その科学は魔法をも凌駕する。

神部大

第124話 開幕、魔大戦


「クソっ!離せっ、武力で抑えようとするならば武を以って正すのみ!」
「ぐぁ」

「く、この女……何者だ!?おいそこの端兵!手練だ、城内から応援を呼べっ!!」



 魔力機の街灯が照らす薄暗い都の城門前には一人の女騎士が複数の警備兵に囲まれていた。
 銀色のフルプレートアーマーに身を包む女剣士、一見何処ぞの荒れくれ者のようだがその主張は正しく民の代表とも思える発言だった。

 しかしそんな一般国民の言葉をおいそれと受け入れるような国の兵士はここに一人としていはしない。

 力づくでその蛮女を取り押さえようとする兵士達、それをまた力づくで振りほどこうとする女剣士。 城門前はいつしか、それを見学する為に集まった人だかりに満ちていた。
 
 
「お前らはそれでも国の騎士か……民は苦しんでいるぞ。あまつさえ歳いった者を死刑などと許せるものか!国王を出せ!今すぐだ」

「応援はまだかっ!突破されるぞ!」


 籠城のリヴァイバル王国。
 国王は国民から吸い上げた税を貯めこみ、いつかの戦の為にただひたすらその身を潜めていると言う。
 その上でリヴァイバル王国は国民の士気を僅かな税の還元以外で保つ為、自分達よりも立場の低い奴隷と言う制度を採用した。
 
 当然ながら奴隷にするのは専ら人間ではない種族である。
 未だその発生区域こそ判明してはいないが、リヴァイバル国内には獣族と言う亜人の集落があった。獣族は成人すると人間の数倍の運動能力を発揮し危険と言われるが、知能は低く幼い内から躾を施せば従順な下僕となるのだった。

 それを上手く利用し、国民を宥めるように助言したのは他でもないファンデル王国第三王子ダルネシオン=ファンデルである。
 現在も秘密裏にそんな奴隷確保をリヴァイバルの人間と共に行い、働けなくなった年寄りを一掃して少しでも国出を減らす案を出したのもまたダルネシオンその人だ。

 最早今のリヴァイバル王国はダルネシオンの支配下と言っても過言ではなかった。だがそれは何れファンデル王国をその手中に収める為だと現リヴァイバル国王もそんなダルネシオンの言葉を呑むしかなかったのだろう。




「騒がしいですねぇ……何の騒ぎかと思えばこんな所で何を暴れているのです?」
「シャペ元帥っ!?」
「い、いえ……この者が城内へ侵入を」

「貴様がこの国の兵士を纏める者か!国王に会わせろっ、物申す!」


 黒髪の長髪はべたついた艶により街灯に反射する。細身の体躯は兵士を纏める者というより最早死に体の老人のようであったが、シャペ元帥と呼ばれたその男の兵装は他の兵士とは違う装飾の施された、明らかに上階級のもの。

 シャペ元帥は現国王より前の先代国王の時からこの国にその側近として君臨しているが、それがいつからかと言うのは今のリヴァイバルで知る者はいない。


「国王に?ほほ、それはそれは豪胆な……しかし国王は今お休み中なのですよ。此処の取り仕切りは代役の私がさせて頂いております。して、ご用件は?」
「しらばっくれるな、貴様ら!この国の民を何だと思っている!税を毟り取り、獣族の子供を奴隷だと?あまつさえ年寄りを死刑にする法などあってたまるか!」

「ほぅほぅ……何かと思えば、下らない。貴方達もこの程度の者を捕らえられないとは何とも情けない話」


「もっ、申し訳ありませんっっ!」



 シャペ元帥は微笑みながらも呆れ、辺りに倒れた兵士に侮蔑の目を向ける。だがその言葉は女剣士、レヴィーナを逆撫でさせるのに十分のものだった。


「下らない……だと?」
「えぇ、下らないです。そんな話等どうでもいい。それに見た所貴女、この国の人間ではありませんねぇ。ノルランドでしょうか?そういえばあそこの国もここと同じような法がありませんでしたか?まぁどうでもいい話ですが……兎に角私は今忙しいのでこれ以――?」


 レヴィーナが向けた切っ先、それはシャペ元帥の喉元にあった。
 だがその状況にあってもシャペ元帥は微動だにしない。


「……どうするおつもりで?力で国を捻じ伏せられるとでも?」
「必要ならそう、させて貰う」











 レヴィーナ=レジベンス。
 彼女はノルランドの第二都市で生まれ、育った。
 他の都市に比べ規模は小さく、一つのアーコロジーとしては豊かとは言い難い都市。
 だがそれでも両親と共に幸せに暮らしていた。両親も少し歳を重ねすぎたものの念願の子供に幸せを感じ、レヴィーナを可愛がった。


 だが人一人の人生等、世界の決断一つであまりにも唐突に、あまりにも容易く変わる。

 小さなアーコロジーの資源は限られていた。
 それは大国ノルランドであろうとも、寧ろ外部との交戦を嫌う国だからこそ、自国の資源は貴重であった。

 よって仕事の出来無いもの、資源を食い潰すような人間は国に不要だった。
 ノルランド皇国の皇帝は国内全土の、ある一定の年齢に達した者を皇国管理元に置く法を建てたのだ。
 きっかりと、確実に国の為に働いてもらう為。
 国の未来の為、役立つ貴重な人材になる若者達の負担にならぬよう。身体の不自由になりそうな歳の人間を国で強制的に管理し、使えなくなったら処分する。
 これがノルランド皇国が新たに定めた絶対的な法であり、正義であった。


