その科学は魔法をも凌駕する。

神部大

第80話 召喚士の一族

――魔と人の争いに世界滅びんとすれどそれ革新の時


――導かれし英雄の光り


――その世界の時をまた導く


――我ら召喚の儀


――この世界救わんとすれ


――戦地に向くう者や掛ける言葉は数少なく


――国元の蔑なる手目に身を焦がし


――辺地に置かれも我等は謳うこの力
















遙か昔、この世界が人間と魔族により一進一退の攻防を繰り返していた時代。


人間達は手をこまねいていた。
あともう一歩、もう一手が足りない、だが刻一刻と事態は悪転して行く。

魔族は様々な種族に分断していた筈だが、ある期よりそれを統べようとする存在が現れたのである。


今迄種々バラバラで統率もなく、或いは仲間内の争いすら起こしていた魔族達が統率を持ちそして人間達を襲えば、瞬く間に世界は魔族の、否それを統べる者――魔王の物となる事は想像に容易かった。


だがそんな折。
ある数人の民がこの地の鉱石を用いて一つの召喚円陣を作り上げた。
その鉱石には魔族達の使う不可思議な力に類似した自然の力が籠っており、それを用いれば神をも操れると言うのだ。

時の国王は初めこそそんな民の提案を訝しんだが、その民が獣を操り従事させていた事がその提案を信用に足らせた。



民、召喚獣使いテイマー達は見事に鉱石を用いた召喚円陣を完成させた。


そして現れた異世界から来たと言う黒髪の少年。
少年は困った人間達に味方し、魔族をも上回る強力な力を持って瞬く間に魔王を打ち倒し魔族の支配から人間達を解放したのだった。
後に少年は奇跡の勇者と称えられるが、魔王をも容易く倒せる人間等危険過ぎると国王は考えていた。そしてそれを召喚した民もまた、この世界を危ぶませかねないと。


時の国王は勇者を元の世界に還す様召喚士に円陣の研究をさせた。
間数年、異世界の少年には希望する物を全て与え大人しく帰りを待たせた。

安寧の時が過ぎ、勇者戻還の儀を成功させた召喚士の民はそして国王の指示の元、処刑されたのだった。



多くの研究資料を国に遺して。


















悠久の時を経て、辺境の地にはある一族の生き残りがある。


歴史に噂される召喚士、そして獣使い(テイマー)。今でこそその真意を知る者はいないが長年の経緯を経て召喚士の遺族は国からある事実を知り得ていた。


遺憾の調、その唄には一族の無念が淡々と記されている事。
魔力結石の使用方法や歴史に名を残す勇者を召喚した技術を創りだした事、そして国に殺された事を。


遺族の無念を晴らそうと一族は躍起になったがそれ叶わず。
過去の召喚士が記した書物は国に奪われたまま、今残る一族に出来る事と言えば獣を遣わす程度の事位であったからだ。




ジーク=ティム=ロイジンは、召喚士の一族が果たせぬ無念をまだ名に込めていた時代を生き、その歴史の一角を知る唯一の人間だった。
ジークは一つの集落を治め、そして過去に一族を侮辱した現国ファンデル王国に復讐の念を抱き続けていた。


だが出来る事は限られている。
国は独自の研究を重ね、魔力結石から特殊な武器を次々と開発しその上召喚円陣の資料をも持ち得ている。
今の一族には獣を召し使える僅かな力が有るのみ。




ジークが無念を晴らす方法は最早一つしかなかった。
魔族との契約である。
ジークの抱く王国への復讐と魔族の人間が欲しいと言う利害関係の一致は、唯一残された一族の最後の希望になるはずだった。





村長ジークの契約した魔族は魔物オーガ、オークを配下とする悪鬼族ヴァンパイアだ。


ヴァンパイアは人間の生き血を好んだ。
この世界の人間がもつ心魔は魔族にとって養分となるらしく、特に愛い若き女の心魔は最高のご馳走となるのだ。

ヴァンパイアはある程度の時期を置いて度々そんな女と引き換えに悪鬼族に伝わる魔具をジークに授けた。


村の民を説得し、一族の無念を晴らすべく最初こそ他の町街から女を攫ってはヴァンパイアに提供していた。

だがにわかにそれが問題視されている事を知ると次にジークが取った行動は自らの村の民を提供する事だった。


多少の反発はあれどそれが一族の為に必要な物ならばと、感覚の麻痺して来ていた民は生け贄の儀として数十年に渡ってそれを続けた。



だがある年、村に一人の女児が産まれる。
その娘の母であるモーゼ=ランフォートは沈痛な想いで次の生け贄はこの子に決まりかと諦めかけたが、その幼き少女はただの獣使い(テイマー)ではなかった。



魔力を自在に操る事の出来る、歴史に噂される魔道士であったのだ。村の民はそんな少女の存在に歓喜し、同時に生け贄の儀を止めようと考え出していた。
魔具も十分に集まった、何より魔道士がいる。何ならギルドにも依頼を出してこの少女と共に魔族を殺してもらおうと。



ジークは悩んだ挙句、自らの死期も近い事からそれを内内に進める算段を取る事にした。
だが村で集められる限られた資金ではギルドから人が派遣される事は無く、少女が齢17になる頃遂にその儀を執り行うべき日が来てしまう。

前夜に女を用意しろと渡された魔具からヴァンパイアの指令が飛び、ジークは急遽民を招集して事態を説明した。


生け贄の儀にヴァンパイアに依って遣わされる魔物はブルーオーガ1匹、その程度であれば少女の魔力と村の民で十分に打ち倒せるのではないかと民は結論を下す。



しかし少女にそれを伝えると、自らが一人でそれをやると言って聞かなかった。
正義感に満ちた心優しき少女は自らが魔道士であり、幼き頃に聞かされた子守唄に出てくる選ばれし英雄なのだと確信していたのだ。


