その科学は魔法をも凌駕する。

神部大

第132話 声




「シン、君は――!」
「おいおい……今度は仲間割れかよ、狂ってるぜ」

「何だかもう、分からないけど……もしかしてこれって戦闘開始って感じ?」




 霧崎真、否、それは真でありながら真ではない真。
 霧崎真の脳内に埋め込まれた、山本尊作製プログラムコード人格No.2バイオキルヒューマンである。

 しかしながらその記憶と能力は元の人格及びNo.3バイオキルヒューマンである霧雨真と共有している。唯一違うといえばそれはあくまで考え方、思考の違いと言う事になるだろうか。


「月華元陽花。随分と演技がかってたな……それはそれでなかなか面白いゲームだったが。お前は消える前に全部話していけ、下らない何とかハッカーについてな」

「真……?何で、一体どうなって」
「ああ、もう演技は十分って意味で言ったのが分かんなかったか?頭いいんだろうが。長生きしたきゃ誠心誠意全て話せ、俺は気が短い」



 真はその手から黒き刀を提げたまま、月華元に向かって残忍な目を向けていた。

「待って、真!違う、違うのよ。私も知らなかった、フォースハッカーもデスデバッカーも、全部フォラスグループだったの。私は、何も、知らなかったのよ!!」
「――そうか、もういい」


 真はもうお前にも用はないとでも言いたげに、ただそう一言ぼそっと呟くと月華元へその剣を向けたのだった。
 元々の脚力、瞬発力に加速装置の上乗せがされ、収束された炭素収束刀(カーボナイズドエッヂ)は無遠慮に月華元の首へと迫る。


「シン!!」
「?」


 瞬時に振り抜かれた筈の黒き刀は、月華元を切り飛ばすその寸での所で一本の刃により抑えこまれていた。


「ハイライトシグエーだったか?何の真似だ、この女はお前に何の関係もない」
「そういう問題じゃない!君はまた罪を重ねるつもりか!もう止めろ、目を覚ませシン!君はあの時、後悔していたんじゃないのか?それで今までその償いをしようとしていたんだろう!?」

「何の話だ……あぁ、なるほど。ははは、我ながら笑える記憶だ。だがもういい、俺には関係ない事だ」


 今の真にとって、自分が人一人を殺した事を後悔するような記憶はただただ滑稽でしかなかった。
 ましてやそれに対し償いと、尻拭いを誰かの為にするなど。自分の記憶と行動ながら真は自分に呆れていた。


「ハイライト、邪魔だ。その時代遅れの鉄塊がいつまでも保つと思うなよ……FAIBE、高炭素収束刀(ダイヤモンズドエッヂ)」――OK.start expansion, additional supplement and converge with carbon!
「なっ!?ぐはぁ!」


 真の呼び掛けに応じたデバイスが電子音を発し、刹那真の手に持つ黒き刀は光を帯びながら今度は透き通る刃となってシグエーの直剣を叩き折っていた。
 その衝撃を逃しながら、シグエーは月華元を背後へ押し倒し、自分も地面へと倒れ転がる。


「ふん、センスの欠片も無いショーカットネームだ」

「げっ!ハイライトさんが圧されてる!?」
「馬鹿言え……今のは衝撃を逃がしたんだろうが。っち、あの変な女を庇ってなきゃハイライトさんが後手を取るわけねぇ!フィリップス援護だ」


 ボルグは素早く事態を鑑みて、足手まといであろう月華元の救出へ走る。フィリップスもそれに反応し慌ててボルグを追った。


「流石は試験官って奴か?無手流だったか、剣は折れてもやれるんだろうが?」
「く……シン、君は」

「ハイライトさん、援護させて貰います!――斬!」



 シグエーを見下ろす真へ、背後からブラインの声と共に一閃が飛ぶ。


「ダメだブライン!」
「……大丈夫、心配無用のようですよ。はっ、どうやら本物の手練みたいですね。流石はハイライトさんの知人って所ですか」


 ブラインはシグエーの身に危険を感じて一撃の遠打ちを放っていた。だが人を殺める事を嫌うシグエーの為、それをも理解し敢えての峰打ちだった訳だが。


「ふん、人間業じゃないな。衝撃波か何かか?」


 ブラインの一閃は真には堪えなかった。
 真の胴体は特殊化合物を織り交ぜた 耐刃、耐衝撃、耐腐食、断火断熱遮電性の超軽量型特殊防具で覆われている。もし狙うのであれば首から上を、瞬時に切り飛ばす必要があった。


「おいおいブライン、手加減してんじゃねぇよ」
「ブラインの技も手加減できんだね」

「悪いが手加減ではなく神星一閃流の技だ、峰打ちでも骨を砕き、臓物を破壊する。筈だったのだがな」



 ブラインは平静を装いながらも内心では多少の動揺を覚えていた。

 今までブラインの一閃を避けた者、逸らした者はいる。その一人が敬愛するハイライト=シグエーその人でもあるのだが、まともにブラインの神星一閃流、その技を受けて何一つダメージを受けない生物はかつて一人たりとも存在しなかった。

