その科学は魔法をも凌駕する。

神部大

第71話 それぞれの戦い



ブロックD、一回戦第六陣。



ルナ=ランフォートは緊張の面持ちで石台へと上がっていた。


観衆の中にルナへと声援を送る同い年の弟分レスタと、歴戦の警備員サンジがいるのを目に留めていたルナ。
だが今はそれが何よりのプレッシャーとなってルナへ伸し掛かっていた事等誰も知る由もない。



「さぁ、次々と行ってみましょう!第六陣は中々面白い組み合わせ、互いにギルドはDの3階級。だが方や使うは魔力結石、方や近代珍しい若き魔導師少女!……さて軍配はどちらに上がるか、魔力研究の成果か、はたまた古代の魔導師か!いざ試合開始!」




「行きますっ、はぁぁ……炎の光槍フレイムランス!」
「はっ、魔力マナよ!」



試合開始の合図と共に放たれる相手選手の魔力結石による先制攻撃。ルナは反射的に最も得意で最も使い慣れた水の魔力を前方へ打ち放っていた。


フレイムランスは火の魔力結石の使用魔力中でも中位級の魔力に相当する。

つまりはそれだけの魔力がその魔力結石には籠められており、値段も低位級より当然跳ね上がる。
そしてそれはD級のギルド員が簡単に買える様な物ではなく、値段も然ることながら高位な魔力を操ると言う事は一朝一夕で出来る事ではないのだ。


詰まる所それだけの苦労がルナの対戦相手にはあり、そしてそれだけの場数を踏んできたと言う事の証明なのである。




「きゃっ!?」


ルナの放った魔力は水の光弾、相性的にはルナが有利。だが相手の放った火の魔力は威力的要素でルナに勝っていた。
結果は相殺、しかし出足が遅れた事によりその余波はルナの身体を後方へと怯ませていた。



「……魔導師って全系統が使えるんでしたよね、見せて下さいよ。私は絶対に負けません」



ルナと年の頃はほぼ変わらない目の前の少女は、外套を跳ね上げながら何処か覚悟のある言葉をルナへと向けていた。


だがそんな言葉にルナは思い直す。
何故自分が此処に立っているのか、何の為に今こうして奥手な自分が強者が集う場で戦おうとしているのかを。


それは誰が為、憧れのあの人に振り向いて貰う為、もう足手まといにはなりたくない、そんな一心だった。



「次っ、はぁぁ……土の光弾アースブレット!」
「私だって負けられないっ!風の魔力よ」



ルナは相手の魔力の性質を分析しながら、いつかに試験官ハイライト=シグエーが言っていた魔力の相性の事を思い出していた。
一人密かに試行した魔力の相関関係。


土の魔力を相殺出来るのは風の魔力、先手は威力の差でルナが押し負けたが今度は違う。
ルナは風の魔力を大気より身体に循環させ、それを一つの形として前方へ放出する。

何度も一人繰り返した魔力循環、そしてアリィの店のローブに付けられたブローチによりルナの風魔力は普段より数倍の精度と速度で放たれていた。



石弾はルナが放った見えない風の刃により瞬時に中空で消滅し、先の対象に襲い掛かる。


「っく、風の流麗ウィンドアシスト……からのぉ……フレイムランス!」


「へっ!?ま、魔力よっ!」



「これは凄い!ユリナ選手、三種の魔力結石を自在に操り圧倒的優位な戦闘展開を見せます。とてもD階級で納まる様な腕前には見えません」



ルナの風刃は予め予測されていたかの様な素早いユリナの動きで軽くも躱され、次いで更なる二撃目にルナは再び咄嗟の水の魔力の放出でそれを迎え撃つ。

だが結果は初撃目と同じ展開、ルナは確実に石台の端へと追いやられていた。


咄嗟の判断ではどうしても使い慣れた低級の水魔力を放つので精一杯。
それを見越しているかの様なユリナの攻撃は確実に二人の経験差を如実に現していた。



「そんな物ですか魔導師は!終わりにしましょう……はぁぁ、火風の舞ファイアサウンド!!」


「きゃあぁ!?」



ユリナの詠唱により輝きを増す2つの魔力結石。
そこから巻上がる炎の奔流は大蛇の如くルナを襲った。
反射的に再びの水魔力を放出していたルナだったが身体は堪らず場外へと押し込み落とされていたのだった。