村を守るとその小さな身体で言い放つ少女の気迫に圧され、民は少女に全てを託した。


そして同時にそんな真摯な少女の言葉に胸打たれ、皆自らの過ちを悔いていた。

自分達は間違っていたのではないか、ブルーオーガを打倒した後隙を見て一旦王都へと避難し、ヴァンパイアを国の兵士達に討伐してもらおうとまで考えていただけに自分達は何と愚かで他力本願か、そしてどれだけの罪を重ねてしまったのかと。



少女がブルーオーガを打ち倒したのならばヴァンパイアは必ずそれを知り裏切りと判断する。
民はその時こそ過去の過ちを精算するべく、そんな罰を甘んじて受け一族はここで滅びるべきだと感じていたのだった。




そして時は来る。
少女の純粋無垢な想いに全てを託さざるを得なくなった民の眼前に現れたのは群れをなす幾つものブルーオーガ達。それは突然で、あまりに異常な光景であった。


何故こんな事が起きたのか。もしや全てを悟られていたのかとも思えるそんな状況に民は全てを諦めた。
このまま滅びて全てを無かった事にしようと。



しかしそんなタイミングで一人のギルド員が村へ訪れていた。

そのギルド員はブルーオーガの群勢を見る間も無い程の神速で蹴散らして行く。
その姿、強大な力はまさに歴史に名を残す勇者さながら。


ジークはこの者ならばもしやと村に滞在させようとしたが、そんな誘いは軽くあしらわれ再び他力本願であった自らに辟易した。
やはり自分は罰を受けなければならない、だがジークはこの後に及んでせめて村の民だけは逃がしてやりたいとそんな想いが脳裏を過ぎり、そんな思いを民の皆に伝えた。

村の民はそんなジークにこれは皆の責任であり、一族はこれで滅びるべきだと言った。


ジークはならばと、せめて我々に清く人間としてのあるべき心を思い出させてくれた村で最早唯一となった少女、ルナだけは逃がしてやりたいと提案したのだった。




召喚士最後の一族となる少女、ルナを産み落としたモーゼ=ランフォートは涙ながらにそんなジークの言葉をだだ聞き入れていた。




マーゼが娘ルナに村を出るよう必死で説得の言葉を考える間もなく、ルナは自ら件の勇者を追いかけたいと言い出した。

安堵と悲壮の想いを抱え、マーゼと村の民はそれを快く送り出す事にする。
ジークはルナの姿を見れるのもこれで最後と、せめてもの餞にヴァンパイアから対価として受取っていた魔具の一つをルナに渡してやった。


やや青色がかった灰色、枝が捻り巻付いた様な木杖の先端には黒色の水晶が付いており使うにしても売るにしても中々の代物。


魔道士のルナには最も合うだろうと思われる木杖ワンド、いつか国を滅ぼす為の物だったそれもルナならばもしや違った使い方が生まれるのではと、そんな新たな一族の想いをジークはルナに託したのだった。




そしてルナ=ランフォートは一人村を出る。
一族とは関係なく、新たな人生の一歩を踏み出す為に。




















「随分とおかしな真似をした物だな、ジーク=ティム=ロイジン。何のつもりだ」


「随分と来るのが遅かったではないか」



闇夜の月の下伸びる漆黒の外套はジークの二倍以上の丈高さ。
紫檀色の長髪は月明かりで深海の蒼色に染められ妖しく照らされていた。
魔族ヴァンパイアはジークを見下し、面白そうに笑みを零す。




「ほう……既に死を覚悟したと言う所か。ナルホド……あの娘、ルナと言ったか。いい物を渡したなジーク=ティム=ロイジン、業深き人間よ」
「くっ、やはり全てお見通しであったのか……ルナは、あの娘は関係ない。全ては民を治める私の一存、裏切りの罰なら甘んじて私が受けよう!」



ルナが村を出てから数日が経ち、民は死の迫る不安の中で、もしやもう大丈夫なのではと希望的観測を見出していた。

だがやはり一族の罪は逃れる事の出来無い因果応報、魔族ヴァンパイアは遂にその姿を現した。


ジークは出来る事なら自分一人の犠牲で事を収めたかったがそれは虫の良すぎる話であった。




「フフ、貴様の様な老耄に興味は無いが面白い事を教えてやろう。お前がルナと言う娘に渡した悪鬼族の魔具、あれは魔樹禍の杖インペルダムワンドと言う。闇を吸い膨大な力を得て使用者を侵す……我等が使うとそのままアレに全てを持って行かれるからな、使い様の無かった物だ。あの娘がどう侵されるか楽しみだなジークよ」
「なっ!?なんじゃと……だ、だが闇を吸う等……ルナに主達の様な汚れた心は無い!」



「フフ、フハハハ……人間とは何故こうも愚かか。貴様らが、こうして我等の力を頼ったのは何の為か。それを闇と言わずに何と言おう、貴様らの一族であるならあの娘も何れ同じ道を辿るだろう。そしてそんな物を託した貴様はやはり業深き生き物……さぁお喋りは終わりだ、死ぬ前に後悔を抱いて消えるがいいぞ人間」





ジークは自らの行いが裏目に出てしまった事を悔やんだ。
一族は永久に報われる事は無いのかとそう思わずにはいられない。



「ルナよ……勇者と共に、いつか世界を」



ジークの言葉は村の民と共に、月夜の下それ以上紡がれる事は無かった。

ただ消えさった一族がそこに存在したのだと、残る家屋は人知れず静かにそこに佇んでいた。

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