その科学は魔法をも凌駕する。

神部大

第107話 忍び寄る非日常

 勇者。
 勇者とは何か。
 パーティを組み、魔王軍を一網打尽にする英雄。
 桁違いの力で敵を翻弄し、ヒロインの全てをその手にする存在。

 だが違う。

 中谷飛翔ナカタニスワンの求めるものはそんな正統派でカッコいい正義の味方等ではない。
 正義感を振りかざすそんな勇者の陰で一際異彩を放ち、寧ろ蔑まれながらも最強である事。

 全ての男を倒し、全ての女を自分のモノにする。
 本音を言えばそうだ。それの何が悪いのか、男なら皆それを夢見るだろう。

 正義感に溢れる勇者でも最後はヒロインと結ばれるのだ。つまり全てはそんな下心あってこそ。
 飛翔にとってこの世界を自らの力量が及ぶ範疇に収め続ける事、そして好きな女を好きなようにする事こそがこの異世界に居たい理由なのである。



 だが現実は甘くなかった。
 自分の能力が通用しない存在がいる。それどころかこちらの能力を吸い取り力を増す等。



 魔族ガーゴイル。
 あのザイールトーナメントで突如として現れた敵は大した事の無いガーゴイルと言う種族の魔物だった筈。
 なぜ現れたかは分からない。だが飛翔の最強魔法ダークマターは効かず、それどころか返り討ちにすら遭ってしまったのだ。


 程なくして飛翔の視界が晴れた時には既に事は収束していた。まるで何が何だか解らない。
 だがこの事態、それはラノベでも一度は訪れる物語主人公の危機に違いないと飛翔はそう考えていた。


 その場は一旦離脱し、自分の能力を再考してから再度最強へと向うべきフラグ。ならば早々にザイールの街を脱しよう、そう考えたそんな矢先に再びの悲劇が飛翔を襲った。


 再度眼前に現れるガーゴイル。
 ステータスに確かにガーゴイルと出ている。だがそこにはシェイプと言う名が表示されていたのだ。
 所謂名持ちネームドである。

 ステータス的には飛翔なら負けない筈だが、名無しのガーゴイルに負けた後では決して油断できるものではない。

 そのシェイプと言うガーゴイルは飛翔に能力を見せてみろと挑発して来た。
 正直悔しかった。

 たかだかガーゴイル如きに弄ばれる主人公等在ってはならない。
 飛翔はダークマターの魔法であったからダメだったのだと考え、持ちえる剣技を巧みに繰り出しガーゴイルを圧倒した。

 苦しむガーゴイルは風前之灯。
 やはり自分は強い。魔法が効かないだけか、もしくは先程のガーゴイルは変異種だったのかと自らを納得させ、とどめを刺すべくそのシェイプに上級剣技黒の鎌刃シックルバインをお見舞いしてやる事にした。

 だがそんな刹那、ガーゴイルは雄叫びと共に……変異していたのだった。
 黒々しいオーラと共に流暢となった口調、笑うガーゴイルは不気味を通り越して最早恐ろしかった。


 だがそれよりも目を疑うべきはそのステータスである。  
 シェイプと言う名持ちの魔族は最早ガーゴイルなどではなく、ベルゼブブと言う訳のわからない種族と成っていたのだ。

 その基礎能力は全てに於いて飛翔を上回る程。
 何が起こったのか飛翔には理解が及ばない。

 再びの突然変異。
 何故こうも自分が本気を出す時に限ってこんな事になるのか。
 だがそれは次のシェイプの一言ではっきりとする。


――お前の力は素晴らしい。我等魔族に力を与えるとは……今なら私の部下として働く事を許す。


 そう、ガーゴイルは飛翔の魔法と技を喰っていたのだ。
 思えば遺跡でガーゴイルと対峙した時は特殊な技も魔法も使いはしなかった。それは飛翔の教育役、氷城のエミールによって止められていたからだ。

「君の能力は膨大で危険だ、皆を巻き込む恐れがあるから遺跡では使うな」と。その時は結局ただの地力のみでガーゴイルを圧倒出来た。ならば本気で戦った時自分はどこまで強くなれるのかと自らの限界に思いを馳せていたのだが、それがまさかこんな事になるとは夢にも思わなかった。













 クソ、何でこんな事に。
 闇属性の力が魔物に吸収されるなんて聞いてない。
 最初から剣技のみで潰しておけばよかった、そう考えても後の祭りだ。

 あのガーゴイル達は俺の闇属性ステータスが付加された能力を全て吸収して変異する。
 今考えればエミールもそれを理解していたのだろうかとすら思えるがそれは無いだろう。

