その科学は魔法をも凌駕する。

神部大

第59話 おっぱいとちっぱいと




三人は曲がりなりとも正式な登録章であるそれを露天商女から受け取り、トーナメント本会場にて出場登録を行った。後は指定された宿屋にて一夜を明け、明日を待つだけとなる。


トーナメント表は当日日が上ると同時に貼り出され、その後上空に花火の様な物が打ち上がるまでの間にそれぞれ一回戦となる会場に向かう事になる様である。装備品に関しては各自本会場内で受け取る手筈だ。


宿屋はファンデル王都で利用した宿よりも格段高級感と広さがある、普通に一泊すればそれこそ本当に銀貨が飛んで行く様なレベルの場所。そんな場で無料宿泊出来るのは普通の冒険者ならそれだけでも出場する価値があるとも言える。



「……当時はこんな制度は無かったんだがな。これで参加者の底上げを狙っているのか、父もよく目敏い事を考える」
「広いですよね……部屋も綺麗でした」



真達は一度荷馬車へ戻り必要な衣服を持ってラフな格好に着替えた後、宿屋のロビーに集合していた。
ラフな格好と言ってもルナの服装にそれほど違いは見られない上、真は汗もかかないので着替えの概念がない。
つまりはフレイのみが胸元の緩やかな薄生地のシャツに着替えて一人ラフになっていると言う状態だ。して三人がこうして再びロビーで落ち合っているのは単純にこれから夕食を済ませに日が沈んだザイールの街へ繰り出す為である。



「じゃあさて行くとしようか、何か食べたい物はあるか?」


そうルナと真に尋ねるフレイ、だが真としてはこの世界の食べ物の種類を知らない。むしろ食べ物と言う物自体が真のいた地球では殆んど存在せず、此方に来てからもファンデル王都の宿で食べた物しか知らない真にとってその問い掛けは思案に余る物であった。



「私は……何でも。シン兄様は何かありますか?!」
「……いや、これといって無いな。この街はフレイが詳しいだろ?好きに決めてくれ」


「何だ連れないな……いや、と言ってもすまない。私も食事はいつも屋敷だったからな……そこまでこの街に詳しい訳じゃないんだ」



それならいっその事実家で夕食にしたらどうだとも言いたくなった真ではあるが、それを自分の口から言うのは完全にヒモ発言である様な気がした真はそのまま口を閉ざした。
かの天然娘であるルナでさえそんなフレイに閉口していた位である。



「……受付で何処かお勧めがないか聞いてくる事にする」



黙り込む二人に気まずくなったのか、フレイは頬を掻きながら宿のフロントへ一人向かおうとしていた。そんな刹那である。



「――――おっ、居た居ました!最高にナイスタイミング、私ってばプラチナツイテルっ!」



廊下を小走りに走りながら叫ぶ赤髪の少女、肩には大きめの荷を担ぎ満面の笑みで此方に近づくのは数刻前に登録した露天商の少女であった。



「……ん、何だ露天商人か。何しに来た、装備品なら直接会場に届けるんだろ?」
「ん、お、オッパイ姉さん。そんなに自分の胸が大きいからって態度まで大きいと男性に好かれないよ!その感じだと彼氏もいないでしょ?」
「なっ!?だれがおっ……く、大きなお世話だ!そ、それに懸想人は…………ってだから何しに来たんだっ」



「ふぅぅん……ま、いいや。そうそう、お兄さんの装備品を預かり忘れててね。オッパイとそっちのちっパイの杖の話ですっかり忘れてた!」



いきなり登場するなりフレイとの小競り合いを一頻り終え、露天商女は肩に背負った毛皮の風呂敷包をその場に広げ出す。


フレイは剣に胸当てにグリーブと一式この露天商にある物を使う事になっており、ルナも杖以外はこの娘の商品で出場する。
真だけが何も要らないと言う事だったが、素手と言ったので私物登録すべき物を預かり忘れていたと言う事だった。



「俺はこれしかないからな、預られても困る」


「……え、お兄さん一張羅?……くんくん、でも臭くないね、毎日洗ってるの?いやでもやっぱり年頃の男ならファッションにも気を使わないと女子に好かれないぞっ!でもほら、そんな事もあろうかと思って持ってきました。ここから好きなの選んでちょーだい!」



広げられた毛皮風呂敷の上には先刻見たのとはまた違う、どちらかと言えば男物であろう衣服の類いが数点。
だが真としては自らの着用している地球の科学技術が施されたメッシュアーマーと合金製ブーツを一時だとしても預けるのは気が引けていた。


そんな中一点の漆黒に染められた外套が畳まれているのを見つけ、それを手に取り広げてみる真。


「面倒だな……この服の上にこれを装備するのは駄目なのか?」
「ん、おぉ!リヴァイバル王国製対魔のコート。あらら、こんな物もあったんだ…………っあ、お、お目が高い!うんうん、いいんじゃないかな。あ、じゃあこれで登録しとくねぇ……と、あとブーツはどうする?」



自分の所で扱う商品を把握していない露天商女は続いてブーツの話題へと無理矢理切り替える。
真としてはブーツを預ける事にも気が引けるが、トーナメントではこのブーツがあった方が便利とも言えた。




