俺が女の子にされた理由(ワケ)
5話ナンパをするなら食堂で
俺は夢を見みていた。
卒業式の終わったあと、校門前。
白い渦の咲き誇る桜の木の下、その人は俺が来るのを待っていた。
  名前も顔も誰か分からないその子は頬を紅く染めながら、毎日俺に同じことを言う。
『夢じゃなかったんだね私達』
『そうだな』
『だいぶ遠まわりしてきたけどようやく言える……』
『好きだよ柚月』
夢の世界の俺はどんな表情をしているのだろう。
それに彼女は一体誰なんだ。
*
後日……俺は約束通りに熊谷さんと学食にやって来た。 収容人数300人、メニューも豊富に値段も安い、水、お茶は飲み放題と学校自慢の学食だ。
中は常に清潔に保たれており、男子生徒ならず女子生徒の利用者も大勢いる。
俺と熊谷さんはとりあえず別れて昼飯を買うことにした。 言っても俺は購買の卵パンとサンドウィッチを買っておいたので席を取る役割を受けたのだが……この時間帯学食内の席は既に殆どが埋まっている。
辺りを見渡せば曽根や弘樹のグループも見え頼み込めば二人分ぐらい確保出来るだろうけど、昨日の件もあってか熊谷さんを男達の中でご飯を食べさすのは気が引けるの。
結構端まで歩いて来たがこれまた中々の混雑具合だ。 ようやく空きの席を見つけた席だがなんと二人用。 
確かに二人しか居ないけど向かい合って食べるとなると気まずいな……何が気まずいって俺がホントは男ってことを熊谷さん知らないんだよな。
「ま、彼女は俺を女だと思ってるんだ。 演じてやるよ、女子高生とやらをな」
席に着き熊谷さんが来るのを待つ。 
人の問題ばかり考えてるけど、結局俺の問題も行き詰まったまま。 このままずっとこの姿なのか、いやいやバカなことを考えるな中森柚月。 きっと解決策はある。
「ねぇそこの席良いかな?」
「ん?」
急に声をかけられた俺はすっとんきょうな声を出し聞こえた方へ片目を向ける。
声の主は甘い笑顔を向けながら首を傾げる。
…………すごくイケメンだ!
てゆうか俺のこいつのこと知ってる!
くっきりとした顔立ち、高身長、整えられた髪。 こいつがイケメンなら俺はせいぜいカッコいいどまりの人間だ。
学校七不思議の一つにこんな話がある。
青年は困っている女の子の場所に突如現れ、手を差し伸べる。 見せる笑顔は夏のひまわりのように大きく輝いて多くの女子を魅了する。 名を長門蒼真《ながとそうま》という。
間違いない、クラスや棟は違えども一度見れば忘れることもない。 別名ヒマワリの王子様と女子の間では呼ばれてるらしいがその王子様が一人でどうしてここに。
ま、まさか!? 席を奪いに!? イケメンなら何されても許される世界とでも……。
「え、えっと……こほん。 もともと俺が座ってた席だから譲れないかなー? なんて……」
すると長門は目を丸くしながら違う違うと首を振る。
「ごめん、もっとはっきり言えば良かったね。 もし良ければ俺と昼飯食べないか?」
「へ?」
こいつ何言ってんだ。 席を取りに来たんじゃないのか。 お昼? なんで一緒? 
