その科学は魔法をも凌駕する。

神部大

第68話 ブロックBの決勝



ブロックAの試合は終了した。


何処と無く自分が反則勝ちをした様な気分にさせられ素直に喜ぶ気持ちにはなれなかった。
だが、かと言っても今更些細な娯楽で喜べる感情が真に有るかと問われればそれは自身にも分からない事である。



全ての試合が終わったブロックAの観衆は、散り散りになって未だ試合の行われている他のブロックへと向かう。
時に真へと声を掛け、儲けさせて貰った等と言って行く人間もいたが真には何とも返す言葉が見当たらなかった。



「シンちゃぁんっ!!」



そんな時。
見覚えのある童顔の女が真の名を叫びながら走り寄って来る。
赤髪を何故かツインテールにし、その髪色を映えさせるかの様な黒いフード付きのコートを身に纏うその様相はまるでどこかの魔女。



「シンちゃんっお疲れ!やるぅっ、流石!天才!強い、プラチナ格好いいぃっっ!」
「……悪い、もう少し静かにしてくれ」



やたら興奮気味にそう喚き立てるアリィだが、頭の重い真にはその歓声が少しながら不快であるのも否めないのだ。



「あ、失敬失敬。興奮しちゃって、でもあの装備でよく戦えたねぇ。そんなに良いものだったかなぁ……ちょっと貸してね!ふむふむ……」



アリィは裂けた対魔のコートを真から取り上げると、何やら不思議そうな顔でそれを検分しながら手持ちのポーチから出した道具で裁縫を始めていた。


「……とりあえずこれでヨシッ!魔力の糸は高いけど特別に無料でお直ししておきましたっと。先行投資ってやつね、べ、別に惚れてるとかじゃないからね!勘違いしちゃダメだよ!」
「……ふぅ、悪いな。そう言えばこれもありがとう、助かったよ」



真はアリィの一人トークの九割を聞き流し、予定に無かった指貫グローブを着けた手を翳して礼を言った。
もしこれがなければデバイスを何処に持っておくかで悩まなければならなかった。
万が一あのロッカーにデバイスを置いておく事にしたのなら先程のハイルとの試合もどうなっていたか分からない。
そこは負けず嫌いの真である、場合によっては本気になっていただろう。


真はハイルの動きを思い出しながら、デバイス無しで戦った場合のシュミレーションを脳裏で描いていた。



「えぁ、えへへ……そ、その、せ、先行投資なんだから!惚れてないから!」
「さっきからそればっかりだな。まあいい、俺は他の試合を見に行くけどブロックBとDってどっちが近いか知ってるか?」


「え!あ、あぁと……そうねぇ、ここからだと同じ位だと思うけど……そう言えばうちからあと二人出てるんだったよね、すっかり忘れてたなぁ。で、どっちがどっち?」


「……フレイがB、ルナがDだ」



自分の店から選手が出ていると言うのにこの態度である。

昨夜の胸の件からアリィはわざと言ってるのでは無いかと思うが、敢えてそこをわざわざ指摘する気にもならない。
アリィはまたもやわざとらしく誰だっけと言った顔で首を左右に傾けながら悩む素振りを見せていた。



「うーむ……可能性的にはやっぱりおっぱいか……悔しいけど仕方ない。シンちゃんが行くって言うなら私はスポンサーだしね、行くか!あ、別にシンちゃんとランデブーしたい訳じゃないからね、勘違いしないでよね!」


「わかったわかった……惚れなきゃいいんだろ、でどっちだ」



いい加減面倒になった真がそう言って手を振りながら歩き出そうとすると、アリィは小声で惚れてもいいけどといいながら真の横にピタリとくっついて来たのだった。



















ブロックBでは今当にフレイともう一人の男が石台で対峙している所であった。
場外にいる選手は一人だけ。つまりこれは恐らく今がブロックBの準決勝と言う事を告げていた。



観衆のざわめきと怒声でフレイと対峙する斧を持った男の交わす声は聞こえない。だが見る限りフレイは膝を付き苦戦している様にも見えた。



「あーらら……結構やられてない?」
「お前の所の装備は大丈夫なんだろうな」



下卑た笑みを浮かべる斧使いの男、その猛進撃にフレイは力押しされている様であった。
フレイの装備はアリィの店にあった銀色の細剣と黒いベストにスリットの入ったスカートとおおよそ見る限りでは防御性能の欠片も感じられない。



