カイカイカイ…

霜月 秋旻

衝撃

「それよりもおぬし、いい機械を持っておるな。ちょっとわしに貸してくれないか?」
末永弱音は、僕が持っているスマートフォンを指差して言った。僕は持っていたスマートフォンを、ライトが点灯したまま末永に手渡した。
「ほう、思ったより軽い機械だな。わしの息子や孫も、似たような機械に夢中になっておったよ。それにしても、これは電話なのか?おもちゃなのか?」
末永は眼を細めて、僕のスマートフォンをもの珍しそうに見る。
「多機能携帯電話です。これひとつでいろんなことができますよ。電話はもちろん、メールもできるし音楽聴いたりネット検索したり、写真を撮ったりゲームもできます」
「ほぉ、多機能…ねえ。こんな小さな機械ひとつでか。世の中も進歩したものだな」
宝物でも見るかのように、末永は僕のスマートフォンをまじまじと見ている。すると手が滑ったのか、末永は持っていた僕のスマートフォンを足元に落とした。
「おっとすまん。つい手が滑ったわい」
僕はその落ちたスマートフォンを拾おうと、しゃがみこんで地面に手を伸ばした。すると次の瞬間、巨大な鈍器のようなものが物凄いスピードで、しゃがみこむ僕の頭上から落ちてきた。鳴り響く轟音。気付いたときには、地面にあったスマートフォンは既に潰されて、粉々になっていた。一瞬の出来事。何が起こったのがわからなかった。見上げると末永が険しい表情をしている。末永の手には、知らぬ間に巨大な木槌が握られていた。
「こんなもの…、こんなもの、人間を退化させる毒だ!現代の悩める病の象徴だ!この<キヅキの森>には相応しくない!必要ない!」
地面に散らばっている、粉々になった僕のスマートフォン。それを僕はしばらく眺めた。僕の中の大半を占める大事な何かが一瞬で粉々になったような、そんな感覚を覚えた。あまりに不可解な、突然の出来事。突然出現した巨大な木槌。粉々になった僕のスマートフォン。あまりの衝撃に頭が追いつかない。怒り、悲しみ、喪失感。きっと僕を襲っているのはそのいずれでもないのだろう。恐怖、あるいは混乱に近いなにか。

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