思考回路が著しく低下する中ざわざわした周りの声が鮮明に耳に届く。
『ねぇ! 見て! 蒼真君がお昼誘ってるよ!?』
女子の嫉妬に溢れた鋭い視線。
『てかあいつ女の子? 男の子? なんでズボン履いてんだ?』
『流石に男は誘わねーよ。 それに見ろよめっちゃ可愛いじゃん! いーな蒼真は許されるもんなー!』
『世の中理不尽だよな』
男子の皮肉にも聞こえる励まし合いの言葉。
ダメだ……変に緊張する。
「ごめんな……ちょっと大胆すぎたかな?」
ぽりぽりと頬をかきながら長門は苦笑する。
でもどこも緊張した様子を見せない辺り、普段から慣れた視線なんだろうか。
「無理にとは言わないけどどうかな?」
断る選択肢を相手に与えてるかのような言い回し、でも彼の表情は断られるなんて思っていないそんな自信に満ちている。
イケメンだから出来ること……でもこいつは知らない。 俺はこれが初めてじゃない、慣れた状況だとわな。
「ごめんなさい! 人待ってるから?」
満面の笑みを浮かべて断ってやる。
俺は期待なんてさせない、断固拒否。 これで何度も女は諦めた。 
ここまできっぱり言ってやれば大抵の人間は何も言えずに引き返す、さぁ王子様よ無様に散るんだ、そして帰れ。
そもそも俺は熊谷さんと食べる約束をしているわけで帰ってくれなきゃ困る。 マジで。
「あはははそっか……断られたか。 じゃあさ俺も入れてくれないかな?」
「はい……?」
「俺さ、今日約束とか全部断っててさ一人なんだよ。 良ければ仲間に入れてくれないかな?」
この男、一筋縄じゃいかない!? 
断られたことを知っての台詞か、どうしたものかと考えながら俺は水を飲み喉を潤す。
「えっと……友達結構シャイだから目立つのイヤなんだよね。 それに二人で約束してたからこっちの一任で決めれないし」
「なるほど……」
お、この反応は脈ありか。
よしよしここで引いて帰ろう、そうすればみんな幸せだ。 何しろ周りの視線がとても痛い、みんな箸が止まってるよ、ご飯食べろ。
「そこはなんとか話しつけてもらえないかな? それに大丈夫! 俺そんな目立ってないし、背中を向けて座ってたら誰だかわかんないよ?」
「そ、そーかな……そいう問題なのかな……」
しつこいな!? このイケメンねちっこいぞ。 さっさと諦めろよ、こっちが優しく傷つけないようきっぱりと断ってるんだからさ。
それに背中を向ければ大丈夫だと、大丈夫なわけあるか、出てるオーラが違うんだよ。 こいつあれだ、周りの視線に慣れてるんじゃない、そもそも興味ないんだ。
「それに俺は君に興味がある」
「えっ……」
「あ、その深い意味じゃないよ!? 気になるというか変な意味じゃなくて! って!? 顔紅いけど大丈夫!?」
「バッ!? 赤くなんか……そだよ! 赤くねーし!? 急にナニ言ってんの!?」
落ち着け落ち着くんだ中森柚月。 こんな見え透いた決まり文句に耳を貸すな。
それにしてもなんだこいつの囁く声、男の俺でも心を揺さぶられるぐらい甘い声。
熱くなった顔を隠しながら俺はそっぽを向いてなんとか平常心を保ちながらぎこちなく笑う。
「えっと……その…………だから……」
誰か助けて!? 言葉が出ねえ。
熊谷さんの所に逃げる? でもここで席を退いたら誰かに取られるかもしれないし、でもでもここにいたらこの諦めの悪いイケメンに口説かれるし、不幸すぎないか女の子になってから!?