結局真は地球の科学技術が施された合金製ブーツを仕方なく露天商女に預ける事にし、替わりに簡単に履ける灰色の革靴に履き替えたのだった。
だが実際履き替えてみるとそれは異常に軽く、反発応力を発生させずにいる合金製ブーツがどれだけ真の足枷になっていたのかを実感させる物となった。



「……よし、これでオッケーね!じゃあ明日はしっかり成績を残せる様たくさん食べて、いっぱい寝てちょーだいなっと!」



露天商女は毛皮の風呂敷を纏め肩に担ぐと、そう言ってふざけた敬礼を見せる。



「……おい、ところでなんかいい店知ってるか?」
「えっ……あ、お兄さん達もしかしてこれから夕食!?……何だ、それならそうと早く言ってよ!この街は私の庭っ、任せて!人気のお店あるから連れてって上げるよ!え?そんな悪いよ……ええ、うんまぁ、そこまで言うならご馳走になろうかなぁ……じゃあ行こっか!」



「ちょ、お……おいシン!」
「ん、あ、いやな…………ふぅ、すまないフレイ。また金を貸してくれ」




ついでと店を聞こうとしただけの真であったが、何とも都合よく話を持っていかれ否定の余地も無く場が流れてしまった。


「いや金は別にいいんだが…………まぁ、いいか」
「…………ちっパイ」



場違いな言葉を一人呟くルナを呼び、真とフレイは溜め息混じりにその露天商女の赤髪を追うのだった。


















アリィ=マカフィスト。
童顔だが年齢20で只今彼氏募集中。
それがこの露天商女の詳細である。


巷で人気だと言う汚ならしい小居酒屋に連れてこられるなり勝手に自己紹介と注文を始めるアリィに三人は完全に気圧されていた。



「……確かに人気なんだろうが、な?」
「あぁ、庭だと言う位だからもう少しマシな所に連れていってくれるんだと思っていた」


「何よ、文句あるの?ここのお酒は安いし食べ物もアテからガッツリまで全部美味しいんだから。クズレ冒険者でも安心安全のお店だよ!?」



「……そういえば前にもアイツが言っていたそのクズレとかアガリってのは何なんだ?」




以前に散々真達を馬鹿にし、バジリスクの犠牲になった元フレイの仲間。
名前はよく思い出せないがあの男の口振りから察するにあまりいい言葉では無いように思える。だが再びこの様な商人である童顔女も普通に口にすると言う事からこの世界の常識ならば知っておきたいと感じた真である。



「シン、気にする事はない。誰が呼び始めたか知らないがギルド員の中でも階級がD以下の人間を実力もやる気も無いとしてクズレと呼ぶ輩がいる、上は反対にアガリ……シンもルナも成り立てなんだから当然の事だ」


「あら!?ごめんねシンちゃん。てっきりシンちゃんもオッパイもアガリなんだと思って……まさか成り立てだったとはねぇ…………こりゃホントに失敗だったかな」
「私は…………」



ルナはどうやら最初からこのアリィと言う女にD級以下と思われていた様である。
つまりは目利きをしながら客を選んでいたが、クズレだったと分かった今、途端にテンションが下がったと言いたい訳なのだ。
真はとりあえず馴れ馴れしく自分の名を呼ぶアリィと言う女に1つだけ訂正を入れてやる事にする。



「俺とこいつ……ルナは成り立てだがフレイはB級だから安心しろ。過去に準々決勝まで行ったらしいしな」
「え、えぇっ!?オッパイが……てっきりシンちゃんがBの3、オッパイがCの1か2でちっパイちゃんがD3位だと踏んでたんだけど……うーん、私の目も錆び付いたかなぁ」


「……おい娘!さっきからお……おっぱいおっぱいともう我慢ならないぞ。私がお前に何かしたかっ!?私にはフレイと言う名があるっ、いくらスポンサーだからと言ってその態度はどうなんだっ!?仮にも商人なら明日の客になる可能性がある人間の相手には少しは敬意を払え。いいか、私の名はフレイ=フォーレスだ!よく覚えておけ、この貧乳娘がっ!」




珍しくも感情的になるフレイの言葉の羅列とおっぱいと言う言葉に周りにいる連中が皆一斉にフレイに振り返るが、言われた当の本人、アリィは顔を真っ赤にして席を立ち上がった。



「いっ……!言ったわねぇぇ!ひ、貧乳ってぇ…………くっ、ぐっ……う、うぅ……どうせ……どうせ私は……ちっパイよ……どうせ、どうせ……うぅ、うぇぇぇんっ!!」



アリィは強気な態度から一変、自らの胸とフレイの豊満でありながらそれを隠そうともしないその服装を憎々しい目で見比べ泣き叫び出したのである。



「ちょっ……お、おい」


「わ、私も……小さいけど頑張ってるから大丈夫!まだ大きくなるかも……」
「――うるさい、ちっパイ!私はもう20なのに全然大きくならない。ちっパイは死ぬまでちっパイなんだっ、うぅ……あぁぁん!!」



――――ガーーン!



「…………はぁ。女心ってのは全く」



叫び散らしておいて周りの反応を気にし出すフレイ、貧乳に悩み泣き叫ぶアリィと効果音が聞こえる程何かに落ち込んだルナを真はただ冷ややかに傍観していたのだった。

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