その科学は魔法をも凌駕する。

神部大

第69話 異世界勇者の画策




「く……何なんだ一体……身体が、熱ぃ」


「へぇえはっは!いいぜぇ、その顔、その身体ぁ!そんな服はさっさと脱ぎ捨てて観客を悦ばしてやれぇ」



準決勝。
フレイの相手は特にギルドへ所属している訳でもないフリーのハンター。
男のスポンサーに付いたのはリトアニア商会である。スポンサーと言うより観客を楽しませて欲しいとの依頼を受けて男はこのトーナメントに出場したサクラだ。


めぼしい女出場者を晒し者にし、お立ち台が見れると言う様な姑息極まりない商売がリトアニア商会の一部で秘密裏に行われていたのだった。


因みに男のやり口はいたって単純だ。
リトアニア商会経由で手に入れた媚薬を自慢の刃に塗り、後は適当に獲物を傷つけるだけでいい。
男はそうして過去に何度も女を手の上で転がしてきた。このザイールトーナメントでもここ数年は男にとっていい稼ぎ場だった。



「うへへへっ……今年は当たりだな、上物だ。俺が欲しい位だぜ」


「く……そ……何だって言うんっ、んん!」



フレイは火照る身体とじわりと濡れていく下半身に思考回路が停止寸前だった。
最早自分がここで何をしているのか、今まで何をどうしたかったのかすら考える余裕もない。


ただ全てを曝け出し、何もかもを解放したい、この服も、身体も、全てがどうでも良くなっていく様な感覚に支配されつつあった。
それでも辛うじてフレイが理性を保てているのは、目の前にいるその男の厭らしい笑い方がいつかのギルドメンバーに良く似て過去の忌まわしき記憶を呼び覚ましてくれるからだ。



「これはどうした事でしょうか……フレイ選手が殆ど動けないでいます。最初の勢いは最早見る影もありません、デヴィ選手の一方的な蹂躙が続きます」




流石の実況兼審判もそんな試合運びに多少の不信感を抱きはするが、あまりにも危険でなければ試合を終了させる事は批判を買ってしまう事態を招きかねない。
であれば後は場外か本人が降参の異を示さない限り試合を終了させる事は叶わないのだ。


審判はフレイに憐れみの視線を送りながらもまた、そんな官能的な光景に魅入っていた。





「――もう見てらんないね。ねぇ審判、あのデカブツ弱そうだから僕が優勝でいいよ!」



そんな泥試合の真っ只中、石台下で決勝戦を待つ少年とも青年とも取れる男は呆れ顔で実況兼審判に向かってそういい放っていた。
それは試合を止める為の気遣いによる挑発か、だがそうであればそれは尽く成功していた。



「んぁあん!?おい、ガキ、今なんつった……?」


「ちょ……ちょっと待ってください、デヴィ選手、まだ試合中ですよ。えっと、スワン選手も挑発は控えて下さい」



石台でフレイを愉しく蹂躙していたデヴィ=マカデミアッツは場外から放たれるそんな言葉を聞き逃さなかった。

次に当たる筈の相手、自分よりかなり年下である筈の少年はここまで腰に提げた綺羅びやかな剣すら使う事なく相手選手を場外にしていた。
だがデヴィからすればまだ子供、自分の偶然にも手に入れた業物と経験を持ってすれば相手ではないそんな少年に言われた一言はデヴィを苛立たせるのに十分だった。




「おっさんは弱いって言ったんだよ、大体そんなんで喜ぶなんて完全モブって感じ。ただそのルビアナアックスはおっさんには勿体無い代物だね、頂戴よ、高く売れそうだし」


「……訳のわかんねぇガキだとは思っていたが試合中に俺に喧嘩売るたぁな。狂ってんぜ、大人しくそこでこの女の服が剥けるのを見ながらコイてなガキぃ!」



えへらと笑いながら少年にそう言い放った男は、再びフレイに向き直り蹂躙を再開させた。



「……もう、いいよ。空間移転(ルートパス」


「ん?」


「……え、おっと、こ、ここでフレイ選手が場外です!す、すみません。私とした事が見逃してしまいました。こ、これで決勝はデヴィ=マカデミアッツ選手とスワン=ナカタニ選手に決まりです」



フレイは自制心を保つのに必死であった。
自分が場外にいる事も、戦闘が強制的に少年の不可思議な力によって終了させられた事も最早考える余裕は無いに等しい。



「なっ!どうなってやがるッッ、審判、今のは間違いだ、俺じゃねぇ!まだ試合は終わってねぇ!」
「え、あ、いやですが場外に……試合は終了です。ではそのまま決勝戦になります!」



