その科学は魔法をも凌駕する。

神部大

第104話 神星の理


 ノルランド大国。
 皇帝の支配するこの国は皇国とも呼ばれるが、国土面積の広さは他国を軽々と凌駕する為か大国という名で通っている。

 永久凍土と呼ばれる大地と連なる白銀の山々はこの広大な国土を極寒の地へと包み続ける。
 ノルランドは極寒でありながらもそんな広い国土を利用し数千年の歴史を刻み大きくなっていった。

 この世界で最も古く、最も発展している国、それがノルランド大国である。
 だがそれに反し他国との交流はあまりない。
 それはこの国に存在する全ての都市がそれぞれ個々に物流、軍事力と完結するアーコロジーである為だ。


 広大な国土を利用し、またはそんな環境下だからこそその様にしか発展出来なかった都市群。
 だが互いを集約させようと都市群同士の争いも度々あり、皇帝としてはそれに目を配る事や、都市の現状把握で精一杯になり他国とのんびり交易等している状態にない。


 それだけでなく、ノルランド大国を囲む山脈も交易を阻む一つの要素だ。
 ノルランド山脈を筆頭とする各山々は霊峰とも呼ばれ強力な魔物が多く住み着く。その為自国他国共に行き交う事自体が容易ではないというのが正直な所である。

 それでもギルド員B階級上位に当る者達がパーティを組みそれなりに準備をして望めば渡国も不可能ではない。
 だが一国軍として攻めるには相手国に辿り着くまでに出る犠牲を鑑みると二の足を踏むのは仕方ない事だろう。


 そんな今、この極寒の地を抜けノルランド大国へ向おうとする一団があった。





「さっ、寒ぅっ!」
「もう少し厚着して来るべきだったぜ、ここまで寒いなんて聞いてねぇ。これじゃあ手が悴んでまともに剣なんか振れねぇよ」
「……お前ら少し黙れ。ハイライトさんを見てみろ、この寒さの中眉の一つも動かさない。これがA階級の高みだ」

「な……なるほど。た、確かに……そう言えばハイライトさんってリヴィバル出身なんですよねぇ?あそこは結構暑かった記憶があるけどよく平気でいられますね」




 元リヴィバル出身にて元A階級ギルド員。
 ファンデル王国ザイールにて催されるバトルトーナメント、数多くの強者が集まるそこで優勝しその階級を欲しいままにした男。

 今でこそファンデル王都のギルド試験官と言う立場に収まってはいるがその実力は推して知るべしである。

 だがそれももう終わり。
 シグエーはとある新人ギルド員が起こした問題の責任を取る為、ノルランドのギルドへ異動と言う人事を飲む事になった。


 と言ってもギルドの人事に他国異動なるもの等実質存在しない。
 ギルドと言う組織は今でこそ個々に動いてはいるがその実権を握るのは彼のリトアニアグループである。
 国ですら殆ど交易していない、ましてや正式に国交も結んでいないノルランドに、ファンデル王国で独自に設立されたギルドのみが進出しているという事、それ即ち他国への異動と言うのはリトアニアグループが独自に行った所謂国外追放と同意なのだ。

 他国でその身に何が起ころうと国は感知しないと、詰まる所はそういう事である。



「……すまないね。ベイレルさんに何か言われたんだろう?あの人なりの僕への気遣いか知らないけれど他人を巻き込むのは僕の性分じゃないな。君達の事は無事ファンデル王都に戻れるよう何とか僕の方で計らってみるよ。……まぁその権限があれば、だけどね」


 シグエーのノルランド渡国に際して、王都のギルド官達は皆哀れみの表情をシグエーへと向けた。それは過去に他国異動されたギルド官がそのまま行方知れずになった事から内輪で他国異動、それ即ち死刑と同意に思われているからだ。



「あぁいやいや、僕等はハイライトさんを送り届けた時点で階級をA3にして貰えるんでそんなお気遣いは無よ――っだぶっ!」
「フィリップスッ!黙っていろ!」

「はは……なるほど。まぁそれもそうか、じゃなければノルランドへ送迎の付き人が来る訳もない」
「いや、ハイライトさん!我等神星の理トライレイズンはハイライトさんを慕っているからこそ今此処にいるのです。それ故これはギルド長の命ではなく我等が自ら志願した事、階級報酬はそのオマケとしてギルド長が取り計らってくれたに過ぎません。今の神星の理があるのはハイライトさんあってこそ、その恩は例えこの霊峰にて朽ち果てようとも代え難い」

「おいおい、勝手に殺すなよ」



 神星の理。
 ファンデル王都のギルド員、ギルド官なら誰もが必ず耳にした事がある唯一のA級ギルドパーティだ。
 メンバーは三人だが三人共にBの2階級。パーティでの階級は一個人とはまた別に昇級する必要がある為、個人としての能力は勿論の事、そのチームワーク力がものを言う。

 ギルドとは基本的に気性の荒い者が多く、仲間意識が著しく低い事からパーティで階級を上げるのは至難の業とも言われている。
 しかしこの神星の理トライレイズン、個人でも中々の腕前だがパーティを組んだ際の方が階級が上等前代未聞であった。

