カイカイカイ…

霜月 秋旻

アンケート

ブックカフェ<黄泉なさい>のスタッフルーム。店主の黒沢シロウはモニター越しに、席を立つ安藤快の姿を眺めていた。シロウの目に狂いはなかった。彼ははじめて安藤快を見たときに感じた。安藤快は自分を偽っていると。以前、妹のアカネから安藤快の話を聞いていた。アカネはいつもこの<黄泉なさい>に来て、原稿用紙に学校であった出来事を書いては、従業員の江頭を通じてシロウに読ませていた。そして、シロウは安藤快に興味を持ち、アカネに連れてくるよう指示した。そしていま、<懐の書>を読み終えた安藤快の姿をみて、確信した。やはり彼は自分を偽っていたのだと。
氷川喜与味も同様だった。彼女も自分を偽っていままで生きてきていた。彼女も、アカネにここに連れてこさせ、<壊の書>を読ませると、面白いくらいに変貌した。
自分の感情を隠し、自分を偽って生きている人間の、本来の姿を見てみたい。それがシロウの願望だった。人のことをこそこそと探る。まさしくそれは探偵。彼はその職業に憧れていた。しかし結局彼はその職業につかず、ブックカフェの店主をしている。ただし、客に自分の姿はみせない。自分の素性は明かさない。
妹のアカネや安藤快が通う学校に、シロウの後輩がいる。その後輩に、シロウは定期的にアンケート用紙を郵送で送っていた。そのアンケートを生徒達に配り、回答してもらうように手紙も添えた。アンケートの内容は自分の趣味や特技に関するものだ。回答ははい、いいえ、どちらでもないの三択で答えるしくみ。
後輩から送られてきたアンケート結果をみると、妹のアカネがいるクラスの中で、氷川喜与味と安藤快の回答が、どちらもすべて<どちらでもない>だった。何にも無関心だと、自分を偽っている、もしくは本当の自分に気付いていないと、彼は感じた。


店を出る安藤快と氷川喜与味の姿を、シロウはニヤニヤしながらモニター越しに観ていた。このあと安藤快がどう変化するのか、それが楽しみだった。安藤快をキヅキの森に閉じ込め、<覚醒の拡声器>を発現させ、そして<懐の書>を読ませて過去の自分を思い出させた。さらにその先が、彼の楽しみだった。

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