。どんどん家を離れ、森へと入った。結局、僕が行き着いた先は、ブックカフェ<黄泉なさい>だった。

コメント

コメントを書く

「現代アクション」の人気作品

書籍化作品