「こっ、これは……しょ、勝者、ユリナ=エフェクトリ!!まさか一回戦から合成魔力ダブルマナを見せられるとは私も驚きです。ブロック最年少のユリナ選手、魔導師をも下すその魔力結石の操りは何とも末恐ろしい……さぁお次は――――」






まるで一瞬、これと言った見せ場もないまま、ただ呆気無くも終了を告げる解説に自分が負けたのだとルナは理解する。



敗者、そこに残されるは虚しき陽炎。
ざわめく歓声もまた自分ではない誰かへと向けられる。
人々の視線がまるでそこにいつからあるか分からない小石の様な扱いでルナに向けられる事も無い。



ルナにあったのは悔しさと、そして真やフレイへ対する劣等感と申し訳無さであった。

自分は何故強くなれないのか、努力等何の役にも立たない。

自分は一人なのだ、存在価値すらない。
ただの役立たずなのだと負の感情が胸を支配した時、ルナはただ泣いていたのだった。

















フレイが不覚にも場外負けとなったブロックBでは、未だ終わらぬ決勝戦が続いていた。


リトアニア商会をスポンサーとして仕事を請け負ったデヴィ=マカデミアッツ、そして人知れず異世界から召還されし勇者と銘打つスワン=ナカタニ。

だがそれは決勝戦と言う名に相応しくない、一方的な蹂躙劇であった。




「ひ……も、もぅ勘弁……し、してくれぇえぶっ!」


「ダメだね、君には彼女と同じ目に遭ってもらわなきゃ。重量操作ヘビーグラビトン




「一体これはどんな魔力なのでしょうか……先程からスワン選手の不可思議な魔力による蹂躙が続きます。剣士かと思えば見た事もない力を自在に操る魔導師だったのか、デヴィ選手は依然持ち上げられては落とされ、落とされては持ち上げられの繰り返し。為す術もありません。そろそろ危険と見なし私も試合を強制的に終了させざるを得ません」




最初こそ格下からの挑発に怒り狂い、そのまま痛い目にでも遭わせてやろうと息巻いていたデヴィであったが、スワンの余裕の笑みはそれだけの実力を十二分に有している物だった。


デヴィの剣撃等子供の手遊びが如く。
剣先を一太刀掠らせる事も出来ずに気付けばリングの石に顔を擦らせられる様な状態。

自尊心を打ち砕かれる様な年下からの罵詈雑言に怒りと憎しみだけが胸の奥で燻り続ける。

だが体は自由を失い、ただせせら笑う少年の声が耳に届いていた。




「さて……ここからが本番だよ、せぇいっ!はぁッ!」
「ぐむぅ」



持ち主の自己顕示欲を現すかのように装飾された剣がデヴィの装備を打ち砕き、或いは切り裂き、そして再び中空へ持ち上げられては落とされ、デヴィは最早意識も途絶える寸前であった。

だがスワンの蹂躙は止まらない。



「ふふ、パンツ一枚がお似合いだよ。剣スキル、皮切り!」



獣の皮を剥ぐ為のスキルであるが、それをスワンはデヴィの装備下の服を切り裂くために使用した。
致命傷一歩手前の連撃、デヴィは瞬く間に無残な姿を観衆に晒したまま地に伏した。



「これはデヴィ選手……因果応報とも言うべき状態か、最早言葉もありません。一体スワン選手は何者なのでしょう……こ、これ以上は危険とみなし試合終了ですっ!勝者スワン=ナカタニ!」




「……残念、もう少しやりたかったけどまあいいか」



中谷飛翔はそう言いつつも満足いった様な顔で予定のフラグを回収すべく、背後で自分の勇姿を見つめている筈のフレイへと視線を向けるが――――



「へっ……あれ!?ど、何処行ったの」




仇をとってくれた自分へ羨望の眼差しを向け、これから共に魔王討伐と言う名の冒険に付き合うヒロインの姿は何処にも無かった。
リング外にも、控え所にも、フレイの姿は見えない。


ただ観衆が徐々に散り散りになって行き、審判の本日はこれで終了と言う言葉だけが辺りに響き渡って消えた。

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