カイカイカイ…

霜月 秋旻

引き受ける

喜与味は胸ポケットから、折りたたまれた紙を広げて僕に見せた。それは原稿用紙だった。何枚か重なっている。それを僕に見せた。


『誰かの為に生きたい。誰かの役に立つのなら、誰かが喜んでくれるなら、あたしはどんなことでも嫌な顔を見せずに引き受ける。そう思って生きてきた。しかしそれは結局あたしが勝手にそう思っているだけで、まわりから見たあたしは、ただの利用しやすい便利屋だったのかもしれない。あたしはまわりの人間に、いいように利用されていただけだった。
昼休みに購買へ買い物を頼まれたり、授業のノートを見せてあげたり、学級委員を引き受けたり。あたしがそんなことばかりしているうちに、だんだんとまわりの人間が、だらけていっているように思えた。あたしが誰かの為にと思ってやっていることは、あたしのただの自己満足で、あたしは結局、まわりの人間を駄目にしているだけだった。誰かの為とか言いながらあたしは、いつのまにか自分のことしか考えていなかった。
あたしは、まわりの人間にただ、いい人だと思われたいだけだったのかもしれない。嫌われるのを恐れていたんだと思う。心を開ける親友もいなかったあたしに出来ることは、なにかを『引き受ける』ことだけだった。断ることは許されない。断ったら一気に嫌われ、いじめの対象になる。それを何よりも恐れていた。
そんなふうに過ごしているうちに、あたしは自分がわからなくなってきた。あたしは何のためにここにいるんだろう、あたしは利用されるためだけに存在しているのかと、そんなことを思うようになった。あたしはきっと、誰かと心から仲良くなろうとは思えないだろう。あたしに近づこうとする人間は、あたしを利用するために近づく。あたしときっと心から通じ合おうとは思っていないはずだ。そんな風にあたしは考えるようになった。いつのまにかあたしは、人間不信に陥っていた。』


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