  とりあえずどうにかこのイケメンをどっかに行かせたいんだけど、ダメだ顔が見れない……慣れてる筈なんだけどな告白も口説きも華麗にスルー決め込んできたのに、去年のあの時からやっぱり変わってしまったな。
「だから!?」
と俺が言いかけたところで前の椅子が音を立て誰かが座った。
キョトンとした表情を浮かべた俺とイケメンは向かい合いそのまま視線を傾ける。
するとその男子高校生は俺たちを見ながら興味もなさそうに真面目くさった顔をしながら机の上に折り鶴を置く。
「この席、俺が先に予約してたんだけど」
あ……熊谷さんホントどこ行ったんだろ。 また変な奴に巻き込まれ、どうやら俺の苦労はまだ長引きそうです。
卒業式の終わったあと、校門前。
白い渦の咲き誇る桜の木の下、その人は俺が来るのを待っていた。
  名前も顔も誰か分からないその子は頬を紅く染めながら、毎日俺に同じことを言う。
『夢じゃなかったんだね私達』
『そうだな』
『だいぶ遠まわりしてきたけどようやく言える……』
『好きだよ柚月』
夢の世界の俺はどんな表情をしているのだろう。
それに彼女は一体誰なんだ。
*
後日……俺は約束通りに熊谷さんと学食にやって来た。 収容人数300人、メニューも豊富に値段も安い、水、お茶は飲み放題と学校自慢の学食だ。
中は常に清潔に保たれており、男子生徒ならず女子生徒の利用者も大勢いる。
俺と熊谷さんはとりあえず別れて昼飯を買うことにした。 言っても俺は購買の卵パンとサンドウィッチを買っておいたので席を取る役割を受けたのだが……この時間帯学食内の席は既に殆どが埋まっている。
辺りを見渡せば曽根や弘樹のグループも見え頼み込めば二人分ぐらい確保出来るだろうけど、昨日の件もあってか熊谷さんを男達の中でご飯を食べさすのは気が引けるの。
結構端まで歩いて来たがこれまた中々の混雑具合だ。 ようやく空きの席を見つけた席だがなんと二人用。 
確かに二人しか居ないけど向かい合って食べるとなると気まずいな……何が気まずいって俺がホントは男ってことを熊谷さん知らないんだよな。
「ま、彼女は俺を女だと思ってるんだ。 演じてやるよ、女子高生とやらをな」
席に着き熊谷さんが来るのを待つ。 
人の問題ばかり考えてるけど、結局俺の問題も行き詰まったまま。 このままずっとこの姿なのか、いやいやバカなことを考えるな中森柚月。 きっと解決策はある。
「ねぇそこの席良いかな?」
「ん?」
急に声をかけられた俺はすっとんきょうな声を出し聞こえた方へ片目を向ける。
声の主は甘い笑顔を向けながら首を傾げる。
…………すごくイケメンだ!
てゆうか俺のこいつのこと知ってる!
くっきりとした顔立ち、高身長、整えられた髪。 こいつがイケメンなら俺はせいぜいカッコいいどまりの人間だ。
学校七不思議の一つにこんな話がある。
青年は困っている女の子の場所に突如現れ、手を差し伸べる。 見せる笑顔は夏のひまわりのように大きく輝いて多くの女子を魅了する。 名を長門蒼真《ながとそうま》という。
間違いない、クラスや棟は違えども一度見れば忘れることもない。 別名ヒマワリの王子様と女子の間では呼ばれてるらしいがその王子様が一人でどうしてここに。
ま、まさか!? 席を奪いに!? イケメンなら何されても許される世界とでも……。
「え、えっと……こほん。 もともと俺が座ってた席だから譲れないかなー? なんて……」
すると長門は目を丸くしながら違う違うと首を振る。
「ごめん、もっとはっきり言えば良かったね。 もし良ければ俺と昼飯食べないか?」
「へ?」
こいつ何言ってんだ。 席を取りに来たんじゃないのか。 お昼? なんで一緒? 
