その科学は魔法をも凌駕する。

神部大

第66話 ブロックA決勝



翡翠色の長髪を揺らし、剣舞の如き美しい剣捌きで相手を圧倒するハイル=イグリス。


それを一つ一つ的確に同じく一本の剣で受けながら弾き返すもう一人の男。
ギルド員、階級Bだと紹介されていたボルグ=イフリエート。真の脳裏には既に二人の名など記憶に無いのだが、それでもその剣技の応酬には多少見惚れる物があった。




「中々……堅いね」
「ふん、青二才がっ!唸れ、ブレストマグナっ!」




「オォォットォッ!受けの一手だったボルグ選手がここで魔力機を発動ぉ!燃え盛る剣身、火焔の奔流っ……私も熱いです、少し下がらせて頂きますっ!」




ボルグの大剣は炎を纏い、ハイルもろとも闘技場を火焔の渦に包み込んだ。
視界は紅く染め上げられ二人の姿は見えない。
場外までその熱風は届き、観衆はそんな惨状に流石と顔を伏せる。



だがそんな刹那、耳をつんざく鋭い金属音が一つ響き火焔の奔流が瞬く間に消え去った。


石台には先程と立ち位置が逆転した二人の男。
正眼に大剣を構えたままのボルグと片手剣を一つ抜刀した状態で目を閉じるハイルの姿。
やがてハイルはゆっくりと目を開き居住まいを正しながらその刀身を腰の鞘に納めたのだった。



「ふ……ぐっ……貴様は……風使い、じゃ……」
「魔力の相性だけじゃ勝敗は決まらない、物だよ?」



ハイルはそう言い残すと、そのまま前のめりに倒れるボルグに振り返る事無く石台を降りていた。



「勝負ありィィ!勝ぉ者、ハイィィル……イグニスッッ!!」




勝敗は決した。
戦闘はほんの数分、一進一退かと思えた攻防はハイルのたった一撃でその幕を閉じたのだった。
恐らくハイルと言う青年は実力の半分も出していない、でなければこうもあっさりと戦況は反転しないだろう。


ふと翡翠色の長く垂れ下がった前髪を掻き上げるハイルと目があった。
不敵な笑みを浮かべるハイルを一瞥し、真はそれに対し特に何も返さず自分の順が回るのを待ったのだった。




「さぁっ!ブロックAの決勝に駒を進めたハイル=イグニス選手に対するのはどちらの選手だ!?続いて第二陣、天福商店より……怒濤の快進撃、ブロックA唯一の無手流使い!首折りのシィィンンっっ!そして此方も初出場、齢十三にして全ての魔力を味方に付けた此度最年少!結石屋、ユーロス=ヘッター!!」



観衆から黄色い声援が上がる。どうやらユーロスはここまでの試合で女性観客を味方に付けていた様だ。
所々真を呼ぶ声も聞こえるが、こちらは最初の戦闘が根深く印象付けられているのかユーロスを殺せ等と物騒な声援になっている。


真は先に石台へ上がり、背後を歩くはずのユーロスの気配を感じながら石台の中央でゆっくりと身体を反転させて試合開始を待った。




やがて青髪の少年ユーロスは観衆への挨拶を終えると、真へと一度微笑みかけ魔力機であろう杖を構えて静止する。




「さぁっ!では始めましょう、試合開始ッッ!」



風の烈刃ウィンドソニックッッ!」



ピエールの試合開始の合図が終わるとほぼ同時、ユーロスの言葉に杖先端が輝いた。
真はそれにいつかの盗賊達が放った魔力とやらを思い出し、咄嗟に上空へと飛び上がる。




「これはユーロス選手っ、開始早々お得意のウィンドソニックを発動ぉっ!だがシン選手、逸早くそれを察知しとてつもない脚力で空中へ避難しましたぁっ!」




ふとユーロスは上空へ舞う真を見上げ口角を上げていた。



「……作戦完了。風の烈刃!」



(成る程な)




上空へ飛び退いた真に逃げ道は無い。
それを最初から狙っていたかの様にユーロスは再び魔力を発動させた。
見えない魔力が真へと迫る。


反発応力を上手く利用し空中移動して避けるか、それも出来ない事は無い。だが見えない魔力、それは真の童心を擽っていた。


ここで一つ、受けてみるのも一興か。

相手は殺す気の無い参加者の少年、そしてこの世界で真がまともに受けた魔力は盗賊達が放ったあの程度の炎弾のみ。


あの時は見知らぬ力に拍子抜けしたが今度はどうかと。



(少しは期待させてくれよ)