「失礼な!あんな風に見えるけど仕入れに金貨50枚もかかった対魔対刃セットなんだからっ、おっぱいに貸すのは忍びない位……あ」
「切り裂かれてるぞ……俺のコートもだけどな。やっぱり不良品なんじゃないか?」


「そんな……アイツの……ただのバトルアクスじゃない。まさか神具……でもそんな物を貸し出せる店なんてあり得ない……もしかして自前?ズルだっ!違反だ!反則だぁぁ!」



何やら観客達の歓声に併せてそう横で喚き散らすアリィ。

どうやらフレイの相手は自前の特別な武器を持ち込んでいる様であるが、それに対し自分も同じ事をやっているアリィは何かが気に食わないらしい。



「なら俺達も反則だろう……しかしさっきから全く進展がないな」



神具とやらが何かは知らないが先程から男はフレイを場外にする事もなく、かといって一撃で決める様子もない。
ただフレイの衣服は所々切り裂け、色々な部分が露出を増やしていた。観客も男が斧を振るい、フレイの服が切り裂ける度に歓声を上げている。



「むむむ……低脳男共め……そんなにおっぱいがいいですか!みんなおっぱいの露出を楽しんでるんだっ、許せないっ、おっぱぁぁぁい!!」
「お前はどっちの味方だ…………」



アリィは周りの低脳男と同じ様な発言をしているが内心ではフレイが羞恥に晒されている事を怒っているのだろう。
真にしても見ていていい気分ではなかった。


だがこの状況では手を出す事も叶わない。
それに何故フレイは反撃しないのか、膝をついたまま悶える様な何かを必死で堪える様な表情。真にはそちらの方が気になっていた。





「フレイの様子がおかしい」
「…………んん、元々実力差があるんじゃない。あのやり方は気に入らないけど、神具を持てる位ならアイツもそこそこの実力者だろうし。でも、確かに動きが鈍いよねぇ……あ、分かった!アイツは反則変態男だから痺れ薬でも使ったんだ、そうだ、間違いない!変態反則野郎はおっぱいだ!おっぱぁぁぁい!」



アリィの発言は狂っているが、それは恐らくよっぽど自分の胸にコンプレックスがあるからだろう。


だが痺れ薬と言う発想は真に無かった。
万が一そうだったとしてもフレイには真の持つ酵素がある。細胞活性酵素ならば体が異常と判断する成分は分解するはずであるからそれはあり得ないはすだった。



一体どうなっていると言うのか、単に実力の差か。はたまた何かしらの反則技か、この世界の常識や物流に疎い真にはその真意が掴めない。
ただ男の戦い方は最早戦いと言える物ではなく、ただ観客を喜ばせる為の見せ物でしかない事が真を苛立たせていたのは確かである。



このままフレイが酷い目に遇うようであれば試合を強制的に中断させようか、この際トーナメント自体を潰してしまっても構わないだろうと真は考え始めていた。


随分な時間をこの世界で過ごしてしまったが為にここの常識に染まりつつあるが、元を辿れば自分はこの世界の人間ではない。

この世界の常識等知った事かと思い直していた。



結果的に全てを力で解決する。
そう言った思考がどうにも幼い真であるが、それは仕方の無い事かもしれない。


真にしてみれば幼くしてから力が全てだったのだ。
武力が真を救い、武力が真をここまでのし上がらせ、武力こそが真の人生の全てだったのだから。



「アリィ、もしあったらラベール花を後でくれるか」
「へっ、ラベール花?別にいくらでもあるけど……在庫は薬草用だから乾燥してるけど……プレゼントなら取りにいかないと……え、私に……そう言うのは言っちゃダメだってばぁ。もうプラチナ照れるしぃ!!」




最早勘違いもここまで行くとルナが可愛く見えて来る程だ。
だが在庫はある、ならば多少の暴走は抑えられるかもしれない。真はいざと言う時の覚悟を決め、フレイと男の戦いを見守った。

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