その科学は魔法をも凌駕する。

神部大

第108話 交錯

「ねえフレイ。私、どうなっちゃうんだろ……」


 夜空の星々はネイルの呟きを余さず呑み込み、その闇夜に孤独を振り撒く。


「心配するな。いざとなればギルドだろうがリトアニアだろうが敵に回すさ……友人の為ならこの命は厭わない」

「フレイ……それってあのシンって人の頼みだから?」
「そ、それもそうだが……ネイルは私の数少ない友人だ。当然だろう?」


 フレイはシンと言うその一言に過敏な反応を示したが、慌ててそれを取り繕った。

 フレイとネイルの付き合いは、ネイルがギルド官としてファンデル王都ギルドに配属された当初からになる。

 人付合いがあまり上手くなく、ギルド員達からいいように言われていたそんな頃。
 女でありながら単身でB階級へと上り詰めたその実力は皆周知であったフレイはそんな引込み思案なネイルと、ガサツなギルド員達の間を取り持った。

 そんな事が切っ掛けでたまに食事をするような仲となった二人、有名なギルド員に友人を持った事で心に余裕の出来たネイルは持ち前の冷静さで瞬く間にその手腕を発揮していった。
 その外見も相まって、今ではファンデル王国のギルドでも二番人気の受付嬢だ。



「なんで他人の為にそこまで出来るの……?」


 ネイルはだが、今ここに背負う事となった重い現実に思わずそんな事を呟いていた。
 それはフレイに対してと言うよりは自分自身に刺さる小さな心の闇に対してだったのかもしれない。

 フレイはふと立ち止まり、そんなネイルの小さな肩に優しく手を乗せる。


「他人じゃない、友人だ。と言ってもまぁ……私だからな、他人でもきっと助けてしまって裏切られる事もしばしばだ」


 フレイはワイドの街で自らの下を去って行った土竜団の事を脳裏に思い出していた。


「噂で聞いてる、土竜団よね。貴女は相変わらず。でも、私には……無理。もしフレイが危険な目に遭っても……私は貴女を助ける自信なんてないもの。私、最低よね、自分の事ばかり」

「そう思えるだけ随分マシさ。自分の為なら平気で人を犠牲にするような奴は幾らでもいる、私はそう言う人間を嫌という程見てきた。それに……戦える力があるから私はこうやって言えるだけかもしれない。私も戦えなければきっと自分の身を案じていただろう、だからこうやって誰かを助けようとするのも……私の傲慢かもしれないな」

「フレイ……」



 ネイルは陰るフレイの笑顔に何かを返そうと思った。
 それが傲慢だったとしても、そんな傲慢さに助けられるちっぽけな人間もいるのだと。


 ただそんな言葉は今の自分が言える事でも無い。
 ネイルは喉まで出かけたそんな想いを飲み込み、ただ一言ありがとうとだけ伝えていた。





「そうだ、明日非番なの。久しぶりに外でご飯食べない?」
「ん、新人が入ると聞いていたが教育係はいいのか?それにネイルの母上殿が作る料理も私はなかなか気に入っているんだが」

「初日の教育係はユーリ、いーから行こ?お母さんのはいつでも食べれるんだから」
「ユーリが教育係とは心配だな。まぁ、それもそうだがあまり外をうろつくなとシンにも言われてるしな……」

「何かあった時は、フレイが守ってくれるんでしょう?」



 そう、ネイルに今出来る事はフレイを信用し全てを預ける事なのだ。
 友人として、力の無いちっぽけな自分が唯一出来る事。

 それはきっと全てを委ねる事であり、それが友としての信頼の証だと。

 その時のネイルの微笑みはどこか決意の籠もったものに見えた。


「ふ、任せておけ」


 ネイルを孤独にした夜空の星々は、いつしかそんな決意を新たにした者へ力を与えているように輝いていた。




















 明け方、真は灰色のフードケープに身を包み教会内の納屋で今後の身の振りを考えていた。


 取り敢えずは此処で十分に身を隠せるだろう。
 アニアリト、否今や真の配下となったルーシィ、ジギル、バイドの三人には今迄通りアニアリトとして振る舞うよう言い含めてある。

 真の所在を問われた際の返答も決まっていた。

 対象は強敵であったと、その為仕方無く対象自身の身体も灰にしてしまったと言う単純な筋書きである。

 何れあの三人にサトポンが接触してくるのは間違いない。それ位は考えておくのが当然だ。


 それに今後の指示によってはアニアリトの内部が朧気に見えてくる可能性も高い。ここでアニアリトのメンバーを手の内に入れられたのは真にとっても都合が良かった。
 当初とは少し方向性の変わった計画、元凶を叩き、殲滅すると言う方針。
 本来であればリトアニア自体を組織内部から自己破滅に追い込む予定だったが、これも成り行き、仕方無いだろう。

 あんな風に頼まれてつい感情が動いてしまうのは自分に人間らしさがまだ残っている事の証か。
 それともやはり自分は地球の科学力によって作られた、ただの殺戮マシーンとしての欲求なのか。