「STRとINTの底上げはそのランクAの武器のお陰だねモブおっさん。悪いけど今度は場外じゃ終わらせないから」
「……っ、てぇめぇ!!」



少年は石台に上り、尽くデヴィをコケ落とす様な発言を繰り返す。男は燻る性欲と怒りを少年に向けていた。


だが少年は余裕の笑みを崩さない。

何故ならそこには絶対の自信があったからだ。
この世界の何者にも負けはしない、自分は特別な存在であると。
そう、それは少年が長年求めていた物。


物語の主人公さながら、自分は勇者と言うそんな存在なのだと。





















少年は平凡な中学生だった。
成績は中の下、運動神経は良いとも言えないが酷くもない。
顔もイケメンとは言えないが不細工と言う程でもない。
彼女はいないが、クラスに好きな女子の一人位はいると言うそんな普通の十五歳。



ただ日常は酷く退屈で、義務的動作で学校へ行くものの何か特別な事が起こるわけでもない毎日。

いつかいきなり世界が壊滅しそうになって……等とスリルある日常を夢見てはまた平凡な日々を過ごしていた。


だがそんな日常は本当に突然、予想だにもせず終わりを告げる。
気付けば見慣れぬ白亜の大広間、そしてどこぞの国の妃かと言わんばかりのドレスに身を包む金髪女に白髭の中年男がそこにいた。


少年、中谷飛翔ナカタニスワンはそんな光景を過去最も早い判断力で理解し、そして受け入れた。


後にファンデル王国と言う国の王と妃、そして従者の人間だと知る事になる者達から勇者と声明を受けるが、そんな事は少年にとって分かりきっている事であった。

数多の王道アニメ、王道RPGを手に掛け最近では苦手な活字にも挑んでいた少年。
ラノベと言うその小説さながらの展開に何度も描写されていた異世界転移、自分は遂に選ばれたのだと確信した。



少年飛翔スワンの行動は早かった。
ラノベが何の略かも知らず、それが小説とも言えない小説だとも知らず、だがそれなりにそのラノベを相当数読みこなして来た少年は自分ならこの世界でどう動くべきかを地球よりもよっぽど知っていたからだ。




第一にまずは勇者でありながらそれを誇示しない格好良さが必要、それにより謙虚さを出す事が出来る事。

そして時に強く、女性を守る事。それで女はイチコロになる筈だと。

次に勇者として魔王を倒すべく態度を示しつつもこの世界をゆったり楽しむ。そうしている内に様々な危険に晒される女を助け自分に惚れさせ、そしてあくまでも自然に魔王と対峙する事が大切だ。


何故ならラノベの主人公はいつだってスマートで、そして謙虚で、何より強い。
それが少年飛翔の理想だったからである。




魔王を倒せば元の世界に戻す事も出来ると嘯かれたが、少年はそんな事等微塵も願ってはいない。
地球なんて下らない世界に自分の居場所はない。

こここそが自分の居場所なんだと周りの人間には見えないステータスと並ぶスキルに少年は全能感にも似た物を覚えていた。





少年は王城にてこの世界のあらゆる武器や魔力結石とやらの訓練受けた。それは勇者の力を試す為の試験の様な物だったかもしれない。

だが少年にそんな訓練は不要だった。


少年の力はこの世界の元S級ギルド員も凌駕するものであった。

瞬く間に少年の力は認められる物となり魔物の討伐も楽々こなした。
やがて魔王討伐と銘打って王城を飛び出した少年は念願のギルド登録を目指す事にした。



少年の知るラノベの世界では早々にS級のギルド員になれる筈である。


だが現実、実際に行った登録試験の結果はCだった。
少年は不満だったが、完膚なきまでに余裕で打ちのめした筈の試験官はそれでもその階級以上は出せないといい放つ。

更に屈服させるべきかとも考えたがこれ以上やるのは主人公らしくないと、少年は他に早く階級を上げる方法はないかとその脇役の分際でやけに顔立ちのいい男に訊ねる事にした。




そして足を伸ばしたのがこのザイールトーナメントである。
優勝者にはギルドのA階級が与えられる。


少年にとってはAでも不満だったが、直に自分は多くの人々から認められ敬われる。それまでの辛抱だと自分に言い聞かせ、モブ達を軽くあしらい続けたのだった。




そして今、目の前で蹂躙される一人の女戦士とモブな戦士風の男がいる。
蹂躙される女は昨夜弱そうな男にくっついていた人を見る目の無い胸だけは大きい女だ。

少年を勇者と知っている風ではあるのに何故か弱そうな陰険男と一緒にいる可哀想な女。


少年はこれが第一イベントだと理解した。
昨夜の事件はイベントでは無く、フラグだったのだと。



ならば後は簡単だ。
ラノベの流れ通り、このモブを倒して昨日は冷たかった女が自分に羨望の眼差しを向ける。
所謂ツンデレ巨乳ヒロインをここで手に入れる。


少年は様々ある自らのスキルから空間移転ルートパスをツンデレ巨乳ヒロインに向けて使用した。

男の方をやる事も出来たが、それでは自分が倒した事にならない。決勝戦で晒し者にするには先ずツンデレ巨乳ヒロインを負けさせる事が必要だったのだ。



少年は自分の賢い策略に勇者の器を自ら見出だして満足感に浸った。

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