 僕以外には何が闇属性だなんて判る筈も無いのだから。
 それにしてもラノベでもそんな展開は知らない。闇属性と言ったら勇者の光属性も超える最強で最もカッコイイ力の筈なのに。
 どうせならそう言う事もステータス補足に載せてもらいたいものだけどそれも今更。


 僕はあのシェイプとか言うガーゴイル、いやベルゼブブの部下となった。
 ナンバー2と言うのが気に入らないが今は我慢だ。


 部下も一匹つけてもらった。

 と言ってもイービルアイとか言う小物。
 能力も低く、使える力と言えばあの時僕の視界を奪った忌々しい技、ブラインドネスとか言うらしいがそれ位だった。

 もう少しまともな部下は居ないのかと言いたくなったのをだが僕は寸での所で堪えていた。


 それは別に僕がシェイプにビビったからと言う訳じゃない。

 僕の目にはこのイービルアイの更なる力が視えたからだ。
 恐らくあのシェイプも知らない、このイービルアイの特殊な能力。

 その名も【思念操作】、相手の考え、行動、その全てが自由自在になるとんでもない代物。

 これさえあればあのシェイプも僕の思うがままになるだろう。
 でも今はまだ従順なフリをしておく事にした。
 奴を殺るのはイービルアイの能力をしっかり使いこなせるようになってからだと最高の計画を立てたからだ。


 そう、だからまずはその練習台となる者が必要。
 そしてその相手も当然決まっている。


 ヒロインだ。
 あの変な黒髪の男に引っ付いていた栗色のポニーテール女騎士。
 銀色の胸当てを押し上げる程の巨乳、あれを自分の思い通りに出来たらと……考えるだけで妄想が膨らむ。

 思えば僕は折角異世界に来れたと言うのにまだ童貞のまま。
 娼館等は僕にとって論外だ。最初に身体を重ねるのは巨乳ヒロインと決めている。処女じゃなきゃ駄目なのだ。


 あの女、確かフレイとか言ったっけ。
 早くあの胸を好きなだけ揉みしだきたい。
 僕は高鳴る気持ちを抑えつけ、早々にファンデル王都へ向かっていた。


















 ファンデル王都ギルド本部。



 穏やかな陽射しもファンデル山脈に隠れ、ギルドへの人入りも少なくなった時間帯。
 ネイルはぼんやりと書類に目を通していた。


「ネイルー、交代来たわよー」
「え、あ、もうそんな時間か……お疲れ様ユーリ。えと、引き継ぎは、特に無い、かな。じゃぁ宜しくね」



 受付交代時に行う引き継ぎ業務。
 何度も繰り返した日常業務。

 だが今のネイルにとってはそんな全てが何の事も無い小さな出来事にしか思えなかった。

 例え危険な魔物が出現したとギルド員から報告を受けようとも、今なら引き継ぎもしないかもしれない。
 それ位の事。
 今ネイルの身に起こっている非日常に比べれば小さな事なのだ。

 自分の身が、家族の身が危険。それに比べればギルド員がどうなろうと知った事ではないと考えてしまう。



「ねぇネイル……その、元気、出しなよ?シグエーだって流石に……殺されたりはしないだろうし。また会えるよ、その噂を広めた事、本当に悪いと思ってる」

「え……ちょ、ちょっと。何よそれ、シグエーと私は付き合ってなんか無いからね!」
「え?でも……それで最近落ち込んでたんじゃ。二人の事が噂になったから、シグエーがノルランドに左……異動になっちゃったって」



 噂とは怖いものである。
 シグエーとネイルが付き合っている等という話題を流したのは恐らくユーリだと言うのはネイルも大体予想していた事。
 だがそんな事は今となれば怒る気にもなれない。


 ギルドを牛耳るサモン=ベスターは最初からネイルが目的だった。そしてシグエーはシグエーで問題を起こしていた。

 そう、リトアニアの会長に呼び出されたのはそれぞれ違う理由。

 そして問題はシグエーがとても大きなリトアニアの闇に足を踏み入れていたと言う事。そしてその話の断片を知ってしまったネイルも共に謎の連中にその命を狙われる事になってしまったと言う事なのだ。



 つまらない業務をこなす毎日。でも今ではそれすらまるで別世界に居るように感じてしまう。

 今までがどれだけ平和だったのかを改めてネイルは噛み締め、今でも呑気に色恋話を語るユーリがとてつもなく羨ましく見えた。


「実はね………ううん、何でもない。じゃあ私、人を待たせてるから、お先に」
「え、え、何よ。すっごい気になるんだけど!」



 思わずユーリも巻き込みたくなってしまう気持ちを抑え、ネイルはここ数日自分の護衛役として付いてくれている唯一身体を預けられる存在。

 Bの1階級ギルド員、土竜のフレイが待つ裏口へと急いだのだった。 

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