 魔族ですらブラインの本気であれば通用するその技が、ただの人間がまともに受けきるなど考えられない事であった。


「お前らはそこの女に何の思い入れがある?まぁ、邪魔するなら一緒に消すだけだ」

「やめて真!」
「よせシン!」


 真はそう言うと、月華元とシグエーの悲痛な叫びを無視しデバイスを一瞥する。


「っち、バッテリー限界。もう少しやるしかないか」



「――おぃ、フィリップス。アレだ。アレをぶっ壊すぞ」
「え……あれって。あの変な魔力機?」
「あぁ、あれがおかしな力を持ってるに違いねぇ。ブラインが相手してる間に隙を見てやれ、何なら本気でやっても構わねぇ」

「本気って、不味いでしょ。殺しちゃったら後でハイライトさんに何言われるか分かんないよ?」
「馬鹿野郎!こっちが死んだら一緒だろぅが!」


「――ん、何だ?お前ら、逃げたきゃそこの女を置いてけ。そうしたら見逃してやらなくもない」




 月華元を避難させていたボルグとフィリップスは二人で真のデバイスを狙う作戦を立てていた。
 他の者にはそんな二人の会話等聞こえてはいない。だがボルグの視線にブラインは何かを察し、再度の戦闘態勢を取った。


 神星の理、ギルドでも稀なA階級パーティ。
 それは互いの信頼と力から引き出されるコンビネーション。
 言葉を交わさなくても互いの意思が伝わる、だからこそこの三人はパーティでここまでの階級に成り上がった。


「俺が相手だ。ハイライトさんの知り合いらしいが、手を出すなら容赦は出来かねる」

「ブライン、止めるんだ。僕は平気だ、シン、落ち着け!大丈夫だ、ラベール花を直ぐに手に入れる。抑えてくれ!」
「すみませんがハイライトさん。私もリーダーとして仲間を守る義務がある」


「ふん、いいねぇ。来いよ!久し振りに楽しませてくれ、時代遅れな異星人が」



 再び構えるブラインと不敵に笑う真。
 その緊迫した間合いの中には、最早誰も横槍など入れられはしなかった。


「神星一閃流、参る!」


 
 ブラインは一瞬で真への間合いを詰め、右手の愛刀を逆袈裟に切り上げた。それは目にも留まらぬ高速、否瞬速の一閃。
 だが真はその剣筋を線で捉え、高炭素収束刀で一気に叩き切ろうとしていた。

 真は完全に舐めていた。この世界の文化を。錬金の技術を。


「サアァ!!」
「くっ!?」


 激しい金属音が静寂を斬り裂く。
 向けられた剣を初めから斬り飛ばすつもりでいた真は、弾ける掌の衝撃に一瞬怯まされていた。

 ブラインの愛刀は真の高炭素収束(ダイヤモンズドエッヂ)の斬撃を確実にその剣身で受け止めていたのだ。

 シグエーの持つ剣とは違う。
 それはこの世界の、A級武具を超える業物。人間が作りし最高の一品。人智ノ具ヒトノタマワルモノ、雨百合。


「ただの金属じゃぁないな、ちっ……ナマクラの分際で」
「ふん、我が愛刀・雨百合をそこらの剣と舐めるなよ……接破!」

「ちぃ!」



 暫しの鍔迫り合い、だがブラインはそこから零距離の剣波を撃ち放つ。
 原理のわからぬ衝撃に真は思わず体勢を崩し後ろへと跳んだ。


「今だボルグ!!」
「行くぞ、フィリップス!」
「あいさ」


 その僅かな隙にボルグが戦場へ躍り出る。
 体勢を立て直す真、その数瞬の隙をボルグの戦斧が引き延ばす。
 
「こんの――」
「貰ったァァ!」


 そこへ空かさず飛び込んだフィリップスの双剣。
 一刀を間一髪で避けた真は、フィリップスのもう一刀によって片手に持つデバイスを宙に弾き飛ばされた。


「ボルグ!!」
「おっしゃぁぁ!ぶっ壊す!!」

「この餓鬼がぁ」
「ぐふ」



「フィリップス!!」


 真のデバイスを弾き飛ばした事により出来たフィリップスの隙に、今度は真の加速回し蹴りが撃ち込まれる。
 だがその時には既にフィリップスの目的は達成されていた。
 ボルグが全力で打ち下ろした戦斧は地面を割り、デバイスは地中に埋まっていたのだ。


「ざまぁねぇ――ぜ?」
「脳筋が」


 ボルグは油断していた。
 無事に目的を達成した事で安心してしまった。
 真に向き直り不敵な笑みを零そうとした所で、手空きになった真の跳躍蹴り下ろしをまともにその身で受けることとなった。

