その科学は魔法をも凌駕する。

神部大

第62話 交際開始?




――どう?




視界を完全に埋め尽くす暗闇にぼんやりと見える羅列された座席。
どれ程高い天井なのか、そこに散りばめられた幾つもの光の粒が唯一の光源なのは直ぐに分かった。



「見とれて声も出なくなった?」



厳しい武闘訓練終わりの真は被検体管理官である夛田夏樹に連れられ、シールド第二区域にある自分のお気に入りだと言う施設に案内されていた。


「……何かと思えば何だ?ここは」
「プラネットルームって言うのよ。宇宙観測映像をそのまま撮しているの、凄いと思わない?宇宙にはこんなに星があるの。ほら座って、その方が宇宙感が味わえるわ」


「俺は別に宇宙だとかに興味はな……おぃっ」



真は訳も分からず並んだ座席の一つに半ば無理矢理沈められ、その隣に夏樹も同じ様に身体を沈めた。
背凭れが倒れており視線は自然と光源となる天井へと向かう。幾つもの光はそれぞれ輝きが違い、大きさ形も僅かながらに個性がある様だった。


中でも一際真の目を惹いたのはモヤモヤと明るい輪のように光る物だ。



「……黙り込んじゃって、興味無いんじゃないの?でも意外と綺麗でしょ、今じゃ星なんて映像を通して見る事しか出来ないけどそれでも綺麗よね」
「あの煙は何だ……」


「煙?もしかして残骸星雲の事かしら、あれは星じゃないわ。ガスとかチリとかそう言った物が他の星の光で輝いて見えるの、あの星は……亡くなったのね」



夏樹は何処か寂しげに真の質問にそう答えたが、真には何の事だか全く理解できなかった。


「無くなった?星は爆発でもするのか」
「そう……星にも寿命はあるの。でもあの星が死んだのは随分と昔」
「何故分かる?ついさっきかもしれないだろ」


「ううん、恐らくあれは何億光年先にある。だから私達が生まれるそれよりずっと前に死んだのよ、それを私達が今こうして見ている。不思議よね、映像何かじゃなくてこの目でそれを見れたらもっと不思議な気持ちになれそう」




この地球で空に星と言う物が見える事は無い。だが過去には直にそれを目で見える時代があったと言う。
真は元々こんな灰色の空を見上げる事等無かったし、シールド区域内で生存する事になってからは尚更そんな物に興味は無かった。
だからなのか、真には夏樹の言葉の意味が欠片も理解に及ばないでいた。



「悪いが全く分からない、距離がとてつもなくあるって事か?」
「そう……もしかしたら私達の地球が滅びて爆発したらそれを他の星の誰かが今の私達みたいに見ているかもしれないわね」



滅びたら。
真にはこの地球が既に滅んでいるとしか思えなかった。
諸外国も何れはこの日本のデスデバッカーに支配されるのではないか、そして行きすぎた科学は生命を断つのに十分過ぎる物だ。


だが真にはそれすら興味もない。
真の人生は既に終わっているのだ、今更日本が滅ぼうが、日本が世界を滅ぼそうが、ましてや地球が消える等と言う話はどうでもよかった。



「ふう、あまり興味の無い話だな。俺はただ、強くなれるならそれもいいと思っただけだ、今死んでもそれならそれでいい」


「真…………貴方は、何故強くなりたいと思ったの?力が、武力が何の役に立つの?」




夏樹のそんな質問に真は思わず過去を振り返った。


何故自分は強くなりたいのか。
それは今となれば何となく、それしか道がなかったから。


何故、それは生きるため。
その前はどうだったか、思い出すのも億劫。


ただ日本は弱者を見捨てた、そのせいで真は一人になった。
それからはただ暴走する機械と同じ様に力を振るって生きていた。そうしているうちにただ強くなる事、それだけが真の人生と言っても良かった。


だから真にとって強くなると言う事それ自体に最早理由はいらなかったのだ。



「お前には分からない……俺にはそれしかない、ただそれだけだ。だからあんたらは俺を好きなだけ弄って強くしてくれればいい、それで死んだらそれはそれだ。どうでもいい」


自棄にやっていると思われてもおかしくない様な真の言葉に夏樹は返す言葉が見当たらなかった。



「……真」



だが夏樹は真をただ不憫だと思っていただけではない。


夏樹も両親を失っていた。そんな中でも唯一自分の大切な人、信頼していた兄がいたからそれでもこうして生きている。
だがそんな兄も過去に真と同じく力がなければと、そう言って自分の元を離れていった。


夏樹はもう大切だと少しでも思える人を失いたくは無かった。
真には生きる目的が無い、夏樹はそんな真へ一つの提案をする事に決めた。
それは真の為でもあり、そして自分の中に芽生える僅かな恋心を満たす為の方法。




「真、私を守って。貴方の人生の目的を私に……下さい」
「……あ?何だよ、それは。何から守るんだ、他にもいるだろ、被検体は」



真には夏樹が何を言いたいのか分からなかった。端から見れば男女の交際に使われる告白の様だが、こんな世界で、こんな状況で、被検体と管理者の間にそんな物があるはずがない。