思考回路が著しく低下する中ざわざわした周りの声が鮮明に耳に届く。
『ねぇ! 見て! 蒼真君がお昼誘ってるよ!?』
女子の嫉妬に溢れた鋭い視線。
『てかあいつ女の子? 男の子? なんでズボン履いてんだ?』
『流石に男は誘わねーよ。 それに見ろよめっちゃ可愛いじゃん! いーな蒼真は許されるもんなー!』
『世の中理不尽だよな』
男子の皮肉にも聞こえる励まし合いの言葉。
ダメだ……変に緊張する。
「ごめんな……ちょっと大胆すぎたかな?」
ぽりぽりと頬をかきながら長門は苦笑する。
でもどこも緊張した様子を見せない辺り、普段から慣れた視線なんだろうか。
「無理にとは言わないけどどうかな?」
断る選択肢を相手に与えてるかのような言い回し、でも彼の表情は断られるなんて思っていないそんな自信に満ちている。
イケメンだから出来ること……でもこいつは知らない。 俺はこれが初めてじゃない、慣れた状況だとわな。
「ごめんなさい! 人待ってるから?」
満面の笑みを浮かべて断ってやる。
俺は期待なんてさせない、断固拒否。 これで何度も女は諦めた。 
ここまできっぱり言ってやれば大抵の人間は何も言えずに引き返す、さぁ王子様よ無様に散るんだ、そして帰れ。
そもそも俺は熊谷さんと食べる約束をしているわけで帰ってくれなきゃ困る。 マジで。
「あはははそっか……断られたか。 じゃあさ俺も入れてくれないかな?」
「はい……?」
「俺さ、今日約束とか全部断っててさ一人なんだよ。 良ければ仲間に入れてくれないかな?」
この男、一筋縄じゃいかない!? 
断られたことを知っての台詞か、どうしたものかと考えながら俺は水を飲み喉を潤す。
「えっと……友達結構シャイだから目立つのイヤなんだよね。 それに二人で約束してたからこっちの一任で決めれないし」
「なるほど……」
お、この反応は脈ありか。
よしよしここで引いて帰ろう、そうすればみんな幸せだ。 何しろ周りの視線がとても痛い、みんな箸が止まってるよ、ご飯食べろ。
「そこはなんとか話しつけてもらえないかな? それに大丈夫! 俺そんな目立ってないし、背中を向けて座ってたら誰だかわかんないよ?」
「そ、そーかな……そいう問題なのかな……」
しつこいな!? このイケメンねちっこいぞ。 さっさと諦めろよ、こっちが優しく傷つけないようきっぱりと断ってるんだからさ。
それに背中を向ければ大丈夫だと、大丈夫なわけあるか、出てるオーラが違うんだよ。 こいつあれだ、周りの視線に慣れてるんじゃない、そもそも興味ないんだ。
「それに俺は君に興味がある」
「えっ……」
「あ、その深い意味じゃないよ!? 気になるというか変な意味じゃなくて! って!? 顔紅いけど大丈夫!?」
「バッ!? 赤くなんか……そだよ! 赤くねーし!? 急にナニ言ってんの!?」
落ち着け落ち着くんだ中森柚月。 こんな見え透いた決まり文句に耳を貸すな。
それにしてもなんだこいつの囁く声、男の俺でも心を揺さぶられるぐらい甘い声。
熱くなった顔を隠しながら俺はそっぽを向いてなんとか平常心を保ちながらぎこちなく笑う。
「えっと……その…………だから……」
誰か助けて!? 言葉が出ねえ。
熊谷さんの所に逃げる? でもここで席を退いたら誰かに取られるかもしれないし、でもでもここにいたらこの諦めの悪いイケメンに口説かれるし、不幸すぎないか女の子になってから!?
  とりあえずどうにかこのイケメンをどっかに行かせたいんだけど、ダメだ顔が見れない……慣れてる筈なんだけどな告白も口説きも華麗にスルー決め込んできたのに、去年のあの時からやっぱり変わってしまったな。
「だから!?」
と俺が言いかけたところで前の椅子が音を立て誰かが座った。
キョトンとした表情を浮かべた俺とイケメンは向かい合いそのまま視線を傾ける。
するとその男子高校生は俺たちを見ながら興味もなさそうに真面目くさった顔をしながら机の上に折り鶴を置く。
「この席、俺が先に予約してたんだけど」
あ……熊谷さんホントどこ行ったんだろ。 また変な奴に巻き込まれ、どうやら俺の苦労はまだ長引きそうです。
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