 パーティのリーダーであるブライン=ナーヴ。
 キザな口調と靡く青髪、一撃必殺を基本とするその剣技から一閃の青神等という二つ名を持つ。

 そしてそんなブラインの右腕と本人の預かり知らぬ所で噂されるのは炎獄の赤神ことボルグ=イフリエート。

 紅の髪色と逆立てた短髪は燃え盛る炎を彷彿させる。その名の通りと言うべきか自らがそれに寄せたかは謎だが、ボルグの炎技は全てを焼き尽くすとその気性の荒さから怖れられていた。


「でもまぁあれだね!元々ブラインもそろそろノルランドに進出しようかって言ってたし、ハイライトさんとこの霊峰を越えられるなら寧ろラッキーって感じ――ぶっ!」

「だから余計な事を言うなと言っている、フィリップス」

 
 そしてこの口の軽さ故か、貴族フィリップス家から実質見放された今やブラインの左腕。

 堕爵の黄神ミラノ=フィリップス。
 フィリップス家の爵位が男爵でありそこから堕ちたと言うのを皮肉った二つ名。
 貴族としては素直すぎるその性格は謀に向かず、そんな事からフィリップス男爵のコネによりファンデル王都の騎士として仕えては見たもののそれすらも放棄した自由奔放なブロンドパーマの青年は、別名堕爵の騎神とも呼ばれているのは本人も知りながら気にしていない所である。


「いってぇ……てかブラインさ!いい加減その呼び方は止めて欲しいんだけど。もうフィリップスじゃないし」
「あぁうっせぇな!団長、早いとこその黄猿黙らせてくれ。頭じゃなくてよ、ここの首ん所をガツンと一発」

「誰が黄猿だ、脳筋。頭が燃えてんぞ!」
「あぁん!?このボンボンがぁっ」

「あぁぁ……ッッたく、フィリップス!お前は次に魔物が出たら一人で殺れ、罰だ。ボルグ、お前もトーナメントで負けて苛々してるのは分かるが少しは冷静さを覚えろ!だからむざむざ負けを許すんだ。それといい加減俺の事を団長と呼ぶのは止めろ!今は心入れ替えたギルドの戦士、神星の理トライレイズンのリーダーだ」



 一閃の青神ことブラインと炎獄の赤神ボルグは元々唯の傭兵であった。
 特定の国に仕える事も無く、国家間の小競合いが起これば報酬の為だけに人を殺める。それが無い時は旅中護衛や用心棒等で日銭を稼ぐ。ギルドが設立される前より幼くして生きる為だけにそんな日々を送っていた二人。
 いや、過去には多くの仲間を持つ神星団と名の通った傭兵団であったのだが、ファンデル王都魔物襲来の際に仲間を失い生き残った二人は途方に暮れていた。

 そんな二人をギルド員に誘ったのがその頃階級Aギルド員に位置していたハイライト=シグエーだったのだ。
 元腕利きの傭兵として、ギルド等というどこぞの商会が作った子供のお遊び機関に入るのはプライドが許さなかった二人。だが魔物の対応に追われるようになった国家に小競合いは減り、そんな傭兵の食い扶持は少なかった。
 ハイライト=シグエーと言う自らよりも強い人間に誘われなければ二人の末路は如何にと言った所。

 フィリップスにしてもシグエーの誘いがなければ未だにふらふらと世界を歩くだけの落ちこぼれだった筈だ。
 そんな三人の性格を的確に汲み取り、パーティを組ませるよう勧めたシグエーへの尊敬の念は今でもこの三人の中で息づいていた。



「ふ……全く相変わらず仲がいいね。因みに火の魔力結石を体内に循環させるようイメージしてごらん、寒さは無くなる」
「えっ!そうなんですか、それならそーと早く言ってくださいよぉ。ハイライトさんも人が悪いなぁ」


 ハイライトは手に握っていた火の魔力が籠る魔力結石をフィリップスに見せた。
 戯けた様子でバッグから同じ様に火の魔力結石を取り出すフィリップス。

 呆れた顔でそんなフィリップスを眺めるブラインを余所に、荷台でボルグは一言呟いた。


「黄猿、どうやら出番だぞ」
「ほえっ?」


 荷馬車駆ける山肌。
 茂る木々の合間に見えるのは黄ばんだ白色の毛でその身を覆う獣だった。燃えるような真紅の瞳はしっかりと四人を見据えて離さない。


「あれは……フローズンベアーか、危険度Aクラスの獣だ。ここは僕が」

「……ハイライトさん、神星の理トライレイズンの成長を見誤って貰っては困りますよ。行くぞ!」
「団長、罰でしょう?」

「ん?あぁ、そうだったな。よし、取り敢えずフィリップス!行って来い」
「えぇっ、そんな……ったく、人遣いが荒いよなぁ」


 逃げ仰せるのは無理だと悟り、否、端から逃げる気等更々無いのか。
 一団は荷馬車を細い山道で停車させると、フィリップスを先頭にゆっくりと近付くフローズンベアーを見据えていた。

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