カイカイカイ…
覚醒の拡声器
突如出現したその拡声器に、重さは無かった。見た目は凄く大きい。しかし空気のように軽い。木でできている。しかし形だけだ。目を瞑れば、手に何も持っていないような感覚。しかし目を開けると、右手には確かにその拡声器が握られている。幻想のようで、現実。
「その拡声器は、君の心が作り出した君自身の願望だ」
突然後ろから声がした。振り返ると、そこには黒いスーツに黒いサングラスをかけた男が立っていた。以前、学校の校門に木槌を持って立っていた男と格好が似ている。もしかすると、この男が例の<キヅキ>かもしれない。
「キヅキ…さんですか?」
恐る恐る、僕はその男に尋ねた。すると黒服の男は「違う」と答えた。
「ヒビキ。わたしの名はヒビキだ。とりあえず名前だけは教える。しかし私の素性などどうでもいいだろう。いま君が知るべきなのは、君がいま手に持っているその拡声器についてだ。そうだろう?」
ヒビキと名乗るその男が何者なのかも気になるが、たしかにこの拡声器のことが、僕はいま一番気になっている。
「その拡声器は<覚醒の拡声器>。その拡声器は、君の心の中の叫びを具現化したものだ。この森を彷徨い、空腹と疲労による怒りが君の中であふれ出しそうになり、それを放出するために出現したものだ。君は気付いていなかったかもしれないが、さっきの君の叫び声は、その拡声器をつたって、この<キヅキの森>全体に響き渡った。さっき君は無意識のうちに、その拡声器を使っていたのさ」
「覚醒の…拡声器?」
「そう。その拡声器は、隠していた自分の本性を開放したときに現れる。どうだ?さっきまでと気分が違うだろう?今まで君は、本音を心の奥底に隠して生きてきたんじゃないのか?言いたいことも言わずにまわりに合わせて、まわりに遠慮して自分の感情を消していたんじゃないのか?」
遠慮。そう言われてみると、たしかに僕は今まで、遠慮していたのかもしれない。僕は目立つことが嫌いだ。下手に自己主張をしてまわりから浮くよりは、目立たずに無難で平凡な学生生活を送っていたほうがいい。そう思っていた。
しかし先ほど叫び終わった後、妙な爽快感があった。今まで溜め込んでいたものが一気に吐き出されたような、そんな快感があった。遠慮。僕は無意識のうちに、遠慮していたのだ。自分の本心を、自分の考えを、人に伝えたいことを外に吐き出さず、自分の心の奥底に仕舞っていたのだ。仕舞われたまま、忘れ去られた感情が、引きずり出された。
「おめでとう。少しではあるが、これで君は前へ進めるだろう。安藤快」
ヒビキは僕の名前を知っていた。なぜ知っているのかを尋ねようとしたが、気が付くと、<ヒビキ>の姿は消えていた。そして持っていたはずの<覚醒の拡声器>も消えていた。徐々にあたりが明るくなってきた。朝だ。僕は一晩中、この<キズキの森>を彷徨っていたらしい。
同じ道をぐるぐるまわっていたのが信じられないくらい、僕はあっさりと<キズキの森>を抜け出すことが出来た。心地よい風が吹いていた。
「その拡声器は、君の心が作り出した君自身の願望だ」
突然後ろから声がした。振り返ると、そこには黒いスーツに黒いサングラスをかけた男が立っていた。以前、学校の校門に木槌を持って立っていた男と格好が似ている。もしかすると、この男が例の<キヅキ>かもしれない。
「キヅキ…さんですか?」
恐る恐る、僕はその男に尋ねた。すると黒服の男は「違う」と答えた。
「ヒビキ。わたしの名はヒビキだ。とりあえず名前だけは教える。しかし私の素性などどうでもいいだろう。いま君が知るべきなのは、君がいま手に持っているその拡声器についてだ。そうだろう?」
ヒビキと名乗るその男が何者なのかも気になるが、たしかにこの拡声器のことが、僕はいま一番気になっている。
「その拡声器は<覚醒の拡声器>。その拡声器は、君の心の中の叫びを具現化したものだ。この森を彷徨い、空腹と疲労による怒りが君の中であふれ出しそうになり、それを放出するために出現したものだ。君は気付いていなかったかもしれないが、さっきの君の叫び声は、その拡声器をつたって、この<キヅキの森>全体に響き渡った。さっき君は無意識のうちに、その拡声器を使っていたのさ」
「覚醒の…拡声器?」
「そう。その拡声器は、隠していた自分の本性を開放したときに現れる。どうだ?さっきまでと気分が違うだろう?今まで君は、本音を心の奥底に隠して生きてきたんじゃないのか?言いたいことも言わずにまわりに合わせて、まわりに遠慮して自分の感情を消していたんじゃないのか?」
遠慮。そう言われてみると、たしかに僕は今まで、遠慮していたのかもしれない。僕は目立つことが嫌いだ。下手に自己主張をしてまわりから浮くよりは、目立たずに無難で平凡な学生生活を送っていたほうがいい。そう思っていた。
しかし先ほど叫び終わった後、妙な爽快感があった。今まで溜め込んでいたものが一気に吐き出されたような、そんな快感があった。遠慮。僕は無意識のうちに、遠慮していたのだ。自分の本心を、自分の考えを、人に伝えたいことを外に吐き出さず、自分の心の奥底に仕舞っていたのだ。仕舞われたまま、忘れ去られた感情が、引きずり出された。
「おめでとう。少しではあるが、これで君は前へ進めるだろう。安藤快」
ヒビキは僕の名前を知っていた。なぜ知っているのかを尋ねようとしたが、気が付くと、<ヒビキ>の姿は消えていた。そして持っていたはずの<覚醒の拡声器>も消えていた。徐々にあたりが明るくなってきた。朝だ。僕は一晩中、この<キズキの森>を彷徨っていたらしい。
同じ道をぐるぐるまわっていたのが信じられないくらい、僕はあっさりと<キズキの森>を抜け出すことが出来た。心地よい風が吹いていた。
「現代アクション」の人気作品
-
-
4,117
-
4,980
-
-
972
-
747
-
-
811
-
720
-
-
735
-
1,674
-
-
184
-
181
-
-
183
-
113
-
-
180
-
728
-
-
175
-
157
-
-
149
-
239
コメント