「私は真面目よ、駄目?私じゃ不満?顔もスタイルも別に悪い方じゃないと思うんだけど……」
「そう言う話じゃ、何で俺なんだ」


「好きに、なったから、でしょ。恋の理由なんてそれだけよ」
「俺は被検体だぞ。お前達の実験材料だ、それに恋するって……やっぱり科学者っての変わってるんだな」



夏樹にも分からない。
だが恋とは総じてそんな物である。夏樹は自分に素直にだった、ただそれだけ。

だが真ならば、自分の知りたい事を知る為に、そしてそれを止める為の力になってくれるかもしれないとそんな打算も僅かながらに持っていたのもまた事実である。



「で……答えは?私を守ってくれるの、くれないの?」



「はぁ。何から守るか知らないが勝手にしろ、俺はあんたの指示に従う。今はそう言う立場らしいからな」
「……職権濫用って所?でもなら遠慮無く使わせて貰うわ」




真と夏樹の不可思議な交際はそんな星空の下で誓われたのだった。




















(…………夏樹)



真は一人宛がわれた宿屋の部屋でいつかの日を思い出していた。
窓際に嵌め込まれたガラス窓を開け放てばひんやりとした空気が部屋中にゆるりと流れ込む。
真はそれを感じ取る事無く、ただ夜空に広がる幾つもの星屑を直に視界で捉えていた。



フレイの突然の告白。
ルナに不可思議な好意を持たれている事は感じていたがまさかここに来てフレイまでもが真に対しそんな事を言ってくるとは考えもしなかった。


真にとってフレイは大切な仲間である。
好きか嫌いかで答えればそれは当然好きと分類されるであろう感情も、あれだけ真っ当に告白されると答えに行き詰まる。


何なら珍しく動揺していたのかフレイに何と返事を返したのかすら覚えていない位であった。



(これはどうしたらいいんだ、夏樹……指示しろよ)




真にとって夏樹は恋人であった。
最初こそただの業務命令の様な物だったが、守れと言われたあの日から真はずっと夏樹の側に居るようにした。

そんな日々の繰り返しに真はいつの間にか夏樹へ対しての恋心を本当に抱く様になっていた。


世界が平和になったら結婚しないかとそんな夏樹の戯れ言は、あの日自分が全てを失ったと再び思わせられた夏樹の死は、今でも真の中に少なからず小さな小骨となって胸に突き刺さったままである。



真は考えるのを止め、眠れない身体をベッドへ沈めたまま視界をシャットアウトさせる事だけに注力したのだった。


















――――翌日。


相も変わらず真は朝方から起き部屋を出ると、廊下に設置された申し訳程度の丸椅子に腰掛けるフレイの姿を視界に留めた。
昨日と同じ服装だが髪型がいつものポニーテルではないフレイは、するりと片側の肩に栗色の髪を流すと出てきた真に気付いたのかハッと顔を上げ小走りに近付いて来る。



「あ、その、お、おはよう……シン!相変わらずは、早いな!」


「……あぁ。どうしたんだその髪型、結ばないのか?」



真は何処か余所余所しいフレイに、少しばかりの気まずさを感じながらも普段と同じ様に話し掛けた。



「あっ、こ、これか……ど、どう……かな?男は好きらしいと聞いたのでやってみたんだが……いや、そのシンが前の方がいいと言うなら直ぐに――――」
「いや…………その方が、その、いい」




何とも返しづらい問い掛け。
真としては否定する訳にもいかない、それに素直にそんなフレイへ色気を見出だしたのもまた事実であったからだ。



「そ、そうか……よかった。そ、そうだシン……カフェインでもどう、だ?その、ここでも出してくれるらしいんだ」
「ん、あぁ……じゃあ取ってくる」


「あぁ、いや待て!私が持ってくるからシンはそこで、座っていてくれ」



フレイの様子は控え目に見てもおかしかった。
動揺していると言うか、ふわふわしていると言うか、何ともぎこちないシンへの態度。
余程昨日はおかしな事を言ってしまったのかと真は思考を巡らせる。



「なぁフレイ、何でそこまでするんだ?いつものままのお前でいいだろ」


「そ、いやだが、その…………恋仲になった男女ではやはり女が男の世話をするのが当たり前だ。シンがそう言ってくれるのは、その、嬉しいが」
「恋仲…………?」



「シン……その、ありがとう。私の様な者を受け入れてくれて……わ、私は、シンの為なら何でもする。シンは、その、側に居てくれればいい」




一方的に語られるフレイの言葉。
何かが噛み合っていない、そう感じたが真はそんなフレイの様相が可愛らしく見え釘付けになってしまっていた。



「ちょっ、と…………待て」
「いや!いい!私が持ってくるから真は、そこで!大丈夫、持ってこれる、心配するな」



そう言って何処か動きがおかしいフレイは宿屋のフロントまで長い髪を揺らしながら駆けていった。
真は呆然とその後ろ姿を見送りながら、先程までフレイが座っていた椅子へと腰を下ろす。


まだフレイの温もりが残る丸椅子、目の前に設置された小テーブルで真は頭を抱え必死に昨日自分がフレイに返した筈の言葉を思い出していたのだった。

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