 ボルグの身はくの字に折れ曲がりながら地面に叩きつけられ、刹那その口から血飛沫が舞う。

 真の本来得意とするのは剣術等では無い。
 加速システムによりその動きが速く、鋭く、あたかも歴戦の剣士の如く見えるだけ。
 地の動きだけでも十二分に世界を統べる程の力量を持つ格闘技、それに加速システムと言う科学技術が上乗せされた体術こそが霧崎真と言う男の真骨頂なのだ。


 蹴撃一つとってもその方法は多岐にわたる。
 蹴り方次第では相手を弾き飛ばすだけの牽制に、又は骨や筋繊維を千切る足止めに。

 そして衝撃を逃がさぬよう地に叩きつけるような蹴りは、内臓破壊を目的とした正に殺すための技。


 ボルグは最早立ち上がる意思どころか、その幾分刃を通さない為の鎧のお陰で心臓さえ辛うじて動いているものの既にその意識を失っていた。


「ボルグ!!」
「貴様ぁぁ!!」

「シン、もうやめてくれ!」


 怒りに打ち震えたブラインとフィリップスは慌ててボルグへと駆け寄る。
 だが真は何事も無かったかのようにデバイスが叩き込まれた場所へと歩き、徐にその亀裂に手を突っ込んでいた。


「ふぅ、やはりこれは体内に埋め込むべきだな。手間をかけさせやがって」


 周りの怒りを余所に、真はそう呟きながらデバイスを手に取り充電を確認していた。
 デバイスは傷一つ無く、まるで少し遊びに出かけてましたとでも言いたげに相も変わらず再び真の掌に納まる。


「なっ……無事、だと!?」
「へ!?」

「無理よ……デバイスは、超高強度カルビン性特殊合成樹脂。100tNの動的載荷までは反発力を強度に変換して耐えるの」


 月華元は死んだ魚のような目をして、しゃがみ込んだままただそう呟いた。月華元は既に全てを諦めていたのだ。


 殺戮マシーン。
 元々真達のような戦闘要員はあのアンドロイドキルラー殲滅の為に体内改造を施された人間であり機械なのだ。それでも同じ仲間としていられたのはそこに理性と自制心があったから。
 だか山本の言葉によってそれは甘かったのだと月華元は思い知らされていた。


 戦闘要員は、否、その成功品である真は人格すら兵器に改変されている。ならば今の真は最早人間では無くただの兵器、それを操る事など出来はしないのだと。
 と言うより今の月華元にはその方法が解らなかった。
 プログラム人格開発者である山本ももう既にこの世にはいない。
 だとすれば後は柴本統括か結城咲元であるが、地球への通信はあまりにも時間差がありすぎた。
 月華元は既に真の様子がおかしいこと、山本の死を、地球の座標宛てに送信していたがその返信は未だ無い。
 きっと、その返信が来る時には自分はもう死んでいるのだろうと月華元は既に全てが嫌になっていたのだ。

 フォラスの考え方も、研究員達の考えも、そして自分が携わった研究も全て。


「シン!!もう止めろ!!」

「悪いが遊びは終わりだ。FAIBE、粒子分解」
――ok,Please order range setting. The smallest range is……

「ふん、そうだったな。俺が躊躇ってるっていうのか」


 真は皆を一瞥しデバイスへそう指示したが、返ってくる電子音を聞くなり忌々しげに斜め下を向く。


 真の持つデバイス、FAIBEには操作方法が三通りある。

 一つは言わずもがな手動操作であり、次に音声認識操作である。

 これは主人格である真もよく使う方法であり、使い勝手としては遠距離でも手動操作と同じようにデバイスを操れる利点がある。
 だがもう一つ、霧雨真ですらもその機能を完全に使いこなせない方法をNo.2は知っていた。

 それは山本尊により作られたプログラムコードに書き込まれている人工人格ならではの操作。


 FAIBE―――Full Artificial Intelligence Builtin Equipment―――完全人工知能型機器端末。

 そのFAIBEと言う一つのAIに、直接真の脳内シナプスからアクセスする切替直信型操作である。
 これによりNo.2は脳内からFAIBEへ指示を送る事が出来、決定、発現まで時間差がほとんど無い。

 だがNo.2真が粒子分解を指示した時、FAIBEはその指示の続きを待った。範囲設定をどうするのかと。

 それはつまり真が脳内で粒子分解を躊躇った事と同意なのである。


「範囲は、決まってるさ。まと――」




 ――シンちゃん

 纏めて消せ、そう言おうとした。
 発言する必要は無い。ただ脳波を正確にコントロールする為、FAIBEへ確実に脳波回路切替をする為に、真はそう言葉を放とうとした刹那だった。
 首に提げていた小さなパズル型の魔力機から聞こえる寂しげな音に、真は刹那声を失っていた。



 ――シンちゃん、助けて!


 再度聞こえるその声は先ほどより切迫したもの。
 それは必死で、紛れもなく真を心から求める大切な音。

 忘れてはいけない、初めて聞く仲間の、助けを乞う声だった。




 
 



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