 真は一人薄暗い納屋でそんな事を考えていた。



「シン殿」


 ふと真の思考を遮るようゆっくりと開けられる納屋の木戸。
 外の明かりが差し込み、真の眼球がそれに素早く順応する。


「フォースだ」
「……フ、フォース。サトポンから新たな指示が下りた」

「言え」


 元アニアリトの三人にはシンではなく、フォースと呼ばせている。

 名前が出回っていた場合厄介な事になっても困ると考えての事。だからといってこの三人に本名を教える気にもなれなかった真は、フォースハッカーから名前を取りフォースと呼ばせる事にしていた。

 そこまでする必要性は無いとわかっているが、念には念を入れる。実際そこに真のちょっとした童心が入っている事等本人さえもあまり気付いていない事である。




「サトポンはリヴァイバルのギルドへ一旦赴く様だ。シンと言う男は手筈通り始末したと伝えている。俺達はこのまま王都に待機、引き続きネイル=フレグランスと言う女の監視役をしろとの事だった」


 ネイル=フレグランス。
 真の一件によってシグエーとサモン=ベスターが揉めた際に巻き込まれたギルドの受付嬢。
 アニアリトに命を狙われているとの事であった為にフレイへその護衛を任せたが、よく考えればその命を狙った人間は今や真の部下なのだ。



「そうか、やはりお前らだったんだな。ネイル=フレグランスは俺の知り合いだ、今後は万が一に備えて監視の名目で護衛を行え」
「っ!……わ、解った。そ、それよりもサトポンが気になる事を言っていた。何やらダルネシオンがどうとか」

「ダルネシオン……何だ」
「ダルネシオンだぞ?ファンデル王国第三王位継承者、ダルネシオン=ファンデル王子だ」



 ダルネシオン=ファンデル。
 話がよく見えないが、それはサトポンとその王子が繋がっていると言う事だろうか。

 真は乏しい絶対王政の知識を振り絞っていた。
 第三王位と言う事ならば次期王の座は遠いであろう現国王の第三子といった所かと。

 リトアニアとアニアリト、そして王子。一枚どころか幾重にも重なる大きな存在。
 真は自分のしでかした事の大きさに改めて溜息をついた。



「……つまり国がアニアリトと繋がっている可能性があると言う事か」
「分からない……だが第三王位ならもしかすると個人的な関わりかもしれない。とにかく今はもう少しその辺を探ってみようと思う」

「あまり下手に動きすぎるなよ、お前達は表向きアニアリトなんだ」
「ああ、解っている。これでも暗殺者稼業も板についている、そのスジから情報を買ってみるさ」




 そう言うとジギルはフードケープを取り払い、黒いウェーブ髪を靡かせ納屋の扉を再び閉めたのだった。



















 便利だ、便利過ぎる。
 このイービルアイの見た物はまるで自分が見ているかのように脳内へ情報を伝えてくる。

 その上僕の能力であるステータス表示もフル活用すれば街人全ての名前、能力までが丸判りだ。
 流石にそれをやったら頭がおかしくなりそうだったので今は程よく調整する事を学んだ。


「よし、ご苦労だねイービルアイ」


 王都上空を先行して飛ばしていた特に返事もしてこないそのイービルアイを、一旦僕は自分の片目と融合化させておく。
 融合化させた時の自分の顔が少しグロテスクになるのが難点だが、それを鑑みても余りある程のこの能力にはあのシェイプにも少しばかり感謝してもいい。

 それに顔はザイールの街の商店で買った仮面で事足りる。



 目的であるヒロインの居場所は既に把握済みだ。
 イルト地区の小洒落たレストランでどうやら友人と仲良く食事中と言った所らしいが、あの黒髪男が側に居ないのが少し残念ではあった。
 出来ればあの男の前でヒロインを自分のモノにしてやりたかったからだ。

 だがまぁ、友人の女の方もこれがなかなか可愛い。
 こうなってくると欲望は際限がないもので両方自分のモノにしてみたくもなるのが男心といった所か。



 本番前に物は試しと、王都入り口の兵士にイービルアイの思念操作を発動させてみた。
 目を合わせ、平伏せとの思念に合わせて一言言い放つだけ。

「僕に挨拶をしろ」


 兵士はその言葉が言い終わるよりも早く、腰の剣をがしゃりと地面に叩きつけながら僕に頭を垂れていた。


「スワン様……ご無事で何よりです」
「うん」

 自分はこの国の勇者として有名だ。
 だが今は仮面でそれとは分からない筈なのに僕の名前を言い、土下座した。
 完璧に思念が伝わっている証拠。
 こんなに面白いなら五体投地にしておくべきだったかなと思ったけど今はこんな男で楽しんでいる場合じゃない。


 もう少しであの巨乳が、あの身体が自分の思うがままになると考えるだけで下半身が熱くなる。
 あんな事もして貰おう、こんなのもいいかな……僕の脳内はもうピンク一色だ。

 見慣れた城下街を歩きながらそんな妄想を膨らませ、少し冷たくなったズボンに不快感を覚えながらも僕は目的のイルト地区へと向かった。


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