真はユーロスの放った見えない魔力をその一身で受けた。




「のぉぉっとぉ!これは直撃ィィ、風の刃が真選手を切り刻むっっ!」




やがて鋭い風圧が一頻り止んだ時には真は石台へと着地していた。風の魔力、何割程度の力を出してこれなのかは真には分からない。


剥き出しの頬、グローブへの裂傷。メッシュアーマーに傷は無し。やはり期待外れもいい所だった。
殺す気は無いとは言え、これでは子供の遊びも良い所だ。

真はやがて塞がる裂傷を意に介する風もなく、もうこの下らないトーナメントに興味を失っていた。



「……まだやれそうだね、流石に強そうだもんね」



ユーロスの言葉に真は、若いながらに人を見る目があると感心していた。



「あぁ、だが悪いな……負けず嫌いなんだ。勝ちを譲る気は無い」
「ふふ、面白い事を言うんだね。当たり前だよ、じゃあ次!炎の光弾フレイムボルトっ」



会話もそこそこに、またも今度は火炎の球が真に向かって飛んでくる。それはワイドの街の盗賊達が見せた物と同じ。


真はユーロスのそれが再び何かの陽動だろうと感じたが、これ以上この試合に求める物は無いと判断していた。
幾つも放たれる火球を避ける事無く全てデバイスを入れた右手の甲で叩き落としながら真はユーロスへと肉薄する。



「そ……んなっ、かふァッ!?」



驚愕の表情を浮かべるユーロスの顎先を真は左の手刀で瞬時に打ち抜いた。
そのままユーロスは力無くその場に崩れへたり込む。

そんなユーロスを肩に抱え、真はその身をゆっくりと場外へと降ろしてやった。
真は審判のピエールに向かって手を上げると試合が終了した事を伝えた。




「……こっ、これはまたしてもシン選手の圧倒的な勝利ィィ!何とも私には何がどうなっているのか解りません!!恐ろしや無手流使い……これでブロックA決勝戦は天福商店シン選手と星白屋ハイル=イグニス選手に決まったぁ!ここで連戦となる二人はだがしかしほぼ無傷っ!これは中々ハイレベルな戦いが期待出来るかぁ!?」




真はそのまま石台の中央へと歩みを進めると、翡翠色の長髪を靡かせたハイル=イグニスが涼しい顔で石台へと上がって来るのを見ていた。




「やっぱり君が来たね、お手柔らかに……」



そう言ってハイルは石台中央まで歩み寄ると真へと手を差し出す。試合前の挨拶のつもりか、だが真はその手を掴む事無く漆黒の指貫グローブで包まれた手を軽く上げ、宜しくとだけ答える事にした。



敵と握手を交わす等真にはあり得ない。
その手に何が仕込まれているか分からないからである。


過去に真はそれで神経麻酔薬を塗り込んだ針を刺され、ケチな試合を強いられる事になった過去があったのだ。



「用心深いんだね……そんな真似はしないさ、でも流石だ」




「さぁっ!皆様ッ、お待ちかねっっ!ブロックA本日最終、決勝戦を始めさせて頂きますっ。勝つのはどっちだ!無手流使い首折りのシンか?剣舞魅惑のハイルか?さぁBet、Onッッ!」




突然今までと違う事を叫びだす実況ピエール。
だが観衆はここぞとばかりに手を上げ、練り歩く係りの者らしき人間から色のついた紙を数枚受け取っている。
ベットオンと言う言葉とこの状況。

恐らく賭け事がされているのだろうが、こんな公式な場でそれが許されているのか。そんなどうでもいい疑問が頭に浮かぶ。



やがてピエールの元に戻った係りの人間。
ピエールはザルの様な容器に集められた金銀の硬貨を持つ係員と何やら言葉を交わしながら再び拡声器を口許に寄せた。




「ベーーットエンッッ!選手シン、5。選手ハイル=イグニス、4で決まりだぁ!」



観衆から歓声とブーイングの両方が叫ばれる中、ハイルは楽しそうに表情を崩し苦笑いした。



「僅差で負けちゃったか、4倍だってさ。客にはあまり美味しく無い試合だよね?」
「決勝だけ賭け事か、通りで客が集まる訳だ」



この試合は選手と商人だけでなく、ギャンブル性も持ち合わせた当に最高の娯楽となっている様であった。
フレイは知っているのか分からないが父親は中々考えた物だと感じる真であった。




「さぁ!勝負の行方は神のみぞ知るっ、本日最後のビックイベントっ、試合ィィィ開始だぁっ!!」




「さぁ、行こうか」
「あぁ」





真とハイルの戦い、その火蓋は今切られた。

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