 レヴィーナが20になる頃、レヴィーナの両親はその法に則り皇国の管理下へ連行された。
 正義と言う大義名分、そして武力の前にレヴィーナは為す術も無かった。
 婚約中であったレヴィーナ、幸せを前に人生の絶望を叩きつけられた瞬間であった。


 レヴィーナは強くなる事を決意した。
 大切な人間を奪った国に一人反抗する為、全てを投げ捨て、レヴィーナは冒険者となった。
 強く、誰にも負けない武力こそが本当の正義を正せる唯一のものだと信じて。









「武を以って自らの正義を押し付けますか……何とも人間らしい。ですがまぁ、貴女のような者は久しく見なかった。いいでしょう、お相手して差し上げますよ、このままでね」
「ふっ!」



 シャペ元帥は微笑みを崩さないまま、レヴィーナの向けた剣先をすり抜けゼロ距離からの一蹴を見せた。レヴィーナはその動きに素早く反応し、バックステップと半身を捻る事でそれを躱す。
 
「温い!」
「!?」


 だがシャペ元帥の動きは異常であった。
 殺気。次の一撃でレヴィーナは直感的に殺されると理解させられた。

 長き旅、幾多の交戦、そしてA階級まで登り詰めた彼女だからこそ判る、本気でやらねば自分が殺られると言う半ば野生の勘にレヴィーナの身体は自然に動いていた。

――――ボッ


「きっ、貴っ様?!」
「こっ殺した!?」
「死、死罪、死罪だぁ!全兵を呼べぇぇ!!」

「しまっ……」


 レヴィーナはシャペ元帥の首を、ただ反射的に、切り落としてしまったのだ。

 そこまでするつもりではなかった。
 峰打ちで終わらせるつもりだった。
 そしてせめて国王と話したかっただけなのだ。

 だがレヴィーナの身体は身の危険を感じ、極自然に、反射的に相手を、敵を、殺してしまった。

 今までにレヴィーナは人間を殺した事は一度たりとも無い。
 それは、それが自分の正義だと信じていたからだ。そして、それ程脅威となるような人間を相手に敵対した事が無いからとも言える。

 だが今レヴィーナを見ながら宙を舞う首は、確かにレヴィーナが振り払った瞬速の剣により飛んだもので間違いは無かった。



「な、ころ……私は」


 絶望。自らが起こした現実は正義に反するもの。レヴィーナは今までの怒りすら全て消える程の悪寒を感じ、真っ白になる思考のまま、今しがた人間を斬り殺してしまったその剣を取り落とす。



「正義とは、笑える」
「――っ!?」



 だが次の瞬間、レヴィーナは腹部に違和感を感じ視線を僅かに下げる。そこには一つの腕。
 伝ってみればその腕はシャペ元帥から伸びる長き一本の腕であった。
 レヴィーナの腹部を確実に貫いたその腕、その長さは凡そ人間のものとは思えない程異常に、長くなっていた。
 

「ぐぅ……ぐ、ほ」
「お遊びはもう終わりですよ人間。どうやら先走った馬鹿どものせいで我等の戦いが始まってしまったようですからね」



 見れば首のないシャペ元帥の元には一匹の蝙蝠が羽ばたいていた。
 首無きシャペ元帥にまるで何か話しかけるように飛ぶ蝙蝠。
 レヴィーナの思考が再び戻った時、その目には異様な光景が映っていた。



「ぐぎゃっ」
「シャ、シャペ元帥ぃぃ!?」


 阿鼻叫喚、次々と伸びるシャペ元帥の腕によって引き千切られていく兵士達。
 そして装飾の施された兵装を破きながら変貌していくシャペ元帥は黒紫色の体躯を現す。
 レヴィーナが切り落とした筈の首からは再度、否新たな体躯と同色の不気味な顔が生えていたのだ。


「がっ……ガー、ゴイル、だと」

「し、シェイプ様、どうやら悪鬼族も動き出しと模様でキャ。く、件の勇者の魔力も消えています、キャ」

 シャペ元帥であった筈の、今や漆黒の魔族となったそれに、周りを飛び回る蝙蝠が耳障りに喚く。

「ご苦労です。ん、ああ、あの勇者の小僧が死にましたか。もう少し持てば使い道もあったと言うのに……まぁ仕方ないでしょう。少し早いが魔大戦を始めるとしますか。我ベルゼブブ率いる種ガーゴイルは前魔王セレスに仕えましょう。ここの人間も使い道があるかどうか、まあいい、下っ端のガーゴイル共に適当に此処を一掃しろと伝えなさい」

「キャキャ!!」



 レヴィーナには理解出来なかった。
 今目の前で起こる事態が。
 誰かに、これを伝えなければならない。そうは思うが、誰に。

 ふと脳裏にシンと言うどこか不思議な男の顔が過ぎったが、その時既にレヴィーナはその生涯を終えていたのだった。


 
 人の死、それは誰にも等しく訪れる。
 その人間の悲しみや不幸、幸せの数等関係無く、唐突に、それはとても不平等で、だが平等な死だった。


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